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おっさん、異世界に慣れる

おっさん、迷宮を突っ走る

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 クレアさんを抱えた俺は、全速力で都市を疾走する。

 道行く人に当たらぬように、屋根や壁などを伝って。

 そして、あっという間に迷宮に到着する。

「クレアさん、着きましたよ」

「はぁ、はぁ……し、死ぬかと思った」

 ふと気づく、クレアさんが思いきり抱きついていることに。
 当然、あれやこれが当たったり、良い匂いがしたり。
 ……って、そんなことを考えてる場合かっ!
 ただ、お陰で少し冷静になれたか。

「すみません、加減ができなくて」

「い、いや、平気だ。しかし、あれが本気の走りか……よし、では降ろしてくれ。おかげで、傷も塞がった。こっからは、私が案内しよう」

「はい、お願いします。クレアさんの身は、俺が守りますから」

「う、うむ、しかし私だって……」

「いえ、今は装備も充分ではないので。蹴散らします——何が出てこようと」

「頼もしい限りだな……わかった、私は案内に徹しよう」

 そうして、俺たちは迷宮へといき、すぐに一階のワープゾーンに入る。
 そこは地下五階、つまりボス部屋というやつだ。

「ここのボスの注意点……いらんな。ただ、ボスを倒せば増援は終わる。私は防御に徹するので、ソーマ殿は気にせず暴れてくれ」

「わかりました。では、行きましょう」

 重厚な雰囲気の扉に近づくと、自動で開き……中に入ると扉が閉じる。
 そこはだだっ広い白い空間になっていて、見渡す限りのゴブリンと一際目立つ鎧をきたゴブリンがいた。
 あれがボスか……さあ、ささっと片付けてソラの元に向かうとしよう。



 ◇

 ……なんという男だ。

 開始早々に、ゴブリンソルジャーに突っ込んだかと思えば……。

 刀を抜いた時には、もうゴブリンソルジャーの首が落ちていた。

 そのまま刀を振り回し、あっという間にゴブリンも倒してしまったし。

「クレアさん、扉が開きましたよ」

「あ、ああ」

「では、案内をお願いします」

 そうだ、呆けてる場合か。
 私のミスで攫われてしまったのだ、気合いを入れないと。

「うむ、任せてくれ。私が後ろから指示しよう」

「了解です」

 私は脚に力を込めて、足手纏いにならぬように出来る限り速く走り出す。
 そして、洞窟のような迷宮を進んでいくが……。

「グァァ!」

「邪魔だ」

「グゲェェ!」

「退け」

 ……コボルトとはいえ、一瞬で片付けてしまう。
 その華麗な動きは、美しさすら感じる。

「クレアさん! 次は!」

「ここから右回りに迂回した先に階段がある!」

「そうなると時間がかかりますね……この壁を壊せば早くないですか?」

「なに?  か、壁を?」

「これって破壊不可能なんですか? もしくは、ダメとか」

「い、いや、破壊はできるとは聞いたことがある。それに、再生するのでダメということもない」

 しかし、それには上級魔法などを使うとか。
 多分、生身の人間では無理だろう。
 そう思い、声をかけようとした瞬間……言葉を失う。

「……へっ?」

「おっ、斬れた。それでは、行きましょう」

「な、何をした?」

 ちょっと目を離した隙に、横にあった壁がなくなっていた。
 まるで、何か鋭利なもので切り取られたように。

「なんかいけるかと思ったので、刀で斬ってみました。これで時間短縮ができますよね?」

「う、うむ……そこを曲がればすぐに階段があるはずだ」

「了解です」

 ま、まさか、壁を切り裂いてしまうとは……。
 ソーマ殿の強さは知っているが、よく武器が耐えられたものだ。
 そんなことを考えていると、すぐに階段に到着する。

「よし、見つけた」

「そーソーマ殿、刃こぼれとは平気なのだろうか?」

「ええ、平気みたいですね。本当に、良い業物を頂きました」

「そ、そうか」

 そういう問題ではない気がするのだが……。
 いや、今はどうでも良い。
 私も、ソラを助けることに専念しよう。




 その後も、ソーマ殿は走り続ける。

 魔物や魔獣が出るが、一瞬で片付けて。

 時に壁を破壊し、罠を物ともせずに。

 迷宮探索に苦労していた私にとっては、信じられない光景だった。

 そして、私の予想より早く地下10階前に到着する。

「ここを降りれば、ソラがいるんですね?」

「あ、ああ、この先の安全地帯にいるはずだ」

「時間は平気ですか?」

「うむ、まだ日付は変わっていない。昼過ぎにあそこを出てから五時間というところだ。普通なら、丸一日か二日かかるというのに……」

「ならば、相手も油断しているはずですね。ここからは静かに行きます。ソラの安全が最優先ですから」

 言葉とは裏腹に、その目からは静かな怒りを感じ……思わず震えそうになる。

 ブライよ……喧嘩を売る相手を間違えたな。

 お主は竜の怒りに触れてしまったようだぞ。
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