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変化する義妹との関係

もう言い訳はできない

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 ……相変わらず、好き勝手言ってたな。

 だが、何も間違ったことは言っていない。

 俺が馬鹿で臆病な男ということは。





 由香里が去ったあと、俺がぼけっとしていると……。

 春香が来たので、とりあえず座らせる。

「…………」

「…………」

「なあ」「あの」

 二人の声が重なった。

「ど、どうした?」

「お、お兄ちゃんこそ……」

「いや……目が覚めたよ」

「えっ?」

「全く、我ながら情けない男だ。別れた女に説教されるなんてな……」

「凄い綺麗な人だったね?」

「まあ……な。性格はきついが」

 昔もよく、ああやって言われていた気がする。

「き、聞いてもいい?」

「うん?」

「ど、どうして別れちゃったの?」

「あれ? 聞いてるんじゃないのか?」

「い、一応……でも、それだけなのかなぁって……さっき話してて思ったんだ」

 なるほど……帰る際に出くわしたのか。
 別れた理由……うん、アレかもな。

「今思うと……多分、このまま付き合っても上手くいかないと思ったかもな」

「えっ?」

「俺も割と我が強いし、あっちも似たようなものだ。多分、友達としての方が上手くいったんだろうな」

「へぇー、そういうものなんだ」

「いや、今となってはわからんけどな。まあ、結果論だ」

「そ、それで……」

「まあ、待て……お前は、俺とどうなりたいんだ?」

「えっ? ……そ、その、こ、こ、こ……」

「ニワトリか?」

「うぅー……」

「あぁー……今のは俺が悪かった」

「こ、恋人とか……になりたいです」

 耳を真っ赤にしていう仕草に、俺の心が跳ね上がる。

「そ、そうか」

「お、お兄ちゃんは……」

「まあ、待て。俺は今のところ、そのつもりはない」

「そうなんだ……あれ? 今のところ?」

「ああ、俺は多分……お前を憎からず思っている」

 スッキリした頭で考えた末、その結論に至った。
 義妹だとか、兄貴達のことを排除して。

「ほ、ほんと!?」

「落ち着け。だが、俺は付き合うわけにはいかない」

「ど、どうして!?」

「いや……俺、捕まっちゃうし」

「ふえっ?」

「成人男性が未成年と付き合ったら犯罪なんだよ」

「あっ——え? あ、え、そ、そうだよね……」

「というわけで、とりあえず大人になるまでお預けだな」

「そ、そんなぁ……せっかく、お兄ちゃんと……うぅー……」

「な、泣くなよ……そもそも、兄貴達に聞かんといかん」

「う、うん……」

「あと……とりあえず、お前が大人になるまでは彼女も作らんから」

「えっ?」

「だから、焦ることはない。そもそも、そんな暇もない。それに、お前の気が変わることもあるだろうし」

「そんはことない!!」

「お、おう」

「わ、わたしは……ずっーとお兄ちゃんのこと好きだったんだから……」

 ……いかん、俺の顔が熱くなってきた。
 ……そっか、俺は嬉しいのか。

「わ、わかった。まあ、そんな感じだ。それでも良いか?」

「う、うん……」

 ひとまず、これにて終了になったが……。
 もう一つの可能性を提示するか迷ったが……。
 流石に、それはなぁ……すぐには決められん。






 それから数日が過ぎたが……。

 まあ、特に変化はない。

 まだ大人になりきってない春香に手を出すわけもなく……。

 そもそも詩織がいるから、そんな空気にはならない。

 ただ、春香が少しずつ綺麗になってる気がする……。

 そんな時……兄貴から電話が来た。

「もしもし?」

『おう、宗馬。今、平気か?』

「ああ、ただ俺一人だけど」

 今日は、火曜日だから定休日だ。
 詩織は幼稚園だし、春香は学校だ。

『ああ、わかってる』

「うん? ……俺に用事ってことか?」

『ああ、まあな……さて、もうすぐ三ヶ月になるが、何か心境の変化はあったか? 俺に、何か言いたいことはないか?」

「あぁー……まあ、色々と変化はあったよ」

『おっ? 春香に告白でもされたか?』

『ちょっと!? あなた!? まだしてなかったらどうするの!?』

『す、すまん! い、今のは聞かなかったことに……』

「クク……相変わらずだね。でも、そうか。知ってたのか……ああ、されたよ」

『そ、そうか。桜、されたってよ』

『もう! それなら良いけど』

『で、どうしたんだ?』

「ひとまず保留かな。一応……憎からず思ってることは伝えたが、そもそも未成年だし。というか、親としてどうなんだ?」

『お前が相手なら文句はないさ。それに、あいつはずっと好きだったからな』

「そっか……」

『でも、お前が分別のある大人で良かった。お前のいう通り未成年だからな』

「当然だよ。だから、大人になるまで彼女は作らないことにした」

『そうか……ん? ああ、桜に代わるな』

『宗馬君』

「どうも、桜さん」

『まずはありがとう。春香の気持ちを真摯に受け止めてくれて』

「い、いえ……俺はヘタレですよ」

 結局、色々言い訳してるし……。

『ふふ、戸惑うのも無理はないわよ。ただ、ひとつだけ言っておくけど……』

「な、なんでしょう?」

『春香、もうすぐ誕生日だから。そしたら、結婚すれば良いのよ』

「……いや、それは」

『ふふ、可能性の一つよ。未成年だからとか、逃げ道を作らないでね?』

「は、はぃ……」

 だ、だめだ……見透かされてる。

『まあ、でも……宗馬君も譲れない部分はあるだろうし。そこは任せるわ』

「あ、ありがとうございます」

『じゃあ、代わるわね』

『宗馬、そういうわけだ。こちらとしては、何も問題はない。それと、ひとまず仕事に区切りがついた。もしかしたら、早めに帰れるかも知れん』

「へえ? それは良かったね」

『まだ本決まりじゃないがな。決まったら連絡する』

「わかった」

『じゃあ、二人のことよろしくな。頼れる弟よ』

「へいへい」

 通話が切れ、ソファーに腰をかける。

「……知らなかったのは俺だけか」

 つまり、あとは俺の覚悟次第ってことか。
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