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一章 義妹を預かる
ミィーティング
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春香が眠そうな詩織を連れて帰った後、もう一仕事をする。
二時半になったらラストオーダーを聞き……。
そして三時を迎えたので、いつも通りに一度店を閉める。
「ふぅ……みんな、お疲れ様」
「お疲れっす!」
「お疲れでーす」
「お疲れ様~」
「じゃあ、みんな予定があるし、さっさとやろうか」
いつも終わった後に、五分だけ反省会をする。
うちは賄いは無料で提供しているので、その代わりの時間をもらっている。
理由は簡単で、お客さんの前では叱ったりしないようにだ。
自分が店に入って、店長が社員やバイトに怒鳴っているのを見て嫌な思いをしたし。
「さて、和也。今日は良い動きだったと思う」
「あ、ありがとうございます!」
「でも、ピザを一枚失敗したな?」
俺は自分の作業をしながらも、視界の端に捉えられるように心がけている。
「うっ……すみません」
「別に失敗してもいい。当たり前のことだが、俺だって失敗する時はある。ただ、その失敗したやつを……迷ったな?」
和也が失敗したのは、少し焼き過ぎたことだ。
お客さんに出したら、人によってはクレームを言うかもしれない。
「は、はい……ごめんなさい」
「うん、反省してるなら良い」
「えっ?」
「結果的にきちんと報告したし、作り直しもしたし。何回も言うけど、俺は怒らないから正直に言ってくれ」
「は。はい! 以後も気をつけます!」
和也が前に入っていた会社は、相当ブラックだったらしい。
失敗したら自腹をきらされるし、いつも怒鳴られると。
そんな中で、いつの間にか失敗したことを無意識に報告し辛くなったらしい。
もちろん和也にも原因はあるかもしれないが、それにしたってやり過ぎたと思う。
しかし、俺も経験があるが……そんな会社が多いことも事実だ。
「うん、そうしてくれると助かる。俺も気持ちはわかるし。悪いことだとはわかってるし、謝った方が良いのはわかってるんだけどなぁー」
「ウンウン、わかりますよー。なんか、あれって言い辛いですよねー」
「そうよね~、失敗した時ってつい誤魔化したくなっちゃうわよね」
二人が上手くフォローしてくれる。
「そ、そうなんすよ! 隠すつもりもなくて! バレるのはわかってんのに!」
「そうですよね! 私も成績表とか!」
「いや、それは見せろよ」
「そうよ~」
「え!? いつの間に私の話に!?」
いつもこんな感じで反省会を終え、それぞれ休憩時間に入る。
俺も前の職場でそういった経験があるし、そういうのって上司次第なんだと思う。
だから、なるべく理不尽に怒ったりしないようには心がけているけど……。
これが中々難しいことだと、雇われの身ではなく経営者になって初めて気づいた。
みんなが出て行った後は、遅めのランチを取る。
「さて、何にするかね」
いつも疲れているからか、どうしても自分の分を作るのは億劫になる。
俺が気合を入れて作ろうと椅子から立ち上がると……ノックが聞こえてくる。
「ん? 誰だ? 」
扉を開けてみると……。
「お、お兄ちゃん、お疲れ様!」
何やらモジモジした春香がいた。
「おう、ありがとな。どうした?」
「がんばれ、わたし……あ、あのっ! これっ!」
何やら小声で言った後、大きな声でお皿を差し出される。
そこには、おにぎりやサンドウィッチがあった。
「……もしかして、俺にか?」
「う、うん……下手くそでごめんね……」
確かにおにぎりの見た目は不恰好だし、サンドウィッチは具材が飛び出ている。
しかし、そんなことは些細なことだ。
俺は、その気持ちが何より嬉しかった。
「……お兄ちゃん、泣いてるの?」
「なに?」
自分の目元を触ってみると、微かに湿っていた。
どうやら、感激してしまったらしい。
「どっか痛かった……? そ、それとも……下手くそ過ぎて泣いてるの!?」
「ち、違う!」
「じゃあなに!?」
「い、いや……」
言えるかっ! お前の優しさに感激したなんて!
「い、一生懸命に作ったのに……お、お兄ちゃんのばかぁぁ——!」
「ま、待て!」
これはいかん! これを誤解されることは良くない!
