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義妹との生活
やることが山積み
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その後、家に戻ると……。
「おっ、おかえりなさい……」
明らかに沈んだ様子の春香がいた。
どうやら、上手くいかなかったようだ。
「おう、ただいま」
「おねえたん! ただいま! どうかしたお?」
「う、ううん! 何でもないのよ。さあ、お兄ちゃんは任務があるからね。帰ってくるまで、お姉ちゃんと遊ぼっか?」
「あいっ!」
「じゃあ、頼んだ」
「お兄ちゃん! ……これ」
「おっ、また作ってくれたのか。というか、お前はちゃんと食べたんだろうな?」
その手には、ラップに包まれたおにぎりとサンドイッチがある。
「う、うん……同じやつ作ったから」
「そうか、ありがとな。じゃあ、行ってくる」
「「いってらっしゃい!!」」
二人に見送られ、階段を下りていく。
気になるし、バイトの件もあるが……。
とりあえず、今は仕事に集中しなくては。
金曜のディナーは、正しく戦争である。
一般的に、金曜日というのは財布の紐が緩む。
うちの店は予約制とはいえ、金曜は単品注文も多いので大変だ。
「宗馬君、生ハムサラダ二つお願いします」
「大将! 鯛のカルパッチョ三つです!」
「宗馬さん、マルゲリータピザ二つ追加です」
亮司さん、今野さん、健二君の三人体制だが……。
「兄貴! ピザやります!」
「おう、任せた」
俺の手は休むことなく、ひたすら動いている。
「カルパッチョソースはバルサミコ酢とオリーブオイル……生ハムサラダにはパルメザンチーズとシーザードレッシング……」
小声で口に出しつつ、次の行程を確認しながら作業する。
この方がミスが少ないし、作業スピードも上がるからだ。
「兄貴!」
焼き上げの確認を横目でチラッと見る。
「おう、いい焼き色だ」
「うしっ!」
忙しい金曜日だが、このように和也の成長もあり……。
なんとか無事に、終わりを迎えた。
「ふたりとも、お疲れ様。先に上がってくれ」
「お疲れ様でーす。じゃあ、私達はお先に失礼しますねー」
「お疲れ様でした」
学生さんの二人を先に帰して、後片付けをする。
「いやー、疲れましたね」
「だな。でも、和也が使えるようになってきたから助かるよ」
「まじっすか!? ……でも、言われたことぐらいしかできてないですけど」
「それだけでも助かるさ。少しずつ覚えていけばいい」
「はいっ!」
「眩しい若者を見るのは気分が良いものですね」
隣でワイングラスを磨きつつ、亮司さんがつぶやく。
「亮司さんだって、まだまだこれからですよ」
還暦を過ぎたとはいえ、平均年齢を考えればまだまだ人生は長い。
「いえいえ、私は妻も子供もいませんから。あとは、静かに余生を過ごすだけですよ」
うーん……仕事はできるし、会話も普通に出来るんだけど。
少し覇気がないというか、経緯を知っているから踏み込み過ぎるのもどうかと思うし。
俺の原点であり恩人でもあるから、何か力になれたらいいけど……。
仕事を終えて、帰宅すると……。
「お兄ちゃん、お帰りなさい」
「ああ、ただいま」
出迎えてくれた春香に挨拶をし、手洗いうがいをしてからソファーに座る。
「明日はお休みなんだよね?」
「ああ、土曜日だからな。詩織は何か言っていたか?」
「お出掛けしたいって……どうしよう?」
「どうしようもないだろ。何処か連れて行かないとな」
「いいの? お兄ちゃん、疲れてるのに……」
「はん、舐めるなよ。俺はまだ若いんだぞ? お前から見たらおっさんかもしれないが」
「お、おっさんじゃないもん。お兄ちゃんは若いもん」
「おっ、嬉しい事言ってくれるな。さて……バイトの件だが、全員から許可をもらったよ。あとは、タイミングを見て始めるとしよう」
