上 下
48 / 64
おっさん、異世界に慣れる

おっさん、疎外感を感じる

しおりを挟む
俺がD級冒険者になってから、早一週間……。

迷宮に潜ったり物件を探したり、ソラと遊んだりクレアさんと稽古をしたりと、充実した日々を送っていた。

そんな日々を過ごしていると、ふと気づく。

……料理がしたいと。

「これは発作だな。いや、職業病ともいうか」

「お父さん?」

「ソーマ殿? どうしたのだ?」

「いえ、料理がしたいなと思いまして」

「ん? 料理ならしてるではないか。この間も、屋台をやってきたし。なんだかんだで、良い売り上げになっていると思うが」

クレアさんのいう通り、屋台はやってるし日頃から料理はしている。
ただ……本格的な料理とは言えない。
あくまでも屋台で出来る範囲内だし、使える材料も限られている。
商店街に行けば、色々買えるが……家を借りる資金を貯めたいし。

「そうなんですけどね……もっと、色々な食材を使ってみたいかなと」

「ふむ、そういうことか。では、北の門を出た先の森でもいくか?」

「えっと?」

「ソーマ殿が以前行った森は、南門を出た先にある低ランク冒険者用の森だ。そうではなく、中堅冒険者用でもある森が北の門を出た先にある」

「そこには食材があるのですか?」

「魔物はもちろんいるが、果物や魔獣もいるぞ。迷宮は実入りが良いが、そういう外に行く依頼も受けないとな」

確かに、クレアさんのいう通りか。
最近は、安易に稼げるからと迷宮ばかりに行っていた。
お陰で、地下5階のボス前まで来たが……ここらでストレス解消のために外に行くか。

「そうですね……では、そうしてみます」

「うむ……そうだ、ミレーユも用事でいないことだし……私と一緒に出かけるか?」

ミレーユさんは、魔法使いとしての助っ人のため冒険者達から指名依頼を受けていた。
 迷宮に行っているため、二日間ほど帰ってこないそうだ。

「それは良いですが、ソラが一人になってしまうかと」

「お父さん! わたし、一人でも大丈夫!」

「うーむ……しかしなぁ」

最近ようやく他人にも慣れてきたとはいえ、長時間一人にするのは心配である。
奴隷ではないとはいえ、相変わらず獣人の扱いは良くないと聞くし。

「別に連れていけば良いさ。はっきり言って、オーガを倒すソーマ殿の敵になりそうなやついない。言い方はアレだが……ハイキングとでも思えば良い」

「なるほど……ソラ、お父さんとお出かけするか? 気分転換にたまには外に行くのも良いだろう」

「……付いて行って良いの?」

「ああ、もちろんだ。ソラのことは、何があってもお父さんが守ろう」

「えへへ……うんっ!  ……あっ、でも……」

その視線は何故か、クレアさんの方を向いている。

「ん? どうしたのだ?」

「わ、わたしも行っていいですか?」

「無論だ。何を今更言う」

すると、たたっとソラがクレアさんに近づき耳打ちをする。

「えっと……その、邪魔じゃないかなって」

「……なに?」

「ミレーユさんから……聞いてて」

「な、なっ!? わ、私はそんなつもりはない!」

急に顔が赤くなったクレアさんが大きな声を出す。

「ご、ごめんなさい!」

「い、いや、私の方こそすまない……コホン、とにかく気にしないで良い」

「えへへ……じゃあ、お世話になります!」

「……どうしたんだ?」

「「なんでもないっ!!」」

二人して振り向き、同じセリフを言った。

仲が良さそうで何よりだが……お父さんは、何やら疎外感です。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

アラフォー料理人が始める異世界スローライフ

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。 わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。 それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。 男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。 いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

続・拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜

ぽん
ファンタジー
⭐︎書籍化決定⭐︎  『拾ってたものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』  第2巻:2024年5月20日(月)に各書店に発送されます。  書籍化される[106話]まで引き下げレンタル版と差し替えさせて頂きます。  第1巻:2023年12月〜    改稿を入れて読みやすくなっております。  是非♪ ================== 1人ぼっちだった相沢庵は小さな子狼に気に入られ、共に異世界に送られた。 絶対神リュオンが求めたのは2人で自由に生きる事。 前作でダークエルフの脅威に触れた世界は各地で起こっている不可解な事に憂慮し始めた。 そんな中、異世界にて様々な出会いをし家族を得たイオリはリュオンの願い通り自由に生きていく。 まだ、読んでらっしゃらない方は先に『拾ったものは大切にしましょう〜子狼に気に入られた男の転移物語〜』をご覧下さい。 前作に続き、のんびりと投稿してまいります。 気長なお付き合いを願います。 よろしくお願いします。 ※念の為R15にしています。 ※誤字脱字が存在する可能性か高いです。  苦笑いで許して下さい。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...