逃げ出そうとするのを、手を掴んで阻止する。
「うぅー……」
「あぁー……あれだよ、あれ」
「あれ?」
「お前が優しいから感動したんだよ。ありがとな、春香」
なんとか恥ずかしさを押し殺して、目を見てちゃんと告げる。
「お、お兄ちゃん……えへへ、そっかぁ」
春香は見たことないような顔で微笑んでいる。
そして、俺はそれを見て——心が動いた気がした。
「そ、そういや、詩織は?」
「今さっき寝ちゃって……連れてこようとしたんだけど」
「上で食べてたら起こしてしまうか……五分で食べるから中に入ってくれ」
春香を連れて、店の中に戻る。
そして、カウンター席に並んで座る。
「いただきます」
「め、召し上がれ……」
丸くもなく三角でもないおにぎりに、思いっきり齧り付く。
濃いめの塩味と、明太子の味がする。
「へ、平気かな? 塩をどれくらい入れたら良いかわからなくて……」
「確かに塩が多いな」
「はぅ!?」
「米に対して具も大きすぎる」
「あぅぅ……」
徐々に縮こまっていく。
「でも……美味いよ」
「ふえっ?」
俺がそう言うと、不思議そうな表情で顔を上げる。
「さっき、俺が飯を食ってないって聞いたから作ったんだろ?」
「う、うん」
「ありがとな、春香。その気持ちが何よりの調味料だ」
「お兄ちゃん……ちょっとくさいかも」
「ほっとけ……自分でもそう思ったし」
「でも、嬉しい……ありがとう、お兄ちゃん」
「なんでお前が礼を言うんだよ?」
「えへへ、なんとなく。じゃあ、戻るね。詩織が起きた時、誰もいなかったら可哀想だし」
「ああ、そうだな。これで夜も頑張れるよ。夜は流石に時間ないから、何か食べておいてくれ」
「うん! お仕事頑張ってねっ!」
そう言い、春香は店から出て行った。
「……なんだろうな? この満たされる感覚は」
久しく忘れていた気持ちが蘇ってくる。
そうか……家族愛ってやつを感じているのかもな。
二時半になったらラストオーダーを聞き……。
そして三時を迎えたので、いつも通りに一度店を閉める。
「ふぅ……みんな、お疲れ様」
「お疲れっす!」
「お疲れでーす」
「お疲れ様~」
「じゃあ、みんな予定があるし、さっさとやろうか」
いつも終わった後に、五分だけ反省会をする。
うちは賄いは無料で提供しているので、その代わりの時間をもらっている。
理由は簡単で、お客さんの前では叱ったりしないようにだ。
自分が店に入って、店長が社員やバイトに怒鳴っているのを見て嫌な思いをしたし。
「さて、和也。今日は良い動きだったと思う」
「あ、ありがとうございます!」
「でも、ピザを一枚失敗したな?」
俺は自分の作業をしながらも、視界の端に捉えられるように心がけている。
「うっ……すみません」
「別に失敗してもいい。当たり前のことだが、俺だって失敗する時はある。ただ、その失敗したやつを……迷ったな?」
和也が失敗したのは、少し焼き過ぎたことだ。
お客さんに出したら、人によってはクレームを言うかもしれない。
「は、はい……ごめんなさい」
「うん、反省してるなら良い」
「えっ?」
「結果的にきちんと報告したし、作り直しもしたし。何回も言うけど、俺は怒らないから正直に言ってくれ」
「は。はい! 以後も気をつけます!」
和也が前に入っていた会社は、相当ブラックだったらしい。
失敗したら自腹をきらされるし、いつも怒鳴られると。
そんな中で、いつの間にか失敗したことを無意識に報告し辛くなったらしい。
もちろん和也にも原因はあるかもしれないが、それにしたってやり過ぎたと思う。
しかし、俺も経験があるが……そんな会社が多いことも事実だ。
「うん、そうしてくれると助かる。俺も気持ちはわかるし。悪いことだとはわかってるし、謝った方が良いのはわかってるんだけどなぁー」
「ウンウン、わかりますよー。なんか、あれって言い辛いですよねー」
「そうよね~、失敗した時ってつい誤魔化したくなっちゃうわよね」
二人が上手くフォローしてくれる。