「あ、ありがとう……で、できるかな?」
「さあな、そればっかりはやってみないとわからん。皆も出来る限りフォローするってさ」
「みんな、良い人だよね。なんていうかな……自分を持ってる?」
「そうかもしれないな。種類は違うが、自分の中に確固たる信念や考えを持っているかもしれない」
「わたしには、そういうのが足りないのかな……? 」
「ないのか? これだけは負けないとか、これだけは譲れないものとか」
「ふえっ? ……あっ——」
「ん? ありそうな顔だな。それは何だ?」
「お、お兄ちゃんには言えないもん! ばかぁ……!」
「あん?」
ただ、聞いただけなのに……難しいやつ。
「そ、それより! わたしは、そういうのがあまりなくて……だから、友達も出来ないのかも」
「なんだ、今日も話せなかったのか?」
春香は気まずそうにコクンと頷く。
「まあ、一人が好きなら話は別だが……そうじゃない場合は、友達いないとしんどいわな」
「月曜から通常授業が始まるから……お昼ご飯どうしよう?」
「もうグループが出来てる感じなのか?」
「うん……YouTubeの知らない話とか、SNSの話題とかわかんないし。もちろん、興味自体もあまりないけど……少しくらいは、覚えたいと思ったり」
あぁー時代が違うな。
そうだよな、今の時代の子達は大変だな。
俺が学生の頃は、まだここまでじゃなかった。
ちょうどスマホが出てきて……あっ——。
「おい、今更なこと聞くが……スマホは?」
よく考えて見たら、いじってるのを見たこともない。
というか、連絡先の電話番号しか知らない。
それも、一度もかけたこともないし、かかってきたこともない。
「へっ? も、持ってないよ? 今も、ガラケーを使ってるよ」
「なに? ……いや、普通なのか?」
「ううん、高校生の9割はスマホを持ってるって……」
「そりゃ、友達も出来づらいわな。兄貴や桜さんは?」
俺の独断で買わせるわけにはいかない。
「実は、そういう話も出たんだけど……急に転勤が決まって、それどころじゃなくなっちゃって」
「まあ……それもそうか。欲しいのか?」
「お、お兄ちゃんも持ってるよね?」
「俺も最近買ったばかりだよ。だから、ちっとも使い方もわからん」
ライン登録やらPayPayやらさっぱりだ。
なにせ高校生の時は、スマホを持てるような環境ではなかったし。
元々ものぐさなので、大人になっても大した必要性も感じなかったし。
「そ、そうなんだ。でも、あった方が良いかな?」
「すまんが、ちょっと待ってくれな。確か、明日辺りに兄貴から連絡が来るはずだ」
「そういえば、お父さんが間違っても電話するなって」
「料金がえげつないからな。多分、あっちで使えるWi-fiをレンタルしてるはずだ」
「えっと……?」
「大丈夫だ、俺もよくわからん。ただ、それを使えば容量の関係もあるが通話やメールを送れるようになるらしい。ただ、時差があるから前もって時間調整をしないとな」
「へぇ~……お兄ちゃん、ありがとう」
「あん?」
「そういう面倒なこと聞いててくれて……わたし、全然知らなくて」
「良いんだよ、それで。甘えるのが妹の仕事だ。俺の楽しみを奪うんじゃない」
照れ臭いので、頭をわしわしと撫で回す。
「うぅー……頭くしゃくしゃだよぉ~」
「悪い悪い。げっ、こんな時間かよ。ほら、とりあえず寝ろ」
「はーい。お兄ちゃん、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
春香が部屋に入るのを確認して……。
「ふぅ……」
やることは山積みだ。
春香のバイトのこと、スマホのこと、学校のこと。
春香が通常授業になるから、詩織の面倒もどうするか……。
五歳児を、一人でこの部屋に居させるのもな……。
危険だし……何より寂しがらせてしまう。
「その辺りも、兄貴達に相談しないといけないか」
……俺も大変だったけど。
