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一章 義妹を預かる
子供の気持ちは難しい
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その後、春香のおかげで元気になった俺は、夜の仕込みを始める。
まずはカボチャを半分に切り、それぞれをラップに包む。
そして電子レンジを500Wにセットして、十二分間温める。
「さて、その間にやってしまうか」
冷蔵庫から牛ブロックを取り出す。
この肉はニンニクやローズマリー、塩胡椒とハチミツに漬けてある。
二日間ほど漬けることで、身が柔らかくジューシーになる。
これを油をひいたフライパンに入れ、弱火でじっくりとすべての面に焼き目をつけていく。
「よし……いいだろう」
一つの面を五分ほど焼いたら、それをホイルに包む。
その頃にはカボチャが出来ているので、レンジから取り出す。
そして入れ替えるように、牛ブロックを入れる。
そして、オーブンを150に設定して三十分のタイマーをセットする。
「これで下準備はよしと……次は」
カボチャの皮を取り、適度な大きさに切る。
用意したミキサーに入れ、ストックしてある飴色たまねぎと、さらに牛乳を入れる。
スイッチを入れ、ある程度経ったら止める。
「そしたら、これを……」
ボールとザルを用意して、その中に注ぎ込みつつ、ゴムベラを使ってこしていく。
「よし……うん、いい味だ。甘くて美味しいし、さらっとしてる」
味見を済ませたら、ラップをして冷蔵庫で冷やしておく。
「あとは鯛のカルパッチョと、スモークサーモンのサラダにするか」
鯛を丸々捌いて、薄くスライスしていく。
下にたまねぎをひいたお皿に盛り付け、オリーブオイルとバルサミコ酢を合わせたソースをかける。
これで、下準備は完了だ。
「サラダは用意することもないし……おっ、出来たな」
オーブンが鳴ったので、お肉を取り出す。
それを常温保存して、じっくりと火を通していく、
これで、お手軽ローストビーフの完成だ。
「これで、仕込みは終わったかな……」
「おじたん!」
「こ、こら! 邪魔しちゃダメでしょ!?」
「あん? ……どうやって入った?」
厨房の外から、二人が覗いていた。
鍵は閉めたはずだが……。
「兄貴っ! 戻りましたっ!」
「なるほど、和也が開けたのか」
「だ、だめでしたかね? 店の前で、その子達がウロウロしてたんで……」
「お兄ちゃん、ごめんなさい。詩織が、おじたんはって言ってきかなくて」
「あぅ?」
「いや、和也も春香も気にするな。今、仕込みも終わったところだ」
俺はしゃがんで、詩織と視線を合わせる。
「どうした?」
「うぅ……」
何やら唸っている……。
「春香?」
「わたしにも、よくわからなくて……」
「おじたんいない……」
「うん?」
「知らないおうちで……うぅー……」
確か、何かの本で読んだはず。
子供は言葉一つ一つは覚えるし、理解もできるが、それを繋げることが難しいと。
そして、それを説明することが難しいとも。
「詩織、ゆっくりでいい……まずは、おじたんに何の用だ?」
「……おじたんに会いたかったの」
……いかんいかん、娘が欲しいとか思ってしまった。
こりゃー兄貴が親バカになるのも無理はない。
「そっか、ありがとな」
「あい……知らないおうちで、おねえたんと二人きりなの」
「おじたんの家だぞ?」
「うぅー……」
「前の家に帰りたいか?」
「……でも、ママとパパいないお」
「そうだな」
とりあえず抱っこをして、背中をさすってやる。
うーん……もしかしたら。
「怖くなったのか?」
すると、迷った末に………コクンと頷いた。
「自分のお家じゃない場所だから、不安になったんだな?」
「……あい」
「お兄ちゃん? どういうこと?」
「いや、俺も正解はわからないが……俺も似たような経験があるからな。兄貴達に引き取られた時に、あの家に一人でいたり、春香といても怖くなった時がある。ここはどこだろう? ここにいていいのか? なんでここにいるんだろう?って」
「そうなんだ……わたしは、そんなことないけど」
「まあ、もう高校生くらいならな。さて……ありゃ」
「にゃ……むにゃ………」
「さっき寝たんじゃなかったのか?」
「不安になって起きちゃったみたいなの」
「そういうことか……うん、これは考える必要があるな」
いくら仕事があるとはいえ、詩織を寂しがらせることはよくない。
できる限りのことはしてあげたいし、俺がそうしてもらったことを返すべきだ。
兄貴達だって仕事の合間を縫って、俺が寂しい思いをさせないようにしてくれたのだから。
そして、女性二人も戻ってきて、ディナータイムが始まる。
だがランチと違い、実は割と楽である。
完全予約制だし、コースメニューも決まっている。
もちろん単品もあるが、それでも大した手間ではない。
サラダは和也も作れるし、メインのローストビーフはカットするだけだ。
カルパッチョも、仕上げにブラックペッパーをするだけだ。
カボチャのポタージュは器に入れて、パセリと生クリームを入れるだけだ。
あとはパンかライスを選んでもらい、提供するだけとなる。
ただ、違う意味で疲れることと……大変なのは終わった後である。
「ふぅ……みんなお疲れ様」
「お、お疲れっす」
「やっぱり、夜は違う意味で疲れますねー」
「お値段も違う分、高い接客を求められますものね」
そう、そこである。
ランチは、はっきり言ってあまり儲からない。
それに手を抜いていいわけではないが、接客もそこまでのクオリティは求められない。
しかしディナーは違う。
お酒やワインも出るし、値段も高くなる。
その分、色々な面で高いクオリティを求められる。
「ああ、でもおかげでやっていくことができるからな。明日からもよろしく頼みます」
女性二人を十時前に帰して、和也と洗い物をする。
今は、色々と物騒な世の中だし。
「さて……」
どうする?
