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おっさん、異世界転移する

おっさん、魚を食べる

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 ぱちぱちと心地いい音と、魚の焼ける香りを堪能しつつ……。

 これからのことに、想いを馳せる。

 すると……少し安心したからか、一気に不安が押し寄せる。

 これからどうする? 俺は何をしたら良い?

 ……さて、どうしたもんか。

  だが、まずは……出会ったこの子を優先すべきか。

「一応、確認なんだが……ソラは、これからどうしたいとかあるか?」

「ふえっ? ……したいこと……考えたことないです。ただ、あそこには居たくないって」

「そっか。んじゃ、とりあえずどっかの街でも探すとするか。商人さんが、どっちからきたとかはわかるか?」

「そ、それならわかります! あっちの方から来たと思います!」

「了解。それじゃあ、食べたら向かうとするか」

「あ、あの……」

「うん? どうした?」

「い、いえ……」

 ……おっと、いかん。
 そりゃ、この子も不安だよな。

「まあ、なんとかするから安心して良い。少なくとも、見捨てるようなことはしない」

「は、はい……」

 偶然だったとはいえ、救ったからには責任がある。
 当面の目標は、この子をきちんとした場所に連れて行くことだな。




 その後、ひっくり返しつつ待ち続け……。

「そういえば、喉が渇いてきたな。ソラ、あの川の水はそのまま飲めるものか?」

「は、はい! 山から流れてる水で、村の人達が飲んでたので……確か、誰もお腹を壊したりはしてないです」

「なら平気か。よし、ソラも飲むか?」

「はい!」

二人で両手で水をすくい、口に含む。

「冷たくて美味しいです!」

「うん……美味いな」

いわゆる、天然水といったところか。
料理人にとって、水はとても大事だ。
知らない場所だが、とりあえず飲み水と食べ物が確保できたのは助かる。

「いつも、井戸にある泥水ばっかりでした……」

「……そうか。じゃあ、これからはたくさん飲むと良い」

そういうと、コクリと頷く。

「そういえば、ついでに水浴びもするか?」

「え、えっと……汚いですか?」

「いや、俺は気にしないが……着替えもないし、乾かすのも大変か。じゃあ、あとで街にでも行ったら服を買うか」

「で、でも、お金ないです……」

「あっ、それは……まあ、あとで考えるか」

その後魚の場所に戻り……匂いと勘と、しっかりと両面が焼けたのを確認する。

「よし、良いだろう」

「わぁーい!」

「ほら、熱いから気をつけて食べなさい」

 さきに、ソラに串を渡す。

「へっ? い、良いんですか?」

「ん? どうした?」

「その、先に食べて……あっ、毒味とか」

「いや、違うし。普通に、子供から食べるもんだろ」

 ……全く、こりゃ治すのは大変そうだ。

「……い、いただきます——お、おいひい! あついよぉ~!」

「お、おい、ゆっくり……いや、いいか」

 ソラは涙を流しながら、必死に魚に噛り付いている。
 俺も飢えていた時に食わしてもらった時、物凄く嬉しかったことを思い出した。
 なので、今は放置するべきだと思い、俺も大きな魚にかぶりつく。

「うめぇな……!」

 ニジマスに似た姿通り、淡白な味わいがある。
 しかし脂はのっていて、ジュワッと口の中に溢れる。
 その身は旨味が凝縮されて、全身の細胞が喜んでいる。

「ん~!」

 ソラの表情は、幸せでいっぱいだった。
 言葉にせずとも、伝わる……美味しいということが。
 ある意味で、俺が一番好きな顔だ。
 この顔を見たいから、俺は料理人になったんだ。

「美味しいです! こんなに美味しいの食べたの始めてです! ……い、いつも、冷たくなったモノしか食べてなかったから」

「そうか、なら良かったよ。じゃあ、お腹いっぱいになるまで食べような?」

「あ、ありがとうございます……?」

「そうそう、子供は甘えておけば良いんだよ」

 首をかしげるソラに、出来るだけ優しく諭す。
 俺自身も施設を出た後、そうやっておじさんに育ててもらったからだ。
 当時の俺は酷かった。
 街に出ては喧嘩をし、暴れまわり、色々な意味でダメだった。

「……はぐはぐ」

「そうそう、それで良い」

 でも、あの人に引き取られて変わった。
 その時に知った……人っていうのは、関わってきた人間で変わると。
 親に捨てられた俺だが、おじさんには厳しくも優しくしてもらった。
 俺はそのおかげで、真っ当な人間として生きられたし、そうなりたいと思った。
 おそらく、この子は……完全に俺を信用しきっていない。
 俺とて、あの人に引き取られた直後は……当たり散らして酷かったものだ。
 俺も、この子に……何かしらの形で、影響を与えられたら良いと思う。



 ◇


 ……この人は、なんでわたしに優しくしてくれるんだろ?

 食べたこともない美味しい魚を食べながら、そんなことを考えてしまう。

 いきなり空から降ってきた、土方ソーマっていう男の人。

 ドラゴンを倒して、わたしを救ってくれた人。

 その姿は憧れとは少し違ったけど、求めていたヒーローそのものだった。

 さらに、わたしを縛り付けていた首輪を外してくれた。

 それを誇るわけでもなく、わたしに恩を着せる事もなくて……。

 見ず知らずのわたしに優しく接してくれたり、名前をつけてくれたり……。

 本当に、わけがわからない。

 わたしは、人族に優しくされたことなんかない。

 だから、心の中で……ずっと憎んできた。

 言わなかったし、表に出さないようにしてたけど。

 でも、この人は違うのかな?

 美味しいご飯をくれたり、わたしに笑いかけてくれる。

 でも、その理由がわからない。

 子供は甘えるものとか、笑えば良いとか……そんなこと言われたことないもん。

 何か、ほかに目的があるのかな?

 だとしたら何? わたしをどこかに売る? でも、わたしなんか売れるわけない。

 それとも……そういう趣味の人?

 実は最近……村の中の人で、わたしをそういう目で見てくる人もいた。

 こんなガリガリで貧相なのに……本当に怖かった。

 もうすこし、あそこにいたらと思うと……震えが止まらない。

 ……でも、お父さんは違う気がする。

 ううん、違うと思いたい。

 でも、まだ少しだけ怖い。

 だって、裏切られたら……もう、耐えられないから。
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