兄貴達も、俺が居て大変だっただろうなぁ。
その分の恩だけでも、返していかないと。
「おっ、おかえりなさい……」
明らかに沈んだ様子の春香がいた。
どうやら、上手くいかなかったようだ。
「おう、ただいま」
「おねえたん! ただいま! どうかしたお?」
「う、ううん! 何でもないのよ。さあ、お兄ちゃんは任務があるからね。帰ってくるまで、お姉ちゃんと遊ぼっか?」
「あいっ!」
「じゃあ、頼んだ」
「お兄ちゃん! ……これ」
「おっ、また作ってくれたのか。というか、お前はちゃんと食べたんだろうな?」
その手には、ラップに包まれたおにぎりとサンドイッチがある。
「う、うん……同じやつ作ったから」
「そうか、ありがとな。じゃあ、行ってくる」
「「いってらっしゃい!!」」
二人に見送られ、階段を下りていく。
気になるし、バイトの件もあるが……。
とりあえず、今は仕事に集中しなくては。
金曜のディナーは、正しく戦争である。
一般的に、金曜日というのは財布の紐が緩む。
うちの店は予約制とはいえ、金曜は単品注文も多いので大変だ。
「宗馬君、生ハムサラダ二つお願いします」
「大将! 鯛のカルパッチョ三つです!」
「宗馬さん、マルゲリータピザ二つ追加です」
亮司さん、今野さん、健二君の三人体制だが……。
「兄貴! ピザやります!」
「おう、任せた」
俺の手は休むことなく、ひたすら動いている。
「カルパッチョソースはバルサミコ酢とオリーブオイル……生ハムサラダにはパルメザンチーズとシーザードレッシング……」
小声で口に出しつつ、次の行程を確認しながら作業する。
この方がミスが少ないし、作業スピードも上がるからだ。
「兄貴!」
焼き上げの確認を横目でチラッと見る。
「おう、いい焼き色だ」
「うしっ!」
忙しい金曜日だが、このように和也の成長もあり……。
なんとか無事に、終わりを迎えた。
「ふたりとも、お疲れ様。先に上がってくれ」
「お疲れ様でーす。じゃあ、私達はお先に失礼しますねー」
「お疲れ様でした」
学生さんの二人を先に帰して、後片付けをする。
「いやー、疲れましたね」
「だな。でも、和也が使えるようになってきたから助かるよ」
「まじっすか!? ……でも、言われたことぐらいしかできてないですけど」
「それだけでも助かるさ。少しずつ覚えていけばいい」
「はいっ!」
「眩しい若者を見るのは気分が良いものですね」
隣でワイングラスを磨きつつ、亮司さんがつぶやく。
「亮司さんだって、まだまだこれからですよ」
還暦を過ぎたとはいえ、平均年齢を考えればまだまだ人生は長い。
「いえいえ、私は妻も子供もいませんから。あとは、静かに余生を過ごすだけですよ」
うーん……仕事はできるし、会話も普通に出来るんだけど。
少し覇気がないというか、経緯を知っているから踏み込み過ぎるのもどうかと思うし。
俺の原点であり恩人でもあるから、何か力になれたらいいけど……。
仕事を終えて、帰宅すると……。
「お兄ちゃん、お帰りなさい」
「ああ、ただいま」
出迎えてくれた春香に挨拶をし、手洗いうがいをしてからソファーに座る。
「明日はお休みなんだよね?」
「ああ、土曜日だからな。詩織は何か言っていたか?」
「お出掛けしたいって……どうしよう?」
「どうしようもないだろ。何処か連れて行かないとな」
「いいの? お兄ちゃん、疲れてるのに……」
「はん、舐めるなよ。俺はまだ若いんだぞ? お前から見たらおっさんかもしれないが」
「お、おっさんじゃないもん。お兄ちゃんは若いもん」
「おっ、嬉しい事言ってくれるな。さて……バイトの件だが、全員から許可をもらったよ。あとは、タイミングを見て始めるとしよう」
「あ、ありがとう……で、できるかな?」
「さあな、そればっかりはやってみないとわからん。皆も出来る限りフォローするってさ」
「みんな、良い人だよね。なんていうかな……自分を持ってる?」
