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変化する義妹との関係

返事は……

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 ……これを誤魔化すことは簡単だ。

 ただ、聞こえなかったふりをして……。

 その後は、なあなあにすれば良い。

 ……しかし、それで良いのか?

 春香はまだまだ子供だが、それでも完全な子供ではない。

 生半可な気持ちで言ってるわけではないはず。

 今だって……手が震えている。

 きっと、勇気を振り絞ったに違いない。

 ならば……俺も正直に、そして真摯に対応するべきだろう。




「それは……男女の意味でか?」

「う、うん……」

「そうか……結論から言うが——その気持ちは」

「待って!」

「うん?」

「へ、返事はいいの! 」

「どういうことだ?」

「お、お兄ちゃんは断るつもりでしょ?」

「それは……」

「わ、わたしは、まずは知って欲しくて……」

「そ、そうか……」

「そ、それで、これからのわたしを見て判断して欲しいの」

「いや、しかし……」

 俺のこの気持ちが、どういったものかわからないが……。
 そのために貴重な高校生活を費やしてしまうのは……。

「お、お兄ちゃん、彼女いないんだよね?」

「あ、ああ、今のところ」

「す、好きな人も?」

「まあ……そうだな」

「じゃあ、わ、わたしが好きでいる分には問題ないよね?」

「えっ? ……いや、しかし、それは……」

「お兄ちゃんは……お兄ちゃんを好きなわたしのこと嫌い……? もし振られちゃったら、もう妹でもいられない?」

「いや! それだけはない!」

 考える前に言葉が出てきた。
 だが、それだけは断言できる。
 春香が、俺にとって大事だということだけは。

「えへへ、よかったぁ……あ、あのね、わたしはお兄ちゃんが好き」

「お、おう」

 いつからこんな顔を……ついこの間までガキンチョだったのに。
 そういや……もうすぐ十六歳になるんだっけな。

「そ、それだけは伝えたかったの! じゃあ……いこ!」

「お、おい?」

 手を引かれ、引っ張られていく。

「きょ、今日はご褒美なんでしょ?」
 
 振り返った顔は……不安に満ちていた。
 当たり前だ……俺に拒絶されるのが怖いに決まってる。

「ああ、そうだな。好きなところに連れて行くさ」

 俺がそう言うと、ようやく笑顔なる。

 どうなるかわからないが……真摯に向き合っていこうと思う。

 それが、勇気を出した春香に対する誠意というものだろう。





 ◇◇◇◇◇◇


 ……い、言っちゃった……。

 で、でも、こうしないと気付いてくれないって……。

 目を見開いたまま固まっているお兄ちゃんを見ながら、少し前のことを思い出す。






 あれは確か、親睦会という名目で、定休日に店に集まって……。

「パチパチパチ! 第10回大将と春香ちゃんをくっつけよう大作戦~!」

「ふえっ!? そんなにやったんですか!?」

「春香ちゃん、冗談よ。美沙ちゃん、春香ちゃんは真面目なのよ?」

「加奈子さん、わかってますよ~。春香ちゃんは可愛いなぁ!」

「あ、あの! 揉まないでください!」

「ぐへへ、いいではないか」

「あの~、俺らいりますか?」

「美沙ちゃん、男の子もいるんだからやめなさい。必要ですよ、和也君が一番長くいるんですから」

「そうですよー」

「まあ、そうですけど……」

「ほほ、和也君。我々は大人しく見守って、意見を求められたら答えればいいのです」

「さすが亮司さん! わかってる!」

「でも、健二は?」

「健二君は大将の足止めをしてもらってます。一緒に買い出しという名目で」

 みんながポンポンと話をして、わたしは追いつくのに精一杯でした。

「えっと、あの……」

「ほら、主役が困ってるじゃない」

「ごめんねー、春香ちゃん……コホン! では作戦会議です。和也君、首尾はどうだね?」

「とりあえず彼女がいないこと、作りたいけど時間と出会いがないことは判明してるかな」

「うむ、ご苦労さんです。亮司さん、経験豊富な貴方のご意見は?」

「そうですね……まずは皆も知ってる通り、彼には両親がいません。ここに雇われた皆のように、事情を抱えております」

 そうだった……和也さんは父親が亡くなってて、お母さんは入院。
 今野さんは両親共働きの中、長女として家のことを一手に引き受けてるって。
 加奈子さんはシングルマザー、亮司さんも奥さんを亡くしてる。
 健二さんも、お父さんがいないって。

「故に……最後の一線を越えさせない壁があります。私達の壁は壊してきたというのに」

「それですよ! 兄貴は自分のことがわかってない!」

「それですよねー!」

「ふふ、その通りですね」

 そっか、ここにいる人はお兄ちゃんが……。

「そして、その壁を壊せるのは春香さんだと思います」

 膝で寝ている詩織を撫でながら、亮司さんが言いました。

「ふえっ!?」

「そうですよねー。大将、よく笑うようになりましたから」

「そうなんすよ。兄貴、仏頂面してる時が多かったのに。今はしませんからね」

「ふふ、春香ちゃんを見る目が優しいもの」

「そ、そうなんですか……?」

「というわけで! 春香ちゃんには、告白をしてもらいます!」

「えっ……えぇ!?」

  い、いきなり話が飛んだよぉ~!

「これまで作戦立ててきたけど、大将はガードが固い! ここは、意識してもらうことから始めないと」

「あぁーそれは言えてるっす」

「そうですよね~まずは妹ではなく女性としてみてもらわないと」

「ふむ……荒療治ですが、宗馬君には必要かもしれません」




 だからわたしは、勇気を振り絞って告白をしました。

 そして……こっからは、遠慮しないもん。
 
「お兄ちゃん!」

「ん? どうした?」

「大好き!」

「へっ……っ——!?」

 い、言っちゃった……!

 でも……お兄ちゃんも照れてる? 

 えへへ、だったら嬉しいなぁ。
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