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義妹との生活

複雑な胸中

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 その日の夜、帰ってくると……。

「お、お兄ちゃん!」

「うおっ!?」

 柔らか!? 良い匂いするし! て……違う!

「えへへ」

「全く、いきなり抱きつくんじゃない」

「ふえっ……? キャ……む~!」

 壁際に押し寄せ、慌てて口を塞ぐ。

「静かに、今寝たところだろ?」

 真っ赤な顔をして、コクコクと頷く。

「よし、離すぞ」

「お、お兄ちゃんのばかぁぁ……」

 スカートの裾をに握りしめて、涙目になってしまった。

「えっ? 俺が悪いのか?」

「うぅー……」

「わかった、わかりました。俺が悪かったから」

「ゆ、許します」

 ……うーん、普通ならめんどくさいと思うところだが。
 不思議と、そういう気持ちにはならないな。




 その後、宥めてリビングのソファーに座る。

「んで、どうした?」

「と、友達ができました……!」

 照れながら言ってくるが……男じゃないよな?

「おっ、良かったな……どんな子だ?」

 この聞き方なら問題あるまい。

「ふえっ? ……うーん、綺麗な子かなぁ。大人しいっていうよりは、大人っぽい感じで……余裕がある感じかなぁ」

 うむ、どうやら女の子のようだな。
 ……いや、別に、男だろうが女だろうが関係ないが。
 ……おれは、誰に言い訳をしているんだ?

