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一章 義妹を預かる

優しさには回復効果がある

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 翌朝、俺がいつも通りに起きると……。

「おはよう、お兄ちゃん」

 ピンクの、女の子らしいエプロンをした春香が台所にいた。
 うんうん、実に可愛いらしい。
 これなら、良いお嫁さんになれそうだ……料理を覚えればな。

「おはよう、春香。ちゃんと寝たんだろうな?」

 近くに寄って、顔をよく見てみる……。

「ちょっ!?」

「何故、顔を背ける?」

「いや、その……」

「あっ——すまん、俺が悪かったな」

「お、お兄ちゃん!?」

 いかんいかん!
 寝起きのおっさんとか、女子高生にとっては気分良くないだろうに。
 俺は急いで顔を洗って、綺麗に整えるのだった。



 俺が戻ると……。

「おじたん……おはよ~」

「おっ、起きたな。うん、偉いな。一人で着替えたんだな?」

「あいっ……」

 まだ眠いのか、うつらうつらしている。
 子供って凄いよなぁー、十時間くらい寝てるのに。
 俺なんか、もう八時間以上寝られないし。
 寝てたとしても、逆に疲れるっていう……悲しいぜ。

「おし、うさぎさんに一歩近づいたな?」

「うさぎさん!?」

「おう、その調子で歯ブラシもしなさい」

「あいっ!」

 急に目が爛々と輝き、詩織は洗面所へ行った。
 やれやれ、子供の切り替えは早いことで。



 その後、朝食を食べる。

「うん、美味いよ」

「ほ、ほんと!?」

「ああ、普通に食べられるよ」

「あいっ!」

「よ、良かったぁ~……」

 いや、まあ……昨日と同じメニューだから、失敗しようがないんだが。
 しかし、それを口に出してはいけないことくらいはわかる。
 また、お兄ちゃんのばかぁぁと言われてしまうところだ。
 ふっ、俺とて成長するのさ。
 これからは、そうそう言われることはないだろう。










「お兄ちゃんばかぁぁ——!!」

 ……どうやら、フラグを立ててしまったようだ。

「な、なにを怒ってる?」

「な、なんで洗濯物干してるの!? それはわたしがするのっ!」

「うん? しかし洗濯物を洗った上に、料理もしてるしこれくらいは……」

「だめっ! というか、下着とかあるんだよ!?」

「いや、お前……洗濯した下着なら誰でも変わら」

「良いからっ! うぅー……」

「わ、わかった! わかったから! なっ! 俺が悪かったからっ!」

 俺は急いで洗面所から出るのだった。

 うーん、別にそこまで気にすることなのか?

 年頃の娘を持つ人は大変そうだな……。





 その後、昨日と同じように仕事をして……。

 お昼頃に春香達がやってくる。

 カウンター席に着いた春香が、あたりを見渡して言う。

「あれ? お兄ちゃん、今日はお客さん少ないね?」

「春香、月曜日ってのはこんなもんだ。飲食店は月曜と火曜は暇なんだよ。そんで、金土日が忙しい」

「そうなんだ……あれ? どうして、土曜日を休みにしてるの?」

「そ、そりゃー……」

「アレですよねー。二人が来るから定休日を変えたんですよねー」

「おい!?」

「あう?」

「そ、そうなの!?」

「今野さん……なぜ言った?」

「怖い顔しないでくださいよー。そういうって言った方が良いですよ?」

「そうだよっ!」

「あいっ!」

「そ、そういうもんなのか?」

「チッ、チッ、大将甘いですよ。言わなくてもわかるとか、勝手に判断して言わなくて良いとか……それって、男の人の悪い癖ですよー」

 やはり、今野さんはしっかりしているな。
   まだ成人したばかりなのに。

「そうか……まあ、そういうことだ。土曜日休みにしておけば、1日はお前達と過ごせるしな」

「でも、稼ぎが減っちゃうんじゃ……?」

「それくらいは仕方あるまい。一応、お客さんには説明したし、期間限定とも言ってある」

「そっか……ありがとう、 お兄ちゃん!」

「おねえたん?」

「詩織、お兄ちゃんがね、私達のために土曜日を休みにしてるんだって」

「うぅ……どうなるの?」

「一緒に遊べるってこと」

「ほんと!? わぁーい!」

「お兄ちゃん優しくて……元気出ちゃうねっ!」

「あいっ!」

「ほらね、大将」

「へいへい、こいつは参ったな。ありがとな、今野さん」

「むぅ……仲が良い」

「はっ?」

「ふふー、安心してください。私は彼氏いますのでー」

「ふえっ!? な、なにがですか!?」

「なんの話だ?」

「な、なんでもない!」

「そうですよー。大将、女の子には秘密が沢山あるんですー」

「はぁ……まあ、いいけど」

「おじたん! おいちい!」

「そうかそうか、お前は可愛いな」

「きゃはー」

「むぅ……私も撫でてくれても……」

「ふふー、乙女ですね」

 なにやら。二人でこそこそと話しているが……。
 年も近いし、良い相談相手になってくれるかもな。



 そして、空き時間になり……。

「お兄ちゃん……これ!」

 そのお皿には、昨日より少しましになったおにぎりがある。

「おう、ありがとな」

「こ、これからも作るからっ!」

「いや、あんまり無理すんなよ?」

「作るのっ!」

「お、おう」

「じゃ、じゃあ! お仕事頑張ってねっ!」

 そう言って慌ただしく出て行った。

「全く、出来た妹だこと。無理しないといいが……」

 あいつはあいつで、きっと悩みとかあるだろうけど。
 俺には言ってくれそうにないなぁ……どうする?
 加奈子さんとかに頼んでみるか?

「兄貴っ! 」

「おっ、もういいのか?」

 母親の病院に行った和也が、いつもより早く戻ってきた。

「はいっ! お袋に言ったら、ちゃんと恩を返してきなさいと言われました!」

「なにを言ってる。お前がいて助かってるのは俺の方だ。ありがとな、和也……こんな俺についてきてくれて」

「兄貴……」

「柄にもないことを言ったな……じゃあ、始めるとしようか」

「はいっ! よろしくお願いします! 兄貴は指示だけして、のんびりしててください!」

「そういうわけにもいかんだろ」

「じゃあ、せめてゆっくり食べてください!」

「……そうだな、それくらいなら。じゃあ、魚の仕込みからやっていこう」

 カウンター席に座り、おにぎりやサンドイッチを食べる。

 そして、そこから指示を出して、和也を指導する。

 それは、とても心温まることで……単純に休憩できるという意味だけでなく……。

 和也と春香の優しさにより、休憩してる以上の回復効果がある。

    少し味の濃いタマゴサンドを食べながら、そんなことを思った。


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