上 下
42 / 64
おっさん、異世界に慣れる

おっさん、ソラから学ぶ

しおりを挟む
まず思ったことは……異世界に刀があるのかということだった。

鞘から引き抜いてみると、おじさんが稽古場で使っていた刀と遜色ない。

刃渡りは60センチ前後、直刀でもない正真正銘の刀タイプ。

俺の身長的には太刀でも良いが、この刀の方がしっくりきそうだ。

「良いですね……ただ、先ほどの言い方から珍しいのでは?」

「うむ、珍しくはある。ワシの師匠に当たる方が、若い頃にとある人族から依頼を受けたらしい。ただ、この師匠は知らなかったものらしく、中々作るのは大変だったと聞いておる。依頼人の意見をもとに、何とか作り上げたとか」

……その人は、昔の転移者だったのかもしれない。
もしくは、この世界の何処かにそういう文化があったとか。
ただ、それを知る術はない。
ドワーフの寿命はエルフほどではないが、150年くらいと聞いている。
人族が生きていることは難しいだろう。

「そうなんですね」

「うむ。しかし、その作りと完成美は見事だったと。ただ、作るのが難しい上に使い手がいなくての。ワシも師匠に習って作ってみたが、残ったのはこの一振りだけじゃ」

日本刀を作るのは難しいのは当然だ。
以前テレビで見たことあるし、知り合いの方にもいたから。
むしろ、再現したドワーフ族の方が凄い。
それだけで、ドワーフ族の鍛治師としての腕がわかる。

「そうなると……お高いですよね」

「いや、これはタダでやる」

「……へっ? いやいや! それはダメですって!」

「ふんっ、使い手がいない武器など宝の持ち腐れよ。それに、お主には美味い飯を食わせてもらったしの」

確かに、この一ヶ月の間に屋台を何回かやった。
その際にご馳走したり、余った部位を譲ったりはしていた。
ただそれは、あくまでも俺が勝手にやったことだ。

「お父さん、貰っちゃダメなの? このおじさん、お父さんに貰って欲しいって言ってるんだよね?」

「いや、そうかもしれないが……この方に得がない」

「その、難しい話はよくわからないんだけど……わたしは、お父さんにいっぱい優しくして貰ったでしょ? その時に、お父さんは何か損得を考えたの?」

「そんなわけはない」

あの時の俺は、確かに不安ではあった。
見ず知らずの場所に来て、何をして良いのか分からず……。
だが、損得などは考えてなかった。
ただ、この子のために何ができるかと考えて……そっか、そういうことか。
ガラン殿も、そういう気持ちってことか。

「えへへ、知ってるもん。あのね、わたしはお父さんにいっぱい感謝してるんだ。だから、これからわたしなりに沢山返さなきゃなって。えっと……うまく言えないんだけど、お父さんも違う形で返せば良いのかなって」

「小娘……ソラといったか。娘の方がよくわかっておる。ワシは、これをお主に譲りたいと思っただけじゃ。それは、ある意味で自分勝手な話じゃ」

「……そういうことなら、お受けいたします。ガラン殿、感謝いたします」

「ふんっ、そんなもんはいらん。お礼をするなら、腹の足しになるものが良い」

その言葉は口調とは裏腹に、俺が気を使わないように言ってるのだとわかる。
そっぽを向いてるし、明らかに照れているし。

「わかりました。それでは昇格した際には、食事をご用意させてください」

「ふむ、楽しみにしておるぞ。お主の作る料理は美味いからの。さて、武器はいいとして防具じゃ。肉体はアレでも服はダメージを受けるから、きちんとしたものを着ろ。D級ということは、それなりのランクだ。勘違いする後輩達がいちゃいかん」

「……その通りですね。では、そちらを見繕ってくれますか?」

「任せるが良い。お主の体格から言って……よし、わかった」

そう言い、裏の部屋に向かう。

「ソラ、ありがとな」

「ううん! えへへ、役に立てて良かった」

ソラの頭を撫でながら思う。

話だけは聞いていたが、実感したことはなかった。

親が子供に教えられることは、たくさんあるのだなと。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚
ファンタジー
婚約者の二股により婚約破棄をされた33才の真由は、突如異世界に飛ばされた。 そこはど田舎だった。 住む家と土地と可愛い3匹の猫をもらった真由は、猫たちに囲まれてストレスフリーなスローライフ生活を送る日常を送ることになった。 レコンティーニ王国は猫に優しい国です。 小説家になろう様にも掲載してます。

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

アラフォー料理人が始める異世界スローライフ

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
ある日突然、異世界転移してしまった料理人のタツマ。 わけもわからないまま、異世界で生活を送り……次第に自分のやりたいこと、したかったことを思い出す。 それは料理を通して皆を笑顔にすること、自分がしてもらったように貧しい子達にお腹いっぱいになって貰うことだった。 男は異世界にて、フェンリルや仲間たちと共に穏やかなに過ごしていく。 いずれ、最強の料理人と呼ばれるその日まで。

少女は自重を知らない~私、普通ですよね?

チャチャ
ファンタジー
山部 美里 40歳 独身。 趣味は、料理、洗濯、食べ歩き、ラノベを読む事。 ある日、仕事帰りにコンビニ強盗と鉢合わせになり、強盗犯に殺されてしまう。 気づいたら異世界に転生してました! ラノベ好きな美里は、異世界に来たことを喜び、そして自重を知らない美里はいろいろな人を巻き込みながら楽しく過ごす! 自重知らずの彼女はどこへ行く?

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

転生幼女の怠惰なため息

(◉ɷ◉ )〈ぬこ〉
ファンタジー
ひとり残業中のアラフォー、清水 紗代(しみず さよ)。異世界の神のゴタゴタに巻き込まれ、アッという間に死亡…( ºωº )チーン… 紗世を幼い頃から見守ってきた座敷わらしズがガチギレ⁉💢 座敷わらしズが異世界の神を脅し…ε=o(´ロ`||)ゴホゴホッ説得して異世界での幼女生活スタートっ!! もう何番煎じかわからない異世界幼女転生のご都合主義なお話です。 全くの初心者となりますので、よろしくお願いします。 作者は極度のとうふメンタルとなっております…

処理中です...