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おっさん、異世界転移する

おっさん、少女を助ける

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 ……イテテ。

 な、何が起きた?

 突然、穴?に落ちたと思ったら……空中にいて、何かに包丁を刺してしまったが。

 人ではないと思うが……。

「……なんだこれ?」

 振り向くと、そこには黒い物体がいる。
 ……いや、現実逃避しているだけで、本当はわかっている。

「……これ、ドラゴンってやつだよな?」

 あれ? 俺って、これに包丁を突き刺してしまったのか?

 「だとしたら、悪いことしてしまったか?」

 俺が混乱していると……そのドラゴンが消えていく。
 同時に、何かが俺の体の中に入ってくる。
   そして、その側には何やら白銀に輝く宝石が落ちている。

「へっ? き、消えた? 幻とかじゃないような……とりあえず、これでも拾っておくか」

「あ、あの!」

「うん?」

 声のする方を見ると、そこには頭から耳の生えた女の子?がいた。
 しかも、尻尾には何かついてる。
   ボロい布切れのようなものを着て、全体的に薄汚れている。

「あ、ありがとうございます!」

「えっと……何かしたかな?」

 声を聞く限りは、女の子で合ってそうだ。
 ただ、痩せすぎたし、身体中が汚れてしまっている。

「た、助けてくれましたっ!」

「助けた? ……すまん、話がよく見えないんだが。落ち着いて、ゆっくりと説明してくれるか?」

「は、はいっ!」

 その後、おどおどしながらも、少女が必死に説明をする。
 よくわからない点が多かったが……要約すると、こんな感じか。
 村に襲ってきたドラゴンが生贄を用意しろと言ったので、自分が差し出された。
 そして、そのドラゴンを空から降ってきた俺が倒したらしい。
 だから、この子はお礼を言いたいと。

「なるほど……俺の包丁が刺さったことで死んだのか」

「は、はい」

 ひとまず、悪い奴で良かった。
 もし良いドラゴンだったら、可哀想だしな。

「それで、これからどうしたらいいだろう?」

「ふえっ? ……どうしたらいいの?」

 二人で顔を見合わせて、首を傾げる。
 それが、なんだか無性におかしい。

「ははっ!」

「わわっ!?」

「ああ、すまんすまん。なんか、この状況がおかしくてな」

 なにせ、さっきまで絶望の淵にいて、気がついたら変なところにいるし。

「えへへ、ほんとです。こうして生きてるのが夢みたい……」

「おっ、笑ったな。うんうん、やっぱり子供は笑顔でいないとな」

「…………」

「どうした?」

「い、いえ!」

「そうか? ……とりあえず、君は帰りたいか?」

「か、帰りたくないです! で、でも、奴隷の首輪があるから帰らないと」

「どういうことだ?」

 確かに、少女の首には何かがある。

「えっと……これは魔力を持っていない獣人を縛り付ける首輪で……ひぐっ……」

「大丈夫だ、落ち着いて……ゆっくりでいい」

 魔力やら獣人やらわからないことだらけだが、ひとまず胸糞悪いことだけはわかる。

「あ、あい……これをしていると、村にいる人達に生きていることがバレちゃうんです。だから、帰らないと……叱られちゃう。きっと、私の反応が消えないから、そのうち人が来ちゃうよぉ」

 ……なるほど、首輪がついてる限り居場所がわかるってことか。
 何ともふざけた首輪だな。

「それは外せないのか?」

「む、無理です! 特殊な魔法で封じられていて、それを破るだけの力がないと……」

「そうなのか?」

 俺には、そんな感じには見えないが……というか、魔法ね。

「あっ……!」

「ん? どうした?」

「た、たしか、聞いたことあります。ドラゴンを倒した人は、すっごく強くなるって……だから、村の若い人の何人かは立ち向かったんです」

「ふむ……」

 前の世界でも、そう言った話は読んだことがある。
 ドラゴンスレイヤーという物語だ。
 ドラゴンを倒した者は、そのドラゴンの力を授かるってやつだ。

「だから、もしかしたらおじさんも……」

「お、おじさん?」

「だ、ダメですか?」

「いや……良いさ」

 うん……アラフォーは立派なおじさんである。
     ただわかって欲しい……この微妙な心境を。
 認めたくないものだな……すでに、このセリフがおっさんだな。

「とりあえず、試してみてもいいか?」

「は、はい……お願いします」

「よし」

 俺は少女に近づき、その首輪に触れる。
 ……よくわからないが、感覚的に行けそうな気がする。
 少女自身に傷がつかないように、首輪部分だけに力を——込める!

「ふんっ!」

「ふえっ!? ……とれた……わぁーい! とれたとれた!」

 少女が元気そうに飛び跳ねる。
 ふぅ……どうやら成功したみたいだ。
 俺が握った箇所が壊れて、少女を首輪から解放したようだ。

「おいおい、はしゃぎすぎ……」
 
「……はれ?」

「おっと……危ない危ない」

 倒れそうになった少女を、咄嗟に受け止める。

「ご、ごめんなさい……お腹すいてて」

「いや、無理もない」

 見てるこっちが辛くなるくらいに、やせ細っている。
 きっと、まともな食事をしていないのだろう。   
 腹を空かせる気持ちは、誰よりも知ってるつもりだ。

「とりあえず、飯にでもするか」

「ふぇ?  で、でも、食べ物がないです」

「ふむ……この近くに、川なんかはあるか?」

「えっと……確か、あっちの方に……ごめんなさい、正確なことはわからないです」

「いや、謝ることはない……ん?」

 少女が指差した方向に意識を集中させると……何やら、音が聞こえる。

「……これは、川の音?」

「 聞こえるんですか?」

「ああ……気のせいじゃなければ」

 なんだ? 耳が良くなったか?
 ……うん、確かに川の音が聞こえるな。

「じゃ、じゃあ、行って——ふぁ!?」

「すまん、嫌なら下ろすが……」

「い、いえ……」

「悪いな、俺が抱えた方が早いからな。うし、行くか」

 ふらつく少女を抱きかかえ、俺は川の音がする方へ歩いていくのだった。
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