上 下
29 / 64
おっさん、異世界生活を始める

おっさん、おかえりと言われる

しおりを挟む
 ディアーロを担ぎつつ、二人と話しながら都市へと向かう。

 というよりは、俺が一方的に話を聞く感じだが。

 だが、若い子と話す機会など滅多にないから楽しいものだ。

「いやぁ、本当に危ないですよ。アレを受け止めるなんて……ソーマさん、何者ですか?」

「うんうん、アルトの言う通りです。ディアーロのランクは魔獣に例えるとE級で、そこまで強いってわけじゃないですけど……もちろん、私達にとっては強敵ですが。ただ、あの突進を受け止めるような真似をした人は見たことないです」

「そうだよなぁ。聞いた話だと壁や木に誘導して、そこに体当たりをさせる。その隙をついて、遠距離攻撃で仕留めるのが普通だって。ソーマさん、素手で止めたもんなぁ……カッケェ」

 ……なんだが、むず痒いな。
 ただ単に、俺には遠距離攻撃がなかったのも理由だし。

「別に、どこにでもいる普通のおっさんだよ。まあ、真似はしない方がいい」

「「しませんよ!!」」

「そ、そうか」

 いかんいかん、この身体になってから精神的に麻痺しているようだ。
 目立たないためにも、もう少し穏便に済ませられるようにしないと。

「そういえば、どうしてあのやり方だったんですか?」

「あいつのドリル回転って、突っ込む時にしか出来ないんだなと思ってさ。だったら、それが止まる時が来るはずだ。あいつの武器はあれだけみたいだし、あとは掴んで待てば良い」

「あぁ~……って納得しませんって!」

「そうですよ! 危ないからやめた方がいいですって!」

「……ハハ」

 やはり、若い子達と話してるとくすぐったいものがあるな。

 ただ、気持ちのいい若者達だ……死なないでもらいたいものだ。





 森を抜け、魔物や魔獣に出会うことなく、無事に都市に到着する。

 そのまま冒険者ギルドに行き、出来事を報告をする。

 二人は別の場所にいき、俺はディアーロを預けた後、アリスさんに呼ばれた。

「というわけで、少し注意喚起が必要かと」

「ソーマさん、貴重な情報をありがとうございます。ゴブリンソルジャーやディアーロがいる区域ではないのですが……」

「それなんですが……」

 あれ? どこまで話して良いんだ?
 竜殺しは言えないが、オーガを倒したことは言って良いのか?

「あっ、ソーマさんのことはギルドマスターから聞いてるので平気ですよー。オーガを倒すくらいの実力者だけど、ちょっと特殊だから面倒を見てやってくれって。確か、ものすごい田舎から来たって。私はこの都市育ちですから、色々と知ってますのでー」

「……はは、すいません」

 なるほど、そういう話になっていると。
 だから、俺専用ってことだ。

「とりあえず、私の方からマスターには伝えておきますねー。それと、依頼はバッチリです。まさか、三つを日が暮れる前に終わらせちゃうとは思いませんでしたけど」

「よろしくお願いします。もしかして、早いのですか?」

「早いですよー。片付けだって、清掃だって重労働ですから。重い荷物も持ちますし、あちこちに歩いたりしますし。しっかり休憩してから、次の仕事に取り掛かるものですよ?」

「……そうですか」

 ……まあ、言われてみれば。
 今日一日を通して、一度しか休憩してないな。
 前の世界ではアラフォーだったから、すぐに疲れるようになっていた。
 しかし、この世界に来てからは疲れ知らずか……うん、この恩恵は助かるな。