詩織を寂しくさせないために、俺には何ができる?
一番簡単なのは、空き時間に顔を出すことだが……。
俺とて昼飯を食ったり、仕込みをしなくてはいけないし……。
「兄貴!」
「うおっ!? びっくりした……どうした?」
「す、すいません……あの、昼の仕込みを教えてくれませんか!?」
「なに?」
「まだ使えないことはわかってるっす。でも、少しでもお手伝いできればなと……そしたら、兄貴も空き時間に顔を出してあげられるじゃないかと」
「和也……」
「お、俺も兄貴に恩返しがしたいっす!」
たしかに、半年経って手際も良くなってきた。
和也が覚えてくれれば、空き時間に家に戻れる。
「……ありがとな、和也。じゃあ、明日からやるとするか?」
「はいっ! よろしくおねがいします!」
料理を覚えてくれることも助かるが、その気持ちが何より嬉しいものだ。
よし……詩織、少し待ってろ。
おじたんが、和也をビシバシ鍛えるからな。
まずはカボチャを半分に切り、それぞれをラップに包む。
そして電子レンジを500Wにセットして、十二分間温める。
「さて、その間にやってしまうか」
冷蔵庫から牛ブロックを取り出す。
この肉はニンニクやローズマリー、塩胡椒とハチミツに漬けてある。
二日間ほど漬けることで、身が柔らかくジューシーになる。
これを油をひいたフライパンに入れ、弱火でじっくりとすべての面に焼き目をつけていく。
「よし……いいだろう」
一つの面を五分ほど焼いたら、それをホイルに包む。
その頃にはカボチャが出来ているので、レンジから取り出す。
そして入れ替えるように、牛ブロックを入れる。
そして、オーブンを150に設定して三十分のタイマーをセットする。
「これで下準備はよしと……次は」
カボチャの皮を取り、適度な大きさに切る。
用意したミキサーに入れ、ストックしてある飴色たまねぎと、さらに牛乳を入れる。
スイッチを入れ、ある程度経ったら止める。
「そしたら、これを……」
ボールとザルを用意して、その中に注ぎ込みつつ、ゴムベラを使ってこしていく。
「よし……うん、いい味だ。甘くて美味しいし、さらっとしてる」
味見を済ませたら、ラップをして冷蔵庫で冷やしておく。
「あとは鯛のカルパッチョと、スモークサーモンのサラダにするか」
鯛を丸々捌いて、薄くスライスしていく。
下にたまねぎをひいたお皿に盛り付け、オリーブオイルとバルサミコ酢を合わせたソースをかける。
これで、下準備は完了だ。
「サラダは用意することもないし……おっ、出来たな」
オーブンが鳴ったので、お肉を取り出す。
それを常温保存して、じっくりと火を通していく、
これで、お手軽ローストビーフの完成だ。
「これで、仕込みは終わったかな……」
「おじたん!」
「こ、こら! 邪魔しちゃダメでしょ!?」
「あん? ……どうやって入った?」
厨房の外から、二人が覗いていた。
鍵は閉めたはずだが……。
「兄貴っ! 戻りましたっ!」
「なるほど、和也が開けたのか」
「だ、だめでしたかね? 店の前で、その子達がウロウロしてたんで……」
「お兄ちゃん、ごめんなさい。詩織が、おじたんはって言ってきかなくて」
「あぅ?」
「いや、和也も春香も気にするな。今、仕込みも終わったところだ」
俺はしゃがんで、詩織と視線を合わせる。
「どうした?」
「うぅ……」
何やら唸っている……。
「春香?」
「わたしにも、よくわからなくて……」
「おじたんいない……」
「うん?」
「知らないおうちで……うぅー……」
確か、何かの本で読んだはず。
子供は言葉一つ一つは覚えるし、理解もできるが、それを繋げることが難しいと。
そして、それを説明することが難しいとも。
「詩織、ゆっくりでいい……まずは、おじたんに何の用だ?」
「……おじたんに会いたかったの」