「そうかもしれないな。種類は違うが、自分の中に確固たる信念や考えを持っているかもしれない」
「わたしには、そういうのが足りないのかな……? 」
「ないのか? これだけは負けないとか、これだけは譲れないものとか」
「ふえっ? ……あっ——」
「ん? ありそうな顔だな。それは何だ?」
「お、お兄ちゃんには言えないもん! ばかぁ……!」
「あん?」
ただ、聞いただけなのに……難しいやつ。
「そ、それより! わたしは、そういうのがあまりなくて……だから、友達も出来ないのかも」
「なんだ、今日も話せなかったのか?」
春香は気まずそうにコクンと頷く。
「まあ、一人が好きなら話は別だが……そうじゃない場合は、友達いないとしんどいわな」
「月曜から通常授業が始まるから……お昼ご飯どうしよう?」
「もうグループが出来てる感じなのか?」
「うん……YouTubeの知らない話とか、SNSの話題とかわかんないし。もちろん、興味自体もあまりないけど……少しくらいは、覚えたいと思ったり」
あぁー時代が違うな。
そうだよな、今の時代の子達は大変だな。
俺が学生の頃は、まだここまでじゃなかった。
ちょうどスマホが出てきて……あっ——。
「おい、今更なこと聞くが……スマホは?」
よく考えて見たら、いじってるのを見たこともない。
というか、連絡先の電話番号しか知らない。
それも、一度もかけたこともないし、かかってきたこともない。
「へっ? も、持ってないよ? 今も、ガラケーを使ってるよ」
「なに? ……いや、普通なのか?」
「ううん、高校生の9割はスマホを持ってるって……」
「そりゃ、友達も出来づらいわな。兄貴や桜さんは?」
俺の独断で買わせるわけにはいかない。
「実は、そういう話も出たんだけど……急に転勤が決まって、それどころじゃなくなっちゃって」
「まあ……それもそうか。欲しいのか?」
「お、お兄ちゃんも持ってるよね?」
「俺も最近買ったばかりだよ。だから、ちっとも使い方もわからん」
ライン登録やらPayPayやらさっぱりだ。
なにせ高校生の時は、スマホを持てるような環境ではなかったし。
元々ものぐさなので、大人になっても大した必要性も感じなかったし。
「そ、そうなんだ。でも、あった方が良いかな?」
「すまんが、ちょっと待ってくれな。確か、明日辺りに兄貴から連絡が来るはずだ」
「そういえば、お父さんが間違っても電話するなって」
「料金がえげつないからな。多分、あっちで使えるWi-fiをレンタルしてるはずだ」
「えっと……?」
「大丈夫だ、俺もよくわからん。ただ、それを使えば容量の関係もあるが通話やメールを送れるようになるらしい。ただ、時差があるから前もって時間調整をしないとな」
「へぇ~……お兄ちゃん、ありがとう」
「あん?」
「そういう面倒なこと聞いててくれて……わたし、全然知らなくて」
「良いんだよ、それで。甘えるのが妹の仕事だ。俺の楽しみを奪うんじゃない」
照れ臭いので、頭をわしわしと撫で回す。
「うぅー……頭くしゃくしゃだよぉ~」
「悪い悪い。げっ、こんな時間かよ。ほら、とりあえず寝ろ」
「はーい。お兄ちゃん、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
春香が部屋に入るのを確認して……。
「ふぅ……」
やることは山積みだ。
春香のバイトのこと、スマホのこと、学校のこと。
春香が通常授業になるから、詩織の面倒もどうするか……。
五歳児を、一人でこの部屋に居させるのもな……。
危険だし……何より寂しがらせてしまう。
「その辺りも、兄貴達に相談しないといけないか」
……俺も大変だったけど。
兄貴達も、俺が居て大変だっただろうなぁ。
その分の恩だけでも、返していかないと。
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