竜殺しの料理人~最強のおっさんは、少女と共にスローライフを送る~

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おっさん、異世界転移する

おっさん、変わらぬ気持ち

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料理をしている間に色々聞いたが、この世界では内臓系は食べないらしい。

なんでも魔素?とやらが溜まっていて、それを食べると身体に異常をきたすとか。

前の世界でも腹を壊すということはあったが、それとも違いそうだ。

なので俺も、食べるのは遠慮することにした……うまいんだけどなぁ。



そんな会話をしつつ、良い感じに野菜が煮込まれてきたら、肉を焼き始める。
無論、焼く前に全ての肉には軽く塩をしてある。

「まずは脂の少ないヒレ肉を焼いて……」

その端の方で、解体する際に余った肉を焼く。
余った肉に軽く焼き色がついたら、野菜スープの中に入れる。

「食べる順番があるのか?」

「そうですね、気になります」

「いえ、決まりがあるわけじゃないですよ。ただ、食べる順番によって味が変わるので」

「お父さん、どういうこと?」

「そうだなぁ……先に油っぽいものを食べると、腹に溜まりやすいし味が舌に残る。すると、次に食べる肉が美味しく食べられなくなる可能性があるんだ」

自分の店でも、コース料理を出すときはそうしていた、
料理とは仕込みと調理含め、順番が一番大事だと個人的には思っている。

「へぇ~!」

「初めて聞いたが、言われてみると……」

「ええ、そうですね。確かにそんな気がします」

焼いている俺の両脇で、美女が覗き込んでくる。
ソラはともかく……この二人はまずい、俺はそもそも女性が得意じゃない。
意識すると、変な汗をかきそうだ。

「さて、ひっくり返したら……仕上げに、スープの方に塩をひとつまみ入れて……完成だ。ソラ、スープをよそってくれるか?」

「うんっ!」

ソラが用意した小皿に、スープをよそっていく。

「片面は少しでいい……よし、こっちもいいだろう」

「私がお手伝いします」

「では、私は飲み物を用意しよう」

それぞれ動き、ひとまず準備が整う。
3人はテーブルに、俺は火の前で食べることにする。

「本当にそこでいいのか?」

「ええ、食べながらも焼くので。というか、やらせてください」

「ふふ、不思議な感覚だな。殿方に料理をして頂くとは」

「そうですね。それに本人がやりたいというのも……」

「わたし、座ってていいの?」

「ソラは座って食べなさい。俺がやってるのは行儀の悪いことだからな。さあ、まずはスープから飲んでください。そうすることで身体が整いますので」

俺の言葉に、三人が渋々ながらも頷き……スープを飲む。

「むっ……これは……いつもより柔らかくて美味い」

「え、ええ……素材の味がするというか、コクがあるというか……」

「あったかくて美味しい!」

「それなら良かったです」

俺もスープを飲み……ひとまず満足する。
味こそ薄いが、しっかりと素材の味が活きている。
そして最後に肉を加えたことで、より深みが増している。
じんわりと、腹が温かくなる感じ……こうなったら肉を食べていい合図だ。
すぐ食べれるように、ロース肉を焼いておく。
ちなみに、ロース肉は固くならないように、弱火でじっくりと焼く。

「では、肉をどうぞ……うん、さっぱりして美味いな」

「うむ……いい焼き加減だ。ヒレ肉は、硬くなりやすいと言われているのに」

「いつも私達でやると硬いですもんね」

「そうですね。まあ、お肉全体に言えることですが」

だからこそ、俺はこうして火の前にいるわけだし。
自分の店でも、オープンキッチンの店で、お客様の前で肉を焼いてたものだ。
……やはり自分が作った料理を、こうして目の前で食べてもらうのは良い。

「はぐはぐ……ッ~!?」

「ソラ、落ち着いて食べなさい。大丈夫だ、誰も取らないし量はある」

「ひゃ、ひゃい!」

「ふふ、ほら水を飲むといい」

「コクコク……あ、ありがとうございました!」

「気にするな」

そんな光景に頬を緩ませつつ、焼けた肉を皿に追加していく。
そしたらすぐに、バラ肉を焼き始める。
バラ肉は中火で、カリカリに焼くくらいが良い。

「次はロース肉です。少し醤油を垂らすと良いですね」

「ふむ……確かに美味い。旨味の強いロース肉に、醤油の味が負けてないと言ったところか」

「何より、厚さがちょうど良くて食べやすいですね」

「これも美味しい!」

俺も次の肉を焼きつつ、ロース肉を口に含む。
すると野性味のある味と、肉本来の旨味が口の中でとろける。

「……うまっ」

やばい、これは酒が欲しくなってきた。
次々と口に放り込んでいく。
そしてバラ肉も焼けたので、みんなに配る。
それには味噌を添えてある。

「……なるほど、ソーマ殿が言っていたことがわかった。これが、食べる順番というやつか」

「え、ええ……確かに脂身がより感じられますね。何より、味噌との相性がいいです」


「はぐはぐ……」

どうやら、わかってもらえたらしい。
ソラに至っては、もはや無心で食べている。

「どれ、俺も……っ!」

噛んだ瞬間に、口の中で肉汁が弾ける!
味噌が油の中に溶けて、噛むほどに美味さが増していく。

「うめぇ……!」

「ふふ、ソーマ殿。随分と美味そうに食べるな?」

「あっ、すみません。すぐに次を用意しますので……」

「違う違う、そういう意味ではない。見てると、嬉しくなってな。まあ、こっちも食べたくなるような顔をしていたのは確かだが」

「それは言えてますね」

「お父さん、美味しそうに食べてた!」

「はは、参ったな……」

すると、三人が笑う。

そうだ、これが美味しい料理の良いところだ。

初対面だろうが、どんなに人種が違くても、一緒に美味しいご飯を食べれば笑顔になる。

……結局、俺にはこれしかないか。

異世界であろうと、俺は料理人として生きていこう。



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