……いかんいかん、娘が欲しいとか思ってしまった。
こりゃー兄貴が親バカになるのも無理はない。
「そっか、ありがとな」
「あい……知らないおうちで、おねえたんと二人きりなの」
「おじたんの家だぞ?」
「うぅー……」
「前の家に帰りたいか?」
「……でも、ママとパパいないお」
「そうだな」
とりあえず抱っこをして、背中をさすってやる。
うーん……もしかしたら。
「怖くなったのか?」
すると、迷った末に………コクンと頷いた。
「自分のお家じゃない場所だから、不安になったんだな?」
「……あい」
「お兄ちゃん? どういうこと?」
「いや、俺も正解はわからないが……俺も似たような経験があるからな。兄貴達に引き取られた時に、あの家に一人でいたり、春香といても怖くなった時がある。ここはどこだろう? ここにいていいのか? なんでここにいるんだろう?って」
「そうなんだ……わたしは、そんなことないけど」
「まあ、もう高校生くらいならな。さて……ありゃ」
「にゃ……むにゃ………」
「さっき寝たんじゃなかったのか?」
「不安になって起きちゃったみたいなの」
「そういうことか……うん、これは考える必要があるな」
いくら仕事があるとはいえ、詩織を寂しがらせることはよくない。
できる限りのことはしてあげたいし、俺がそうしてもらったことを返すべきだ。
兄貴達だって仕事の合間を縫って、俺が寂しい思いをさせないようにしてくれたのだから。
そして、女性二人も戻ってきて、ディナータイムが始まる。
だがランチと違い、実は割と楽である。
完全予約制だし、コースメニューも決まっている。
もちろん単品もあるが、それでも大した手間ではない。
サラダは和也も作れるし、メインのローストビーフはカットするだけだ。
カルパッチョも、仕上げにブラックペッパーをするだけだ。
カボチャのポタージュは器に入れて、パセリと生クリームを入れるだけだ。
あとはパンかライスを選んでもらい、提供するだけとなる。
ただ、違う意味で疲れることと……大変なのは終わった後である。
「ふぅ……みんなお疲れ様」
「お、お疲れっす」
「やっぱり、夜は違う意味で疲れますねー」
「お値段も違う分、高い接客を求められますものね」
そう、そこである。
ランチは、はっきり言ってあまり儲からない。
それに手を抜いていいわけではないが、接客もそこまでのクオリティは求められない。
しかしディナーは違う。
お酒やワインも出るし、値段も高くなる。
その分、色々な面で高いクオリティを求められる。
「ああ、でもおかげでやっていくことができるからな。明日からもよろしく頼みます」
女性二人を十時前に帰して、和也と洗い物をする。
今は、色々と物騒な世の中だし。
「さて……」
どうする?
詩織を寂しくさせないために、俺には何ができる?
一番簡単なのは、空き時間に顔を出すことだが……。
俺とて昼飯を食ったり、仕込みをしなくてはいけないし……。
「兄貴!」
「うおっ!? びっくりした……どうした?」
「す、すいません……あの、昼の仕込みを教えてくれませんか!?」
「なに?」
「まだ使えないことはわかってるっす。でも、少しでもお手伝いできればなと……そしたら、兄貴も空き時間に顔を出してあげられるじゃないかと」
「和也……」
「お、俺も兄貴に恩返しがしたいっす!」
たしかに、半年経って手際も良くなってきた。
和也が覚えてくれれば、空き時間に家に戻れる。
「……ありがとな、和也。じゃあ、明日からやるとするか?」
「はいっ! よろしくおねがいします!」
料理を覚えてくれることも助かるが、その気持ちが何より嬉しいものだ。
よし……詩織、少し待ってろ。
おじたんが、和也をビシバシ鍛えるからな。
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