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変化する義妹との関係

説教される?

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 勝気そうな瞳。

 シュッとした輪郭。

 手足が長く、モデル体型の身体。

 量のある長い髪は茶色に染められ、サイドテールでまとめられている。

 相変わらず綺麗なままの元カノの姿だった。





 混乱する俺を他所に、話は進んでいく。

「由香里さん、お久しぶりっす」

「和也君、久しぶりね。すっかり良い男になったわね」

「あざっす! 由香里さんも相変わらず綺麗っす!」

「ふふ、ありがとね」

「おい? 和也?」

「まあまあ、兄貴。久々の再会なんですから、あちらで話して来てください」

「お、おい!?」

 和也に背中を押され、奥の席へと連れて行かれる。

「ほら、由香里さんも」

「ええ、そうするわね」

 よくわからない状況のまま、数年ぶりにテーブルについて対面する。

「じゃあ、俺は仕込みしときますね」

 そういうと、和也はキッチンに戻っていく。
 ……一体、何がどうなってる?

「なに面白い顔してるの?」

「相変わらず失礼だな」

「せっかく男前なんだから、仏頂面ばかりしてるともったいないわよ?」

「ほっとけ。んで、なにしに来た?」

「いや、店を開いたって聞いたから」

「……和也か?」

 俺はすでに連絡先を消している。
 未練がましいのは好かんし。

「ええ、そうよ。私の後輩でもあるしね」

 和也と俺の高校は一緒で、こいつも一緒だった。
 ごくたまにだが、三人で遊んだりもしていた。

「そっか、和也が伝えてたのか」

「ええ。すぐにお祝いしたかったけど、今更どういう顔をしてお祝いしたらいいかわからなかったから、ひとまず放っておいたんだけど……まあ、軌道に乗って来たって聞いたし……何かグジグジ悩んでるみたいだから」

「な、何のことだ?」

「あれでしょ? 歳下の女の子に迫られて困ってるんでしょ?」

「くっ……和也め」

「和也君のせいにしないの。貴方が仕事を疎かにしたら、一番割りを食うのはあの子よ?」

 ……由香里の言う通りだ。
 最近は上の空であることが増えている。
 和也が仕事できるようになったとはいえ、それが俺が手を抜いていい理由にはならない。

「相変わらず手厳しいことで」

「貴方がうじうじしてるからでしょ? 普段は決断力や行動力があるのに、恋愛方面になるとてんでダメね。結局、付き合うときだって私が告白しなきゃ付き合わなかったでしょ?」

 次々と言葉か飛んできて、俺の心に突き刺さる。
 そうだ、こいつはそういう奴だった。

「いや、そんなことも……あるかもしれない」
 
「ねえ……貴方は私を好きだった?」

「……ああ、それだけは嘘じゃない」

 過ごした日々は楽しかったし、後悔もしていない。

「ふふ、なら全部許してあげる。本当なら、次にあった時一発ぶん殴ろうかと思ったけど」

「おい?」

「だって、貴方……私が別れようって言った時、すんなりと受け入れるんだもの。引き止めるなり、何か言い訳をするかと思ったけどそれもなし。しまいには、連絡先も変わってるし」

「それは……俺が悪かったから。仕事を辞めて金なく、そんな男に付き合わせるわけには……」

「はぁ……相変わらず女心がわかってないわね。そりゃーお金があるに越したことはないわよ?でも女っていうのは、好きな男と苦労を分かち合いたいし支えたいのよ」

「そ、そうなのか……」

「はぁ……貴方ってバカよね」

「おい? どストレートが過ぎるが?」

「だって本当のことじゃない……貴方のお兄さん達は不幸だったの?」

「どういう……」

 そこでハッとした。
 そうだ、兄貴達にお金なんかなかった。
 だが、幸せに暮らしていたじゃないか。

「気づいた? まあ、自分に置き換えると気づかないものよね。だから私は、それでも付いてきて欲しいって言って欲しかったのよ」

「そうか……すまん。俺は多分、逃げたんだと思う」

 そう頼んだとして、断られることを。
 そして仮に受け入れてもらったりなんかしたら……由香里を手放せなくなると。
 そして……それを失うことを恐れたんだ。

「そう、それに気づけたなら良いんじゃない? さて、本題に入るとしましょう」

「へっ?」

「なに? 今更私が来て、もう一度付き合ってとか言うと思った?」

「い、いや、そんなことは……少しだけ」

「まったく、これだから男って奴は。自分を好きだった女が、いつまでも自分のことを好きだと思ってるんだから」

「うっ……面目無い」

「まあ、安心しなさい。で、その歳下の女の子と付き合わないの?」

「いや、でもあいつは……」

「義妹の春香ちゃんなんでしょ? 会ったことはないけど、よく聞いていたわね」

「ああ、そうだ。だから、そういうわけには……」

「なに? 世話になった兄夫婦を裏切るから?」

「あ、ああ……」

「それは確認したの?」

「いや、してない……」

「ほら、いつもそう。勝手に自己完結して。じゃあ、貴方の気持ちは? 何より、その子の気持ちは?」

「俺の気持ち……春香の気持ちか」

「そうよ、勇気を出して言ったはずよ。それをうだうだと言い訳して。私が惚れた男は、そんなつまらない男だったって思わせないでよ」

「由香里……」

 そういう由香里の目には涙が溜まっていた。

「あれ……全く、やんなっちゃう。泣くような女は一番きらいなのに、つい昔を思い出しちゃったわ。とにかく、きちんと向きあいなさい。でないと、ぶん殴るわ」

 ここまで言われて……俺は馬鹿だ。
 自分ばかりが傷ついていると思い込んで……。
 当時、由香里だって悩んだし傷ついたに決まってる。

「わかった。きちんと向き合う」

「そう、なら来た甲斐があるわ。じゃあ、これで帰るわね」

「えっ?」

「用は済んだから。じゃあ、元気でね……会えてよかったわ」

「そっか……ああ、俺もだ。由香里も元気でな」

「ええ、しっかりやんなさいよ」

 それだけ言うと、店の外に出て行った。

 ……よし、覚悟を決めるとするか。


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