上 下
53 / 67
変化する義妹との関係

説教される?

しおりを挟む
 勝気そうな瞳。

 シュッとした輪郭。

 手足が長く、モデル体型の身体。

 量のある長い髪は茶色に染められ、サイドテールでまとめられている。

 相変わらず綺麗なままの元カノの姿だった。





 混乱する俺を他所に、話は進んでいく。

「由香里さん、お久しぶりっす」

「和也君、久しぶりね。すっかり良い男になったわね」

「あざっす! 由香里さんも相変わらず綺麗っす!」

「ふふ、ありがとね」

「おい? 和也?」

「まあまあ、兄貴。久々の再会なんですから、あちらで話して来てください」

「お、おい!?」

 和也に背中を押され、奥の席へと連れて行かれる。

「ほら、由香里さんも」

「ええ、そうするわね」

 よくわからない状況のまま、数年ぶりにテーブルについて対面する。

「じゃあ、俺は仕込みしときますね」

 そういうと、和也はキッチンに戻っていく。
 ……一体、何がどうなってる?

「なに面白い顔してるの?」

「相変わらず失礼だな」

「せっかく男前なんだから、仏頂面ばかりしてるともったいないわよ?」

「ほっとけ。んで、なにしに来た?」

「いや、店を開いたって聞いたから」

「……和也か?」

 俺はすでに連絡先を消している。
 未練がましいのは好かんし。

「ええ、そうよ。私の後輩でもあるしね」

 和也と俺の高校は一緒で、こいつも一緒だった。
 ごくたまにだが、三人で遊んだりもしていた。

「そっか、和也が伝えてたのか」

「ええ。すぐにお祝いしたかったけど、今更どういう顔をしてお祝いしたらいいかわからなかったから、ひとまず放っておいたんだけど……まあ、軌道に乗って来たって聞いたし……何かグジグジ悩んでるみたいだから」

「な、何のことだ?」

「あれでしょ? 歳下の女の子に迫られて困ってるんでしょ?」

「くっ……和也め」

「和也君のせいにしないの。貴方が仕事を疎かにしたら、一番割りを食うのはあの子よ?」

 ……由香里の言う通りだ。
 最近は上の空であることが増えている。
 和也が仕事できるようになったとはいえ、それが俺が手を抜いていい理由にはならない。

「相変わらず手厳しいことで」

「貴方がうじうじしてるからでしょ? 普段は決断力や行動力があるのに、恋愛方面になるとてんでダメね。結局、付き合うときだって私が告白しなきゃ付き合わなかったでしょ?」

 次々と言葉か飛んできて、俺の心に突き刺さる。
 そうだ、こいつはそういう奴だった。

「いや、そんなことも……あるかもしれない」
 
「ねえ……貴方は私を好きだった?」

「……ああ、それだけは嘘じゃない」

 過ごした日々は楽しかったし、後悔もしていない。

「ふふ、なら全部許してあげる。本当なら、次にあった時一発ぶん殴ろうかと思ったけど」

「おい?」

「だって、貴方……私が別れようって言った時、すんなりと受け入れるんだもの。引き止めるなり、何か言い訳をするかと思ったけどそれもなし。しまいには、連絡先も変わってるし」

