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変化する義妹との関係

気づかされる

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 それからの日々はあっという間に過ぎていく。

 桜さんはそのまま俺の家に滞在し、詩織の世話と家探しをしている。

 詩織の面倒を見ることもなくなり、俺は仕事に専念し……。

 春香も、友達と遊んだり……何やら、色々と報告をしているらしい。




 そんな、ある日……俺は、皆にサプライズを受ける。

「兄貴! おめでとうございます!」

「大将! やったね! 若妻ゲットだぜ!」

「ふふ、春香ちゃんも良かったわ~」

「二人とも、おめでとうございます」

「宗馬君、大変なのはこれからですよ?」

「あ、ありがとうございます!」

「いきなり定休日に集まれなんていうから……なんだと思っていたが。全員、なんで知ってるんだ?」

 俺は落ち着いたら言おうと思って黙っていたんだが……。

「春香ちゃんを尋問しましたよー!」

「お、お兄ちゃん、ごめんなさい!」

「それに、全員で応援してましたから~」

「そうっすよ!」

「プロポーズしたんですよね?」

「いやはや、若いというのは良いですな」

 話を聞くと……どうやら、春香が俺を好きだというのは、こいつらの中では周知の事実だったらしい……だから、すぐに態度の違いに気づいたと。

「そういうことか……」

「というわけで——乾杯!」

「「「「乾杯!!!!」」」」

「お、お兄ちゃん」

「はぁ……とりあえず付き合うとするか」

「うんっ!」

 和也が用意した食事を摘みつつ、話に花を咲かせる。

「おっ、美味い」

 ローストビーフだが、柔らかくしっとり仕上がっている。
 しっかりハチミツや香草に漬け込み……。
 フライパンでの焼き加減と、オーブンの温度調整をしないとこうはならない。

「うしっ!」

「和也、腕を上げたな。最近、特に頑張ってるが、何かあったのか?」

 朝早くにきて、練習や仕込みをしている。
 お昼休憩も切り上げ、俺に色々と聞いてきたりしていた。
 店の管理や、その他についても勉強してるみたいだし。

「いや、実は……お袋が退院できそうで」

「なに!? そっちのがお祝いじゃないか! よかったな!」

「へへ、あざっす」

 みんなからも、おめでとうという声が聞こえる。

「なるほど、それで頑張ってたのか」

「ええ、食べに来たいっていうんで……ただ、住むところに迷ってまして。一応、しばらくの間は一緒に住もうかと思ってるんですけど。お袋の家は引き払ってるんで、そうなると引越しをしないといけないんで。今の俺のところじゃ狭いんすよ」

「そうか……うん? ちょっと待て……」

「兄貴?」

 ……和也は、信頼に足る男だ。
 仮に裏切られたとしても、後悔しないほどに。
 店のことも任せられるし、いい案かもしれない。

「ふむ……確認だ。いずれ、またそれぞれで暮らすってことか?」

「ええ、お袋もそれを望んでいます。というか、今回は俺のわがままです。心配なんで、しばらくの間暮らすって感じです」

「なるほど……お前、今俺が住んでいるところに住む気はあるか?」

「……へっ?」

 和也は鳩が豆鉄砲を食ったような表情をし……。
 他のみんなも、どういうこと?という顔をしている。

「いや、実はな……春香に結婚を申し込んだのはいいが……詩織のことで悩んでいてな」

「どういうことっすか?」

「俺と春香が、この上で暮らすとすると……詩織は、大好きなお姉ちゃんと離れ離れで暮らすことになる」

「お兄ちゃん……」

「なるほどー、小さい詩織ちゃんには理解ができないかもですねー」

 小さい妹や弟がいるからか、今野さんが理解を示す。

「それが可哀想だなって思ってたんだ。かといって、全員で同居するのもアレだし……だから、兄貴達の部屋の隣に住もうかと思って」

 兄貴と桜さんに相談したら、ものすごく喜んでくれた。
 俺がそう思えたことが、とっても嬉しいと。
 ただ、無理はしないでいいとも。

「そ、そうだったの!?」

「すまんな、春香。ただ、家のことがあるから無理かなと思ってた」

「いや、それは有難いですけど……いいんですか?」

「ああ、お前とお袋さんが良ければな。もちろん、家賃は払ってもらうが……安くすることを約束する。あとは退院祝いとして、手すりなんかもつけた方がいいか」

「わ、悪いっすよ!」

「何を言う? これからはお前にも負担をかけてしまうんだから、これくらいはさせてくれ」

 俺も頑張るが、どうしても近い方にいる人間が、鍵の開け閉めなどもするし……。
 定休日の店の換気や、掃除なんかもやりやすくなる。

「……ありがとうございます!」

「おいおい、礼をいうのは俺の方だよ。あと。期限は好きに決めて良いから」

「えっと?」

「いずれ、詩織が理解出来たなら……もしくは、春香が成人したら戻るかもしれない」

「お兄ちゃん……ありがとう!」

「うおっ!?」

 それまで黙っていた春香が、抱きついてくる。

「わたし、ずっと気にしてて……」

「ああ、わかってるよ」

「お母さんとお父さんのこと、詩織のことやわたしのことまで考えてくれて……」

「家族なんだ、それくらい当たり前のことだ」

「えへへ……」

「それに……可愛い奥さんのためだしな?」

「はぅ……」

 そう……今の俺なら、はっきり言える。

 みんなが俺の家族で、俺がみんなにとって家族なんだと。

 それを……ここにいる仲間と、春香と詩織が気づかせてくれたんだ。
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