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一章 義妹を預かる

春香の気持ち

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 お兄ちゃんは大人の男の人なんだ。

 そんな当たり前のことに、今更ながらに気づいた。

 しっかりと、詩織を励ましてくれるし……。

 わたし一人だったら、一緒に泣いていたかも……。

 ちょっと鈍感なところはあるけど、私達のために色々配慮してくれている。

 それに……まだ二日間なのに、色々あったし。







「ふぇーん……どうしよう?」

 わたしは今、洗濯かごの前でおろおろしています。

「せ、洗濯物はやるって言ったのは良いんだけど……」

 料理は黙ってやった上に、失敗しちゃったし……。
 だから、洗濯物くらいならやったことあるからできるかなって。
 そ、それに……お兄ちゃんに下着を洗われるとか——ムリッ!!

「あぅぅ……! そもそも、なんで手に持ってるのよぉ~! お兄ちゃんばかぁぁ……!」

 可愛くなかった!? サイズが小さい!? 
 うぅ……お気に入りだし、それなりにはあると思うんだけど……。

「やっぱり、色気が足りないのかな?」

 どうしたら良いんだろう……?

「……現実逃避をしてる場合じゃないよね」

 そう、洗濯物を洗うと言うことは……。

「お兄ちゃんのパンツを洗うということ」

 そ、それはわかっていたんだけど……。
 家にいる頃は、よく見てたし……だから、平気かなって思ってのに。

「わたしって変態なのかな? ……なんでドキドキしてるの?」

 に、匂いとかあるのかな? 
 そういえば……と、友達が言ってた。
 好きな男の人だと、匂いにも惹かれるって。

「か、嗅いでみる……? いやいや、それはないない」

「おねえたん?」

「ひゃい!?」

 振り返ると、詩織がドアから覗き込んでいた。

「どうしたお?」

「な、なんでもないのっ! これは違うのよっ!?」

「あうー?」

「ホラッ! ちゃっちゃとやっちゃうから!」

 勢いよく掴んで洗濯機にぶん投げる!

「よし! これで終わり!」

「へんなおねえたん……」

 うぅ……姉の威厳がなくなってる気がする。




 その後、お兄ちゃんのお店にいったり……。

 そこで綺麗な女の人がいたり……。

 ヤキモチ妬いちゃったけど……。

 全然、お兄ちゃんは気づいてくれない。

 そんな気持ちを抱えつつ、お兄ちゃんの店でお昼ご飯を食べてたら……。

「おねえたん、おじたんすごいお!」

「ねー! すごいねっ」

 さっきも覗いていたけど、お兄ちゃんの手際はすごい。
 なんというか……無駄がない感じ?
 あれやってる間にこれやって、それが終わる前にこれをやるみたいな……。

「何より……あれ好き」

「おねえたん?」

「う、ううん! お腹減ったね!」

「あいっ!」

 あぶないあぶない……。
 実はわたし……腕フェチなんです。
 もしくは血管フェチというか。
 お兄ちゃんの腕を捲り上げる感じ……格好いいです。
 引っ越しの時も、トランクを持ち上げる際に、血管が浮き出てステキだったなぁ。
 こんなこと恥ずかしくて言えないけど……変なのかな?



 そして、その際にとある事実が判明します。

 どうやら、お兄ちゃんにはお昼ご飯がないようです!

 これはチャンスです! お兄ちゃんにアピールしないと!

 家に戻り詩織を寝かせた後、早速台所に立ちます。

「何がいいんだろう?」

 麺類はダメだよね? 伸びちゃったら美味しくないし。
 ご飯ものも、出来立てが美味しいし。

「おにぎりとかサンドウィッチ?」

 そんな簡単なので良いのかな?
 でも、それなら食べやすいかも。




 ……さっきまでの自分を殴りたいです。

「お、おにぎりが丸くならないよぉ~……」

 どうして? こっちを丸くしたら、違う場所が丸くならなくて……。
 サンドウィッチだって、具を作って挟むだけなのに……。

「お母さんやお兄ちゃんは、いつも簡単にやってたから……」

 もっと早くに教わっておけば良かったなぁ。
 わたしっていつもそう……後で後悔する。

「あぁ~もう! お兄ちゃんの休憩に間に合わないよぉ~」

 その後……何とか、不恰好な形だけど作ることができた。

「お兄ちゃん、喜んでくれるかな? 下手くそだけど、一生懸命に作ったもん……喜んでくれるよね?」

 わたしは、小さい頃お兄ちゃんに作ってもらえて嬉しかった。
 だから、今度はわたしがお兄ちゃんを喜ばせたい。

「我が家の家訓だもん。自分が嬉しいことしてもらったら、それを何かしらの形で返す。自分がされたら嫌なことはしない」

 お兄ちゃんの行動を見てると、それを実践している気がする。
 えへへ……お兄ちゃんも家族なんだなって思って嬉しくなる。




 勇気を出して、お店の前に来たんだけど……。

「ど、ど、どうしよう?」

 が、頑張れ! わたし! お兄ちゃんの休憩終わっちゃう!

 勇気を出してお店のドアをノックすると……。

 不思議そうな顔をしたお兄ちゃんがいた。

 お兄ちゃんは、基本的には無愛想だ。
 顔はカッコいいし背も低くないけど、少し威圧感がある。
 人によっては冷たいと思う人もいるらしい。
 多分、心のガードが固いってお父さん達が言ってた。
 それはお兄ちゃんが悪いわけではなく、そういった経験があるから……。
 だから、中々人を踏み込ませないって……。

「どうした?」

 でも知ってる。
 わたしを見る目のお兄ちゃんが笑っていることを。
 くしゃっと目がなくなり、わたしはそれが好き。
 何より……わたしに心を許してることが嬉しい。


 その後、お兄ちゃんは笑顔で美味しいって言ってくれた。

 色々指摘はされちゃったけどね。

 よーし! お兄ちゃんが笑顔でいられるように頑張らなきゃ!

 だって、お兄ちゃんが……わたしを笑顔にしてくれたんだから。
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