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義妹との生活

始まりの朝

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 そして、翌日の日曜日を迎える。

「お、お兄ちゃん!」

「まあ、落ち着け」

「あう?」

「し、詩織! お姉ちゃんどうしよう!?」

「あいっ!」

「そ、そうだよね!」

「いや、意思疎通できてないから」

 朝ごはんを食べ終えた後、春香はずっとこんな感じだ。

 どうやら、めちゃくちゃ緊張しているようだ。






 ようやく落ち着いて、着替えを済ませる。

「さあ、行くぞ」

 玄関前で振り向き、手を差し伸べる。

「う、うん……」

 それをおずおずと握る。

「大丈夫だ、俺がついてる」

「お兄ちゃん……はぃ」

「どこいくお!?」

 もう片方の手を握っている詩織が、目をキラキラさせている。

「詩織、昨日言ったろ? 今日は、庭でおじいさんに遊んでもらいなさい」

「おじいたん!? 遊ぶお!」

 ふむ、さすがは亮司さんだ。
 詩織が人懐こいとはいえ、こうもすぐに懐くとは。
 まあ、俺も出会った頃からあの包容力には敵わないと思っているが。






 下へ降りていくと……。

「みなさん、おはようございます」

「亮司さん!? は、早くないですか?」

 まだ約束の二十分前なんだけど………。

「ホホ、申し訳ない。年甲斐もなく、楽しみにしてしまったようですな。まるで、遠足に行く前の子供の気分でしたよ」

 少し照れ臭そうに、そんなことを言った。
 ……初めて見る顔だ。
 うん、頼んで正解だったかもしれない。

「では、まずは庭に行きましょうか」

 階段の脇を通り、家の裏側へと向かう。

「わぁ……こうなってたんだぁ」

「すごいお!」

「うむ、手入れが行き届いておりますな」

「昨日の夕方と、今日の朝に頑張りましたよ。これからは、お客様の目にも入りますからね」

 店の一番奥の席からは、カーテンを開ければこの庭が目に入る。

「わたし、全然気づかなかったよ」

「まあ、店のカーテンも閉めてるしな。それに、ベランダは反対側にしかないし、階段の脇からしか行けないし」

 最初は家庭菜園でも始めようかと思ってたが、あっさりと仕入先が見つかったからなぁ。
 それ以来放置してあったが……うん、なんとか見られる範囲にはなった。

「じゃあ、俺は仕事に行くので。詩織のことよろしくお願いします」

 きちんと柵もあるし、子供くらいなら走り回れるスペースもあるから平気だろう。
 昨日の夕方にホームセンターに行って、テーブルと椅子も買ってきたし。
 あとはオモチャとか、その類のものを揃えたし。

「ええ、畏まりました。目を離さないようにいたします」

 お辞儀をする姿は、まるで一流の執事のようだ。
 うーん、詩織お嬢様って感じか。

「あの、お給料は……」

「頂きませんよ。それは、昨日も申したはずです。こんな老人の暇潰しに付き合ってくれるのですから。むしろ、私が支払うべきかと」

「い、いえ! そういうわけには……わ、わかりました」

「ええ、ではいってらっしゃいませ」

「詩織、おじいさんのいうことを聞くように。わかったな?」

「あいっ!」

「良い返事だ。春香、行くとしよう」

「う、うん」

 春香を連れて、店へと入ると……。

「兄貴! おはようございます!」

「どうも~、おはようです」

「二人とも、おはよう」

「お、おはようございます!」

 昨日のうちに、今野さんには連絡を入れておいた。
 春香の指導のために、少し早めに来れないかと。
 ちなみに、快く引き受けてくれた。

「じゃあ、俺は仕込みしちゃうから。今野さん、すまないがよろしくお願いね」

「はいはーい、お任せを~」

 年も近いし、コミュ力も高いから安心して任せて良いだろう。

 俺は意識を切り換えて、厨房へと入る。




 ▽▽▽▽▽▽

 うぅー……緊張するよぉ~。

 お、お兄ちゃんに迷惑かけないようにしなきゃ……!

「はーるかちゃん!」

「ひゃっ!?」

「むむっ! 発育が良い! お椀型のCと見た! しかも発展途上と……ずるいわねー」

「な、何をするんですか!?」

 む、胸を揉まれました!?
 うぅー……お兄ちゃんにも触られたことないのに……何言ってんの!?

「いやー、ごめんなさい。つい可愛くて。緊張取れた?」

「へっ……」

 あれ? 身体が硬かったのに……。

「あと、こんなことする私なんで遠慮はいらないよー」

 ……そっかぁ、わたしの緊張をほぐすために。
 わたしとそんなに違わないのに……大人だなぁ。

「あ、ありがとうございます!」

「あちゃー礼を言われちゃった……ちょろいって言われない?」

「ふえっ?」

「なるほど……こりゃー大将も心配するわけだ。電話で言ってた意味がわかったかも」

「お、お兄ちゃんはなんて……?」

「うーん……私から言えるのは、妹が可愛いから心配ってことかな。あと素直なところがあるから、騙されちゃうかもしれないって」

「お兄ちゃん……」

 嬉しいけど……少し複雑です。
 やっぱり、お兄ちゃんにしたらまだまだ子供なんだろうなぁ。

「あと……俺が守ってやらないと!とか」

「ふえっ!?」

「おい? 捏造するんじゃない」

 振り返ると、お兄ちゃんがしかめっ面で立っていました。

「えぇー? 言ってませんでしたかー?」

「……似たようなことは言った」

「ほら~」

「お、お兄ちゃん……エヘヘ」

「ったく……ほら、だべってないで仕事を教えてやってくれ。せっかく早めに来たんだし」

「そうですねー、その分いつもより良い時給も頂いてますしねー」

「じゃあ、俺は戻るから」

 お兄ちゃんはそれだけいうと、キッチンへ入って行きました。
 ……それよりも、気になることが。

「あ、あのぅ……」

「ん?」

「時給って……」

「ああ、早めにくる代わりに時給が高いんだ。あと、指導するからその分のお給料も上乗せしてくれるって言うし」

「えっ?」

「あっ——私は遠慮したんだよ? 普段から散々お世話になってるからさ。でも、そういう馴れ合いは良くないって。お金のことや、仕事のことはきちんとしないとってね。ただでさえ職権濫用なのに、そこまでしたらダメだってさ。ほんと大将って、変なところで真面目だよねー」

「そ、そうなんですね」

 わたし、そんなこと全然考えてなかった……。

 ただお兄ちゃんに甘えるがままに、それを受け入れてしまった。

 ……そうだ、ここで落ち込んじゃうからダメなんだ。

 わたしが今するべきことは……少しでも早く、仕事を覚えることなんだ。

 それが、結果的にお兄ちゃんへの恩返しになるはず。

「こ、今野さん!」

「ん? どしたの?」

「が、頑張りますので……よろしくお願いします!」

「よっしゃ! お姉さんに任せなさい! あっ——大将の女性の好みとかも教えようか?」

「へっ……ふえっ~!?」

「ふふ、真っ赤になって可愛い。さあ、やりましょうか」

 お、落ち着いて! わたし! 今は仕事に集中!

 でも、あとで聞いてみようかなぁ……なんてね。
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