「それは……俺が悪かったから。仕事を辞めて金なく、そんな男に付き合わせるわけには……」

「はぁ……相変わらず女心がわかってないわね。そりゃーお金があるに越したことはないわよ?でも女っていうのは、好きな男と苦労を分かち合いたいし支えたいのよ」

「そ、そうなのか……」

「はぁ……貴方ってバカよね」

「おい? どストレートが過ぎるが?」

「だって本当のことじゃない……貴方のお兄さん達は不幸だったの?」

「どういう……」

 そこでハッとした。
 そうだ、兄貴達にお金なんかなかった。
 だが、幸せに暮らしていたじゃないか。

「気づいた? まあ、自分に置き換えると気づかないものよね。だから私は、それでも付いてきて欲しいって言って欲しかったのよ」

「そうか……すまん。俺は多分、逃げたんだと思う」

 そう頼んだとして、断られることを。
 そして仮に受け入れてもらったりなんかしたら……由香里を手放せなくなると。
 そして……それを失うことを恐れたんだ。

「そう、それに気づけたなら良いんじゃない? さて、本題に入るとしましょう」

「へっ?」

「なに? 今更私が来て、もう一度付き合ってとか言うと思った?」

「い、いや、そんなことは……少しだけ」

「まったく、これだから男って奴は。自分を好きだった女が、いつまでも自分のことを好きだと思ってるんだから」

「うっ……面目無い」

「まあ、安心しなさい。で、その歳下の女の子と付き合わないの?」

「いや、でもあいつは……」

「義妹の春香ちゃんなんでしょ? 会ったことはないけど、よく聞いていたわね」

「ああ、そうだ。だから、そういうわけには……」

「なに? 世話になった兄夫婦を裏切るから?」

「あ、ああ……」

「それは確認したの?」

「いや、してない……」

「ほら、いつもそう。勝手に自己完結して。じゃあ、貴方の気持ちは? 何より、その子の気持ちは?」

「俺の気持ち……春香の気持ちか」

「そうよ、勇気を出して言ったはずよ。それをうだうだと言い訳して。私が惚れた男は、そんなつまらない男だったって思わせないでよ」

「由香里……」

 そういう由香里の目には涙が溜まっていた。

「あれ……全く、やんなっちゃう。泣くような女は一番きらいなのに、つい昔を思い出しちゃったわ。とにかく、きちんと向きあいなさい。でないと、ぶん殴るわ」

 ここまで言われて……俺は馬鹿だ。
 自分ばかりが傷ついていると思い込んで……。
 当時、由香里だって悩んだし傷ついたに決まってる。

「わかった。きちんと向き合う」

「そう、なら来た甲斐があるわ。じゃあ、これで帰るわね」

「えっ?」

「用は済んだから。じゃあ、元気でね……会えてよかったわ」

「そっか……ああ、俺もだ。由香里も元気でな」

「ええ、しっかりやんなさいよ」

 それだけ言うと、店の外に出て行った。

 ……よし、覚悟を決めるとするか。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

So long! さようなら!  

設樂理沙
ライト文芸
思春期に入ってから、付き合う男子が途切れた事がなく異性に対して 気負いがなく、ニュートラルでいられる女性です。 そして、美人じゃないけれど仕草や性格がものすごくチャーミング おまけに聡明さも兼ね備えています。 なのに・・なのに・・夫は不倫し、しかも本気なんだとか、のたまって 遥の元からいなくなってしまいます。 理不尽な事をされながらも、人生を丁寧に誠実に歩む遥の事を 応援しつつ読んでいただければ、幸いです。 *・:+.。oOo+.:・*.oOo。+.:・。*・:+.。oOo+.:・*.o ❦イラストはイラストAC様内ILLUSTRATION STORE様フリー素材

古屋さんバイト辞めるって

四宮 あか
ライト文芸
ライト文芸大賞で奨励賞いただきました~。 読んでくださりありがとうございました。 「古屋さんバイト辞めるって」  おしゃれで、明るくて、話しも面白くて、仕事もすぐに覚えた。これからバイトの中心人物にだんだんなっていくのかな? と思った古屋さんはバイトをやめるらしい。  学部は違うけれど同じ大学に通っているからって理由で、石井ミクは古屋さんにバイトを辞めないように説得してと店長に頼まれてしまった。  バイト先でちょろっとしか話したことがないのに、辞めないように説得を頼まれたことで困ってしまった私は……  こういう嫌なタイプが貴方の職場にもいることがあるのではないでしょうか? 表紙の画像はフリー素材サイトの https://activephotostyle.biz/さまからお借りしました。

『 ゆりかご 』 

設樂理沙
ライト文芸
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

処理中です...