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変化する義妹との関係

終わりの時……

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 早いもので、春香達がきて4ヶ月になろうとしている。

 仕事して、送り迎えして、一緒に過ごして……。

 慌ただしい日々だし、疲れることもあるけれど……。

 それ以上に、不思議な気持ちがあることに気づく。

 多分……幸せってやつなんだろうと思う。






「兄貴と桜さんも、こんな気持ちだったのかもな……」

 俺を引き取ったことで、二人に負担をかけてしまったが……。
 でも、それを嫌だと思ったりはしなかったのかもしれない。
 ……今の俺と同じように。

「おじたん!」

「へいへい、どうした?」

 夏休みに入り、二人が家にいる時間が増えた。
 その分、俺も大変だが、なるべく相手をするようにしている。

「折り紙できたお!」

「おお、鶴か……」

「おじたん、へたくそ!」

「ほっとけ」

 テーブルで一緒に折り紙をしているが……。
 こんなのやるなんざ何十年ぶりだぞ? 
 さっぱり覚えていない。

「お兄ちゃん、詩織、もうすぐご飯だからね」

 キッチンから、春香の声が聞こえる。

「おう、わかった。詩織、テーブル拭けるか?」

 折り紙をしまい、昼飯の準備をする。

「あいっ!」

「じゃあ、任せるな」

 俺はキッチンに向かい……立ち止まる。

「ふんふふ~ん」

 鼻歌を歌いながら、慣れた手つきでフライパンを動かしている。
 ……いやはや、ついこの間まで何もできなかった子には見えないな。

「随分と、上手になったな?」

「そ、そうかな……えへへ。といっても、焼きそばだから難しくもないけどね」

「おお、言うねぇ。きた頃は、それすらも出来なかったに」

「むぅ……それは言わないでよぉ」

「悪い悪い、じゃあ皿に盛りつけるかね」





 食事を済ませたら、お勉強の時間である。

「詩織、芹沢詩織よ……そう!」

「かけたっ!」

「おお、えらいなぁ。こりゃ、兄貴達びっくりするぞ」

「ほんと!?」

「ああ、間違いない」

 漢字や平仮名の練習や、算数ドリルをやらせている。
 来年は小学校だし、早めにやっておくに越したことはないだろうから。



 そして三十分後……お眠である。

「スヤ~」

「ふふ、寝ちゃったね」

「まあ、お腹いっぱい頭も使ったからな」

 優しく抱き上げ、部屋の布団に寝かせる。



 その後は、二人で並んで作業をする。
 春香は夏休みの宿題、俺は店の売り上げや給料の仕分けだ。

「そういや、バイト代は何に使ってるんだ? お前、ちっとも出掛けないし」

 夏休みに入ったっていうのに、ほとんど家にいるし。
 ……そのせいか、俺は色々困っています。

「えっ、えっと……内緒」

「そうか……まあ、好きに使うといい」

「う、うん……」

 再び、黙々と作業をする。
 静かだが、不思議と落ち着き、心が休まる気がする。
 ……これは、もうダメかもしれない。





 そんな時だった……事態が急変したのは。

 定休日なので、店の掃除をしていたら……兄貴から電話が来た。

「なに?」

『いや、こっちも驚いたよ。あっさりと契約が成立したもんだから』

「そ、そうか」

『だから、夏休みが終わる頃には帰れるはずだ』

「良かったね、兄貴」

 どうやら仕事がひと段落して、転勤が終わるようだ。

『ああ、下手すると一年はかかると思っていたからな』

「そんなにいなかったら、二人とも成長しちゃうぜ」

『ああ、だから良かったよ』

 そうか……つまり、この生活も終わりか。
 ……今のうちに、聞いておくべきかもしれない。

「なあ、兄貴……」

『うん?』

「俺を引き取って……後悔した?」

『そうだなぁ……大変だなって思ってた。でも、後悔はしていない。お前を引き取ると決めた日から、今日までずっと』

「そっか……うん、ありがとう。ずっと、それを聞くのが怖かった」

『宗馬……俺は、それを聞かれるのを待ってた。俺から言い出したんじゃ意味がないと思って。何度も言うが、お前は俺の家族だ』

「ああ、わかってる。それは、ずっとわかってたんだ」

『どうやら、転勤も悪いことばかりじゃなかったな』

「うん?」

『実は、引き受けるか少し迷ってだんだ。会社での心象が良くなったり、給料が上がるとはいえ……育つ盛りの娘二人を置いていくことに』

「まあ……そうだろうな」

『だが、この先を考えたら必要だと思ったし、お前がいたから安心して引き受けることができた。そして、何より……お前が、大事なことに気がついてくれた』

「兄貴……」

『お節介ついでに言うと……お前は幸せになって良いんだ。失うことは辛いが、それを恐れていては何にもならない。家族を失った心の傷を埋めてくれるのもまた、家族だからだ。俺が、お前達や桜に癒されたように』

「ああ、今ならわかる。春香や詩織のおかげで」

『で、決心はついたか?』

「うっ……まあ、とりあえずは」

『父親としては複雑だが、お前が相手なら文句はない』

「わ、わかった……今度、誕生日だから伝えるとするよ」

『ああ……そういや、これだけは言っておく』

「うん?」

『今のお前なら聞く耳を持つから言うが……詩織が生まれたのはたまたまだ。ずっと作ってはいたが、それがタイミングよく重なっただけだから』

「うん、わかった。今なら、素直に聞ける」

『ほっ……これで、心残りが消えたな。じゃあ、決定したら連絡する。それまでは二人には言わなくて良い』

「ああ、そうするよ」

 通話を切って、椅子に座る。

「もう誤魔化せないか……」

 俺は確実に春香に惹かれている。

 いつの間にか、目線で追っている自分がいる。

 まだ高校生だというのに……それを言い訳にしてたが。

 ……いい加減、覚悟を決めよう。

 もう、残された時間は少ないのだから……。
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