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おっさん、異世界生活を始める

おっさん、料理を仕込む

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 ソラを抱いたまま、広場に向かうと……噴水の前に、なにやら調理台が置いてあった。

 周りには人だかりが出来ており、めちゃくちゃ目立っている。

 ……屋台もあるし、思ったより大掛かりな感じだ。

「あっ、ソーマさん」

「ミ、ミレーユさん、これは……?」

「はは……すみません。頼んだのは良いんですけど、結構大掛かりになってしまって」

「いえいえ、むしろ有り難いですね。これで、いい意味で名前が広められます」

 ここで料理をすれば、それが良いパフォーマンスになる。
 いずれ料理屋を出すときにも宣伝になるかもしれない。

「それなら良かったです。領主の方にも許可は取っているので、好きにやってくださいね」

「ミレーユさん、ありがとうございます」

「いえいえ、これくらいのことはさせてください。では、あとはのんびり見てますね。クレアはどうするのですか?」

「わ、私か? ……邪魔じゃなければ、見ていて良いだろうか?」

「ええ、もちろんですよ。では、行きますか」

 注目を浴びたまま、調理台の前に立つ。
 そして、担いで来たディアーロを乗せる。

「うん、良い解体具合だ」

 血抜きもしっかりされてるし、小分けもされている。
 これなら、俺のやる仕事は大分少なくなる。

「……うん、確かに臭みはある」

 嗅ぐと、獣特有の独特な匂いがする。
 だが、この程度なら平気だろう。
 何より、鮮度が良い。

「お父さん! 何から手伝ったら良い!?」 

「まずは玉ねぎをすりおろしてくれるか?」

「うんっ!」

 隣でソラが作業している間に肉を切る。
 今回使うのはロース肉とバラ肉で、それを一口サイズに切っていく。

「できたよ!」

「よし、そしたら玉ねぎと合わせてくれ。そこに、森で拾ったオレンジを絞ると……そしたら、そのまま十五分くらい放置だ」

「それだけなの?」

「ああ、それだけだ」

 すると、様子を見ていたクレアさんが話しかけてくる。

「どういう意味があるのだ?」

「玉ねぎには、肉を柔らかくする効果があるんですよ。あと、オレンジには臭みを取る効果があります」

「オレンジはなんとなくわかるが……玉ねぎはどうしてだ?」

「お父さん! わたしも気になる!」

 ……どうする? 酵素とか言っても話が通じなそうだ。

「玉ねぎの成分……出汁みたいなものが、肉の繊維に染み込むんです。それが、肉を柔らかくしてくれるってわけだな」

「なるほど、それなら少しはわかる」

「うんうん!」

 良かった、これくらいなら通じるのか。
 別に知識チートする気はないし、あんまり知識を広げないようにしないと。

「その間にスープを作ります」

 骨を鍋にいれ、熱湯で湯がいたら……それを一度捨てる。
 もう一度鍋に入れ、きのこと一緒に水から煮る。

「おっ、例の水からってやつだな?」

「ええ、そうです。これで、美味しいスープができるでしょう」

 この拾ったきのこは、解体場で食べられる物だと聞いてある。
 見た目は舞茸に近い感じだし、いい出汁が出そうだ。

「そしたら、オレンジソースを作るか」

「「オレンジソース??」」

「……もしかしてない?」

「私は聞いたことないな」

「わたしもです!」

「……そうなのか」

 ……いや、おかしくもないか。
 日本でも、最初は驚かれただろうし。
 とりあえず、フライパンにオレンジを絞る。
 握力が半端ないので、一瞬で汁を出し切る。

「これと、剥いた皮を足して煮詰めていくと」

 本当なら白ワインなども欲しいが、今はこれで良いだろう。
 まずはシンプルを味わいたい。

「お父さん、お肉を漬ける時間たったよ!」

「おっ、そうか。それじゃ、肉を焼いていこう」

 移動式のコンロの火をつける。
 そこに油を入れ、森で拾った香草と一緒に肉を焼いていく。

「……うん、良い香りだ」

「……ほんとだ、独特の臭みが抜けて良い香りがする」

「良い匂い!」

獣肉独特の香りもしつつ、それが嫌な臭いの手前で止まっている。
これが消臭効果があるオレンジの効果だ。
前の世界でも、消臭スプレーや洗剤として使っていたりしたし。

「……うまそ」

「いやいや、ディアーロの肉だぜ?」

「でも、臭くないわよ?」

 それまで怪訝そうに見ていた人たちも、興味深そうにしている。

 よしよし、デモストレーションは成功だ。

 どうやら、ディアーロは美味しくないという認識らしい。

 それを塗り変えるのも、料理人の楽しみの一つだ。
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