「そ、そうなんすよ! 隠すつもりもなくて! バレるのはわかってんのに!」
「そうですよね! 私も成績表とか!」
「いや、それは見せろよ」
「そうよ~」
「え!? いつの間に私の話に!?」
いつもこんな感じで反省会を終え、それぞれ休憩時間に入る。
俺も前の職場でそういった経験があるし、そういうのって上司次第なんだと思う。
だから、なるべく理不尽に怒ったりしないようには心がけているけど……。
これが中々難しいことだと、雇われの身ではなく経営者になって初めて気づいた。
みんなが出て行った後は、遅めのランチを取る。
「さて、何にするかね」
いつも疲れているからか、どうしても自分の分を作るのは億劫になる。
俺が気合を入れて作ろうと椅子から立ち上がると……ノックが聞こえてくる。
「ん? 誰だ? 」
扉を開けてみると……。
「お、お兄ちゃん、お疲れ様!」
何やらモジモジした春香がいた。
「おう、ありがとな。どうした?」
「がんばれ、わたし……あ、あのっ! これっ!」
何やら小声で言った後、大きな声でお皿を差し出される。
そこには、おにぎりやサンドウィッチがあった。
「……もしかして、俺にか?」
「う、うん……下手くそでごめんね……」
確かにおにぎりの見た目は不恰好だし、サンドウィッチは具材が飛び出ている。
しかし、そんなことは些細なことだ。
俺は、その気持ちが何より嬉しかった。
「……お兄ちゃん、泣いてるの?」
「なに?」
自分の目元を触ってみると、微かに湿っていた。
どうやら、感激してしまったらしい。
「どっか痛かった……? そ、それとも……下手くそ過ぎて泣いてるの!?」
「ち、違う!」
「じゃあなに!?」
「い、いや……」
言えるかっ! お前の優しさに感激したなんて!
「い、一生懸命に作ったのに……お、お兄ちゃんのばかぁぁ——!」
「ま、待て!」
これはいかん! これを誤解されることは良くない!
逃げ出そうとするのを、手を掴んで阻止する。
「うぅー……」
「あぁー……あれだよ、あれ」
「あれ?」
「お前が優しいから感動したんだよ。ありがとな、春香」
なんとか恥ずかしさを押し殺して、目を見てちゃんと告げる。
「お、お兄ちゃん……えへへ、そっかぁ」
春香は見たことないような顔で微笑んでいる。
そして、俺はそれを見て——心が動いた気がした。
「そ、そういや、詩織は?」
「今さっき寝ちゃって……連れてこようとしたんだけど」
「上で食べてたら起こしてしまうか……五分で食べるから中に入ってくれ」
春香を連れて、店の中に戻る。
そして、カウンター席に並んで座る。
「いただきます」
「め、召し上がれ……」
丸くもなく三角でもないおにぎりに、思いっきり齧り付く。
濃いめの塩味と、明太子の味がする。
「へ、平気かな? 塩をどれくらい入れたら良いかわからなくて……」
「確かに塩が多いな」
「はぅ!?」
「米に対して具も大きすぎる」
「あぅぅ……」
徐々に縮こまっていく。
「でも……美味いよ」
「ふえっ?」
俺がそう言うと、不思議そうな表情で顔を上げる。
「さっき、俺が飯を食ってないって聞いたから作ったんだろ?」
「う、うん」
「ありがとな、春香。その気持ちが何よりの調味料だ」
「お兄ちゃん……ちょっとくさいかも」
「ほっとけ……自分でもそう思ったし」
「でも、嬉しい……ありがとう、お兄ちゃん」
「なんでお前が礼を言うんだよ?」
「えへへ、なんとなく。じゃあ、戻るね。詩織が起きた時、誰もいなかったら可哀想だし」
「ああ、そうだな。これで夜も頑張れるよ。夜は流石に時間ないから、何か食べておいてくれ」
「うん! お仕事頑張ってねっ!」
そう言い、春香は店から出て行った。
「……なんだろうな? この満たされる感覚は」
久しく忘れていた気持ちが蘇ってくる。
そうか……家族愛ってやつを感じているのかもな。
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