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一章 義妹を預かる

幕間

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 預かった詩織と春香と過ごしつつ……。

 当たり前だが、仕事をして……。

 和也に新しい仕事を教えてたりしてると……。

 まあ、当然こうなるよな。




 詩織が寝た後、春香が俺の部屋にやってきた。

 そして……。

「へっ?」

「だから、明日から学校だよ?」

「ま、まじか」

 いや、最初に聞いてはいたが……。
 思ったより余裕がなくて忘れていた。
 来たのが四月の一日の金曜で、今日が七日の木曜だから……。
 あらら、もうそんなに経ったのか。

「だ、大丈夫? やっぱり、お迎えはわたしが……」

「い、いや! 俺がいく!」

「で、でも……」

「平気だよ、春香。和也も頑張ってくれるというし」

「でも、悪いよ……」

「その分給料は上乗せするし、あいつ本人が言ってくれたから。聞いたろ?」

「うん、お父さんがいないって……」

 この数日の間に、春香と詩織は大分打ち解けてきた。
 うちの従業員のコミュ力のおかげで、春香も少しずつ話せるようになった。
 その際に、少しだけそれぞれの家庭の事情を知ったようだ。

「だから『ただでさえ本当の父親がいないのに、兄貴までいなくてどうするんですか!?』って怒られちまったよ」

「そっかぁ……今度、お礼言わなきゃ」

「ああ、そうしてくれると嬉しい」

 春香は、少し和也に苦手意識を持ってるからな。
 というか、男の人か? 
 ……俺は対象外ってことだから安心なんだろうな。

「うん、そうするね。お兄ちゃんが信頼してる人なら安心だし」

「うん?」

「と、特に深い意味はないからっ!」

「はぁ……」

「と、とりあえず、お兄ちゃんに任せるね」

「おう、任せろ。お前は新しい学校なんだから、友達作らないとな。詩織の送り迎えをしてたんじゃ、帰りに遊んだりもできないし」

「……でも、お兄ちゃんは来てくれたよ?」

「へっ?」

「わたしのお迎えとか、学校の行事とか……お母さんとお父さんがいない時に。お兄ちゃんだって学校やバイトだってあったのに」

 そう言って、春香は下を向いてしまう。

「まあ……それはな」

「お兄ちゃんは……嫌だった……?」

「そんなわけあるか、それだけは嘘じゃない」

「ほんと……?」

「ああ、本当だ……可愛い妹を迎えにいくのが楽しみだったよ」

「ふえっ?」

 ようやく、顔を上げてくれる。

「その、なんだ……お前が嬉しそうな顔するもんだから……こっちも嬉しくなっちまってな。帰りにアイスとか買ってしまうくらいに」

「お兄ちゃん、覚えててくれたんだ……えへへ」

「当たり前だろ。お前が公園行きたい!って言うから、俺は遅くなって兄貴に怒られるし」

「そ、そんなことは知らないもん!」

「クク……でも、そっか。お前がしてあげたいんだな? 俺がそうだったように」

「う、うん……わたしは、詩織のお姉ちゃんだもん。お兄ちゃんがしてくれたことを、詩織にもしてあげたい」

 そう言った春香の目は力強く、とても綺麗だなと思った。
 いつの間に、こんなことを言うようになったのか。
 俺がアラサーになるくらいだもんな……そりゃー成長するわな。

「まあ、詩織も喜ぶか。じゃあ、交互にするか?」

「うん、それなら良いよ」

「ただし、最初の二日間は俺がやる」

「どうして?」

「中学と違って、高校は色々なところから人が集まる。中学に上がる時は、小学校が同じ人が多いから問題はない。それに、あとでもグループにいれてもらえたりもする。しかし、高校には知り合いはいない。そして初日と二日目で、だいたいグループが決まる。そしたら、後から入ることは難しい」

「そ、そうなんだ」

「お前は、ただでさえ人見知りなんだからな」

「うぅー……わかってるもん」

「まあ、無理はしなくていい。きっと、誰かしら合う奴がいるさ」

「う、うん……よーし! 頑張る!」

「クク……ああ、応援してるよ。何かあれば俺に言うといい」

「ありがとう、お兄ちゃん」

「気にするな。よし、とりあえずそれ以外は交互にやろう。よく考えたら、詩織はお姉ちゃん大好きだしな。来なかったら寂しいだろうし」

「そ、そうかな?」

「ああ、間違いない」

「わ、わたしも……お兄ちゃん大好きだから」

 頬を染め、春香がそんなこと言ってくる。
 ……嬉しいこと言ってくれるじゃねえか。
 これは、俺も恥ずかしがらずに言うべきだな。

「ありがとな、俺も好きだよ」

「そ、そうじゃなくて……!」

「あん?」

「お、お兄ちゃんのばかぁぁ……!」

「おい……相変わらず、逃げ足が速いことで」

 脱兎のごとく、俺の部屋から出て行った。

「それにしても……さて、どうなるかね?」

 こればっかりは、始めてみないことにはわからない。

 とりあえず、和也も少しずつ任せられるようになってきたし……。

 従業員の方にも許可を得たし、少しだけならお手伝いもしてくれると言ってくれた。

 俺は空き時間に迎えに行って、帰ってきたら仕込みをして……。

 その場合は、仕込みを前日からしておけばいいのか。

 ……きついが、頑張るしかあるまい。

「それにしても……」

 最後の『大好き』に、俺は何故かドキドキしてしまった。

 ……まさかね。
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