「ふふ、期待の新人さんですねー。では、引き続きよろしくお願いします」

「ええ、こちらこそ」

「では、次ですね。コボルトソルジャーのランクは適正ではないので、特別に保留扱いにしておきます。そのランクになったらプラスにします」

「ありがとうございます。魔石は、こちらで買い取ってくれるのでしょうか?」

「もちろんですよー。それと、解体しているディアーロはどうしますか? 肉や皮など買取もできますけど……」

「そうですね……肉を残して買取でお願いします」

「あの肉を……珍しいですね。いえ、わかりましたー。それでは、そのように手配しておきます。一時間くらいかかりますが、どうしますか?」

「一度、宿に戻ろうかと思います」

「了解です。それでは、お待ちしてますねー」

 報告を終える外に出ると、ギルドの前で二人が待っていた。

「ソーマのおっさん、本当にありがとうございました!」

「こら! 命の恩人になんてこというのよ!」

「いて!? い、いや、だって……」

 少し話をしたからか、都市に着いたから、二人の空気が軽くなる。
 こちらが本来の二人なのだろう。
 無理もない、危うく命を落とすところだったんだ。

「気にすることない、俺がおっさんなのは確かだしな。新人同士だ、良かったら仲良くしてくれ」

「それはもちろん!」

「はいっ! こちらこそお願いします!」

「それなら良かった。よかったら、あとで飯でも食べるか? ディアーロの肉だが」

「えぇー……え、遠慮しようかと……」

「す、すみませんが……」

 そういや、あんまり美味しくないとか言ってたか。
 美味しくする自信はあるが、無理に誘うのも悪いな。

「なら仕方ない。一応、この宿にいるから気が向いたらきてくれて良い」

「わ、わかりました」

「は、はいっ」

 そして二人に別れを告げ、俺は宿に戻る。
 すると、宿の扉が勢いよく開く!

「お父さん!」

「おっと……」

 体当たりをしてきたソラを優しく受け止める。

「お帰りなさい!」

「ああ、ただいま」

 お帰りなさいに、ただいまか……このやり取りをしたのはいつ以来だろう。
 心が温かくなって、気持ちが和らぐ。

「あ、あのね! お父さん! これ……」

「ああ、よく似合ってる」

 俺からソラが離れ、その場でくるりと回る。
 その際に、青いワンピースがゆらゆら揺れていた。
 白い髪と青の瞳とマッチし、とてもよく似合っている。

「ほ、ほんと? ……えへへ」

「ああ、本当だ」

「あ、ありがとう! えっと、クレアさん達が色々と見てくれたの! あと、お父さんに頼まれたって!」

「男ではわからないことがあるからな」

 どうやら、二人に任せて正解だったようだ。
 オーガの代金は無くなったが、この笑顔を見れるなら安いものだろう。

「あと……ごめんなさい!」

「うん? どうした?」

「そ、その……お父さんが帰ってこないかと思って……捨てられたのかなって」

「俺はそんなこと一言も……」

 自分で言って気づいた、自分が如何に馬鹿だったかを。

 この子は両親に捨てられ、奴隷として生きてきた。

 そんな子が、頼りにしてる俺から離されて不安にならないはずがない。

「……すまん、俺が浅はかだった」

「ち、違うよ! わたしが悪いんだもん!」

「じゃあ……お互い様ということで、これで終わりだな」

「はいっ! お父さん帰ってきてくれたもん!」

 そう言い、再び俺にしがみつこうとするので……両手で抱き上げる。

「わわっ!?」

「ソラ、お前が俺から離れない限り側にいる。だから、安心するといい」

「……うんっ!」

 すると……顔をくしゃっとして、子供らしく笑うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

Rich&Lich ~不死の王になれなかった僕は『英霊使役』と『金運』でスローライフを満喫する~

八神 凪
ファンタジー
 僕は残念ながら十六歳という若さでこの世を去ることになった。  もともと小さいころから身体が弱かったので入院していることが多く、その延長で負担がかかった心臓病の手術に耐えられなかったから仕方ない。  両親は酷く悲しんでくれたし、愛されている自覚もあった。  後は弟にその愛情を全部注いでくれたらと、思う。  この話はここで終わり。僕の人生に幕が下りただけ……そう思っていたんだけど――  『抽選の結果あなたを別世界へ移送します♪』  ――ゆるふわ系の女神と名乗る女性によりどうやら僕はラノベやアニメでよくある異世界転生をすることになるらしい。    今度の人生は簡単に死なない身体が欲しいと僕はひとつだけ叶えてくれる願いを決める。  「僕をリッチにして欲しい」  『はあい、わかりましたぁ♪』  そして僕は異世界へ降り立つのだった――

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

処理中です...