「お兄ちゃん?」

「そっかそっか、うんうん、これで一安心だ。じゃあ、明日はスマホを買いに行かないとな」

「うんっ!」

「じゃあ、さっさと寝なさい」

「はーい。お兄ちゃん、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

 春香は大人しく、自分の部屋へと入る。




 少し寝付けない俺は、ビールを飲みながらベランダに出る。

 普段はあまり飲まないのだが……少し落ち着きたかった。

「いかんな……これはいかん」

 十も下の相手に、俺は何をしている?
 しかも、相手は妹……義妹とはいえな。

「さっきの抱きつかれた感触が消えん」

 まったく、高校生じゃあるまいし……。
 やっぱり、欲求不満なのかねぇ……。

「さっさと彼女でも作った方がいいのか……」

 しかし、そんな暇もないしなぁ。
 そもそも、相手がいない……言ってて悲しくなってきた。

「まあ、別に彼女が欲しいわけでもないし」

 今は、自分と二人のことでいっぱいいっぱいだ。
 ここで彼女なんかいたら、キャパオーバーになるのは目に見えている。

「ここは、我慢するしかないか。別に春香とどうこうなるつもりもない」

 そう、たとえ……あいつが——








 翌朝……目覚ましの音が頭に響く。

「イテェ……」

 昨日、少し飲みすぎたな。

「おじたん!」

「グハッ!?」

「朝だおー」

「お、おふっ……おはようさん」

  どうやら、タイブをくらったようだ。
 あ、危ねぇ……リバースするかと思ったぜ。
 詩織の顔にかけようものなら、トラウマになるところだった。

「詩織、もう少し加減しようね?」

「あいっ!」

「いや、そういう問題では……」

「たのちい!」

「そうか……では、加減してくれると助かる」

「お兄ちゃん、大丈夫? 顔色悪いけど……」

 春香が俺のおでこに手を当てる。
 なんだか、少し照れくさくなる。

「お、おい」

「熱はないよね……今日やめよっか?」

「いや、買いに行くぞ。平気だ、昨夜少し新作メニューを考えてしまってな」

「そうなんだ。あんまり無理しちゃダメだよ?」

「クク……ああ、わかった。ありがとな」

 頭をわしわしとする。

「むぅ……また頭をくしゃくしゃにした」

「お腹減ったお!」

「へいへい」




 重たい体を動かし、朝の準備を済ませる。

「おっ、綺麗に焼けたな」

「ほんと!?」

「ああ、美味そうだ」

「えへへ……やったぁ」

 テーブルの上には、綺麗な卵焼きがあった。
 味噌汁やサラダもあり、ご飯や納豆もある。
 シンプルだが、一番そそる朝飯だな。

「いただきます」

「いただきます」

「いたーきます!」

「どれ……うん、味も申し分ないな。昨日の弁当も美味かったしな」

「わぁ……! 頑張って良かったぁ~」

「やはり、若いと上達も早いな」

「おねえたん! おいちい!」

「ありがとね、詩織」




 美味しい朝ごはんを食べ終えると……。

「お兄ちゃん、今日はどうするの?」

「そうだな……詩織を迎えに行って、そのまま学校まで迎えに行くか」

「あっ、近いもんね」

「そういうことだ。目立つと可哀想だから、少し離れているからな」




 予定を確認し、いつも通りに詩織を送っていく。

 そして、家に帰ってきたら……とあることに気づく。

「……一人か」

 詩織と春香がきて、二週間くらい経ったが……。
 こうして一人で家にいるのは初めてかもしれないな。

「……寂しいのか?」

 懐かしい感覚に襲われる。
 最初に家を出た頃に感じた孤独感を……。

「もう平気だと思っていたんたがなぁ……うん?」

 スマホの音が鳴る。

「兄貴?」

 とりあえず出てみる。

「兄貴? どうした?」

 制限があるから滅多にかけないと言っていたが。

『すまんな、宗馬。今日は定休日だよな?』

「ああ、そうだよ」

『二人は学校だよな?』

「うん? まあ、そりゃそうだ。どうしたんだよ?」

『いや……実は、長引きそうでな』

「……そうか」

 期間は決まっていなかったはずだが……。

『まあ、まだ決まったわけではないんだが。一応、お前には知らせておこうと思ってな』

「俺はいつまでも預かるから遠慮しなくていいから」

『おっ、嬉しいこと言ってくれるねぇ。 どうだ? 誰かと過ごすのも悪くないだろ?』

「まあね……色々と思い出したというか」

『ならば、この転勤も悪いことばかりではないな。お前が、それを感じてくれたなら』

「兄貴……ありがとな。二人を預かってわかった。楽しいけど、色々大変だよ」

『ハハッ! まだ子供もいないくせに、所帯じみてきたな。なに、お前がいてくれて良かったのは俺の方だ。桜もいたが……やはり、兄弟のようなお前がいてくれて良かった。おかげで、俺はやってこれたんだと思う』

「臭え」

『ひでぇな』

「「クク」」

 二人の声が重なる。

『じゃあ、桜に変わるな』

「わかった」

『もしもし?』

「どうも、桜さん」

『二人は元気?』

「ええ、そりゃもう。今朝も起こされちゃいましたよ」

『ふふ、ごめんなさいね』

「詩織はお着替えをできるようになりましたし、春香は料理を覚えてきましたよ」

『あらあら……少し寂しいわね』

 ……無理もないよなぁ。
 子供の成長を間近で見ることができないんだから。
 今度、動画でも撮ってみるか。

「桜さん……」

『ごめんね、宗馬君。代わりに成長を見守ってくれると嬉しいわ』

「わかりました。今度、動画を撮っておきますね」

『あら、素敵。相変わらず、優しい子ね』

「そうですかね……よくわからないですけど」

『ふふ、昔から捻くれさんだからね。あとは、気づいているけど気づかないふりをするものね』

「……それは」

『良いのよ、ゆっくりで。まだまだ若いんだから』

「はい……」

『じゃあ、また連絡するわ』

「ええ、二人もお元気で」

 通話を切って、ベランダに出る。

「お見通しか」

 さすがは、俺を小さい頃から知っているだけはあるなぁ。

 俺は、色々なことから目を背けてきた。

 失うことも恐れ、関係が変わることも恐れ……。

 自分に言い訳をし続けてきた。

 自分は邪魔者だと、きっと迷惑だと……。

 そんなわけはないと、頭ではわかっているのに。

 ……変わっていく必要があるのかもしれないな。
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