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義妹との生活

老紳士

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詩織を乗せて、無事に家へと戻ってくる。

すると、そこには見慣れた靴がある。

「あれ? 春香?」

「おねえたん! ただいま!」

リビングから少しおどおどした春香が顔を出す。
これは……上手くいかなかったか?

「詩織、お、おかえり! お兄ちゃんも……」

「おう、ただいま。そうか、帰ってたのか。詩織、手洗いうがいをしてきなさい」

「あいっ!」

うんうん、一人で出来ることはやらせていかないとな。

「お兄ちゃんは、すぐに仕事?」

「いや、少し飯を詰めこんでから行く。さすがに、夜まで食わないのはしんどい」

「こ、これ、良かったら……」

後ろに隠してた手から、見慣れた袋が目に入る。

「おっ、マク○か。帰りに行ったのか?」

「う、うん。それで、お兄ちゃんがお腹空いてるかなって思って……元々はお兄ちゃんのお金なんだけど」

「いや、助かったよ。そうか、友達はできたか?」

「そ、そこまでじゃないよ」

うーん……まあ、色々突っ込みたいところだが、今は時間もないしな。
それに、あんまり聞かれるのも嫌な年頃だろうし……少し待ってみるか。

「じゃあ、悪いが詩織を頼むな。俺は、有難くこれを頂戴しよう」

「うん!  お仕事頑張って!」

「おう、ありがとな。頼りになるお姉さんで助かるよ」

「ふえっ!? わ、わたしが……?」

「あん?」

「ううん! ごめんね! いってらっしゃい!」

「よくわからんが……行ってきます」

一体、何に驚いたんだ?
相変わらず、よくわからん妹だこと。
まあ、暗い顔が明るくなったから良しとするか。



その後は和也の指導をしつつ、マク○を食べ……。

ディナータイムが始まる前、お助けマンが現れる。

「こんばんは、宗馬君」

「亮司さん、ありがとうございます」

お助けマンこと、佐々木亮司さんだ。
還暦を過ぎた老紳士で、以前は喫茶店のマスターをしていた。
その店の常連だった俺は、様々な事情により彼を雇いたかった。
そして、まだまだ若造の俺に、色々なことを教えてくれる大先輩でもある。

「いえいえ、私も楽しんでいますから。それに、宗馬君の料理は美味しいですからね」

「そう言って頂けると嬉しいです」

そう……この落ち着いた雰囲気こそが、ディナータイムに欲しかったんだ。
俺たちは若すぎて、そういう雰囲気がまだ出せない。
ディナータイムは年齢層が高いから、そういう人を雇いたかったんだよな。

「では、私がホールを担当いたしましょう。お二人は、料理に専念なさってください。今野さんは、ドリンク類をお願いします」

「「「イエッサー!」」」

三人とも、ついつい同じ格好で敬礼をしてしまう。
こう……ぴしっとするっていうか、きちんとしなきゃ!って気にさせられる。




もちろん、その仕事振りも見事だ。

「あら、亮司さんじゃない。今日のおすすめは何かしら?」

あれは……店の常連であり、自治会長を務めている河村さなえさんだ。
ご主人が出張でいない時に、たまに食べに来る方だ。
悪い人ではないが、少し気難しいところがある。
……俺は、少し苦手だったりする。

「こんばんは、さなえ様。本日のおすすめはローストビーフ~マスタードソースを添えて~となっております」

「あら、いいわね。じゃあ、それをお願いしようかしら」

「ご一緒にこちらのワインはいかがでしょうか? 少し甘口のワインで、よく合うと思いますよ?」

「そうね、頂こうかしら」

「ありがとうございます。では、すぐにお持ちいたしますね」

……かっけー。
いや、言葉自体はありふれたものなんだけど……。
所作が綺麗で、一個一個の動きが洗礼されている。
何よりいい声だし、声が柔らかい。

「宗馬君、おすすめを一つお願いします」

「はい、すぐにお持ちしますね」

手早くカットして、スライスした玉ねぎを敷いたお皿に盛り付ける。
さらにパセリとレモン、その脇に特製ソースを添える。

「うむ、綺麗ですな」

「あ、ありがとうございます」

亮司さんはそう言い、お皿を持っていく。

「ふぅ……」

「兄貴って、亮司さんにはいつも緊張してますよね?」

「当たり前だろ。俺があの人の店のビーフシチュー目当てに何年通ってたと思う」

俺が洋食に目覚めたきっかけをくれた人だ。
高校一年の時に、たまたま入って食べたら……感動してしまった。
濃厚で、それでいて後味の良い美味しさ。
肉はほろほろで、口の中で溶けるようで……うん、最高だった。

「確か、奥さんを亡くしているんですよね……」

「ああ、数年前にな」

愛妻家で、子供もいない亮司さんは……意気消沈してしまった。
二人でやっていた喫茶店を畳むと聞いた俺は、居ても立っても居られず……。
うちの店で働いてくれませんか!と頼み込んだんだよな。




そして、疲れないディナータイム終わる。
亮司さんがいると、ホールを気にしなくていいのが大きい。
何より、売上も上がるし。

「お疲れ様でした。亮司さん、ありがとうございます」

バイトの女性とは違い、最後まで手伝ってくれるのも助かる。
特にグラス拭きなんかはお手の物だし。

「いえいえ、こちらこそありがとうございます」

「これ、良かったら食べてください」

残業代わりに、ローストビーフとソースを入れたタッパーを渡す。

「宗馬君、いつもありがとう。では、この後ワインと一緒に飲むとしますね。では、失礼いたします」

その去り際も見事だ。
すっと、ターンのように踵を返して去っていく。

「いやー相変わらず渋いっすねー」

「だよなー、カッコいいよなぁ」

週に二回ほど来てくれる亮司さんは、正しくお助けマンである。




仕事を終えて、家に帰ると……。

「お兄ちゃん、お疲れ様」

「おっ、起きてたのか。もうすぐ十一時になるが……明日も学校だろ?」

「うん……そうなんだけど……」

少し俯いて、元気がなさそうに見える。
ふむ……疲れているが、可愛い妹のためだ。

「お茶でも飲むか?」

「ふえっ?」

「何か、話があるんじゃないのか?」

「いいの……? お兄ちゃん、疲れてるのに」

「いいに決まってる。ほら、行こうぜ」

「えへへ……ありがとう、お兄ちゃん」

お茶を用意して、リビングのソファーに座る。

「で、どうした?」

「あ、あのね……バ、バ」

「ババ?」

もしや、またバカァと言われるのか?
いや、何もしていない……はず。

「ち、違くて……お兄ちゃん、わたし……バイトがしたい」

「あん?」

……これまた難題が出てきたぞ。

疲れた頭をフル回転させ、俺は思考の整理をするのだった。

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