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一章 義妹を預かる

妹たちに賄いを

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 そして……何とか第一の戦場を生き抜いた。

「ふぅ……ひと段落したな」

「お疲れっす、兄貴」

「おう、和也もな」

 1時半を過ぎると、一気にお客さんは減ってくる。
 その間に順番で賄いを食べたり、小休憩を取ったりする。

「宗馬さーん、妹さん来ましたよー」

「おっと、待たせてしまったな」

 厨房を出て玄関に向かう。

「お、お兄ちゃん、お疲れ様!」

 何だ? 何をモジモジしている?

「おじたん! カッコいいおっ!」

「あん?」

「実は、さっきから来てたんですよー。でも、邪魔しちゃ悪いからって待ってるって。ふふー、大将の妹さん達は良い子ですね?」

「ああ、俺にはできた妹さ。そっか、わざわざ待っててくれたのか。すまんな、腹減ったろ?」

「あいっ!」

「も、もう、詩織ったら」

「よし、好きなもの作ってあげるから席についてなさい」

「わぁーい!」

「お兄ちゃん、お仕事中なのにありがとう」

「気にすんな。じゃあ、カウンター席に案内よろしく」

「はいはーい。じゃあ、こっち行こっか?」

「あいっ!」

 やはり手慣れているな……。
 しゃがんで視線を詩織に合わせて話しかけている。
 今度、俺が色々教わりたいくらいだ。


 厨房の中に戻って作業をしていると……。

「お、お兄ちゃん」

 カウンター席から春香が話しかけてくる。

「おっ、決まったか?」

「あいっ!」

「えっと、この和風きのこパスタと、マルゲリータピザでお願いします」

「はいよ、すぐに出来るから待ってろ」

 和也が奥の従業員スペースで賄いを食べているので、俺が作ることにする。
 そして詩織が飽きないように、目の前で作業することにした。

「わぁー! これなに!?」

「ピザ生地だよ。そっか、食ったことないか」

 気に入ったとしても、あんまり食わせちゃいけないな。
 兄貴が帰って来た時、二人が太ってたら俺が殺される。

「これにトマトソースをかけて、チーズを乗せると」

 ピザ釜専用の道具ですくい、それを釜の中に入れる。

「わぁ……! テレビ見てるみたい!」

「すごいおっ!」

「ふふ、そうだろ?」

 お客さんにも楽しんで頂けるように、ピザ釜はカウンター席から見える位置にある。
 もちろん危険なので、ギリギリ見えるくらいだ。

「よし、これでいいか」

 実際に焼く時間は一分程度だ。

「えっ!? もう!?」

「はやいっ!」

「まあ、ざっとこんなもんよ。準備から出来るまで三分くらいでいきたいところだ」

「お兄ちゃん、カッコいい……」

「あいっ!」

「そ、そうか」

 春香に面と向かってカッコいいと言われるとは……昔はよく言ってくれたなぁ。
 少し照れくさいが、やはり嬉しいものだな。

「食べてもいい!?」

「ああ、ただ熱いから気をつけろよ?」

「ほら、詩織。切ってフーフーしてあげるから」

「はやくはやく!」

 ……いかんいかん、見惚れてる場合じゃない。
 ついほんわかしてしまった、俺はパスタを作らなくてはいけないのに。

「パスタを茹でてと……」

 パスタを茹で始めたら、フライパンにオリーブオイルとベーコン、シメジとしいたけにエリンギを入れる。
 そして火をかけた後、その間にカットしてあるほうれん草を用意しておく。

「おいひい!」

「う~! 美味しいよぉ~」

「おっ、そうか。そいつは良かった。しかし、何故悲しい顔をしている?」

「だってぇ~……太っちゃうもん」

「だから言ったろ。少しくらいは太った方が良いって。成長期にダイエットなんかしたら、それこそ将来太るぞ?」

「そ、そうなの?」

「いや、知らんけど」

「……お兄ちゃんのばかぁぁ……!」

「わかった、悪かったよ。だから泣きそうになるな。ほら、もうすぐ美味しいパスタも来るから」

 形勢が悪いと思い、逃げるように後ろを向く。

「うん……いい感じだ」

 ベーコンやキノコからいい香りがする。
 次にフライパンに少量のお湯を入れ、甘めに作った自家製醤油で味を調える。

「そしたらパスタを入れて……」

 仕上げにほうれん草を入れて完成だ。

「よし、出来上がりと」

 さっとソースにパスタを絡ませたら、二人の目の前でお皿に盛り付ける。

「「わぁ……!」」

「クク……同じような顔して。ほら、召し上がれ」

「いただきます」

「いたーきます!」

 春香が小皿に取り分けて、詩織の分をよそっている。

「ぅぅ~ん! これも美味しい! このソース? 甘くて美味しい!」

「おいちい!」

「うんうん、良かった良かった。そのソースはな、自家製出汁醤油に貝類の出汁を加えたやつなんだよ。海鮮丼なんかにかけても美味しいぞ」

「うわぁ……! 絶対に合うねっ!」

「食べたいおっ!」

「はいはい、今度家で作ってあげような」

 その後は自分の仕事に戻り、たまに来るお客さんのオーダーを受けて調理する。

「兄貴! 休憩終わりました! ありがとうございます!」

「あいよ。じゃあ、ホールに出てくれ。二人にも休憩入ってと伝えてくれ」

「わかりました!」


 そして二人の賄いを作った後、オーダーのないタイミングで春香が話しかけてくる。

 どうやら、先に食べ終えて詩織を待っているようだ。

「お兄ちゃんは休憩ないの?」

「ん? ああ、そうだな。俺以外に作れる人はいないしな」

「えぇ!? お、お腹減らないの?」

「減るよ、めっちゃ。だが、仕方あるまい。まだ和也には早すぎるし、俺は責任者だしな。まあ、慣れて来たから平気だよ」

「そ、そうなんだ……あの、お兄ちゃん」

「おじたん!」

「おつ、綺麗に食べたな。偉いぞ」

「きゃはー、褒められた!」

「春香、何かいいかけたか?」

「う、ううん! なんでもないのっ!」

「相変わらず変なやつだ」

「むぅ……変じゃないもん、お兄ちゃんが鈍感なだけだもん」

「おねえたん……ねむいお……」

 お腹いっぱいになったのか、早速船を漕いでいる。

「し、詩織! だめよ、すぐに寝ちゃ。もう少し我慢して。ほら、お兄ちゃんになんて言うの?」

「えっと……おじたん、ごちそーさまでした」

「お兄ちゃん、ご馳走さまでした。美味しかったです」

「おう、サンキュー」

 なんだか照れ臭くて、俺は後ろを向いてしまう。

 お客さんに食べさせるとはまた違う感覚……。

 こう……胸の奥が暖かくなる感じ。

 これは一体なんだろうか?



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