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一章 義妹を預かる

仕事仲間

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 一階の店を開けて、早速仕事の準備に取り掛かる。

「今は八時半か」

 まずは店の掃除から始める。
 二日間使っていないが、いつも綺麗にしているので大した時間はかからない。


 十五分くらいかけて、ひとまず終わりにする。
 後の準備は、社員とバイトの子がやってくれるだろう。

「兄貴! おはようございます!」

「和也、おはよう。いい加減兄貴はよせって」

「兄貴は兄貴っす!」

「ハァ……わかったよ。じゃあ、仕込み頼めるか?」

「はいっ!」

 和也は厨房に行き、野菜を切り始める。

 俺も厨房に入って、自分の仕込みをする。

「ふむ、大分手際が良くなってきたな」

「あざっす!」

 もうすぐ、ここに来て半年くらいか。
 高校の後輩なので付き合い自体は長いが、料理経験はなかったからな。

「静江さんの様子はどうだ?」

「おかげさまで今日も元気ですよ!」

「そっか、それなら良かった」

 和也の家は、若い時に父親が死んでいて母子家庭だ。
 それもあり、二つ違うが両親のいない俺と仲良くなったりした。  
 二人ともいわゆるヤンチャだったこともある。
 というか、ならざる得なかった。
 みんなが、俺たちをそういう目で見てくるからだ。
 もちろん、人様に言えないようなことだけはしてないが。

「兄貴に直接お礼言いたいって、ずっと病院で言ってます」

「気にしなくていい。俺にとっては、お前は可愛い後輩だ。だから、きちんと身体を治すことが礼だと言っておいてくれ」

 確か、働きすぎて身体を壊してしまったんだよな。
 そして、和也は介護のためにサラリーマンを辞めざるを得なかった。
 バイトで食いつないでいたところを、異変を感じた俺が無理矢理聞き出した。
 それで給料は大して出せないが、この店で働かないかと声をかけたんだよな。

「兄貴……ありがとうございます! ……この店で働けて、俺嬉しいっす。休みも週に二日あるし、休みも取れますし。何より、空き時間に母親のところに顔を出せます。ここからなら、五分でいけるので」

 入院先は所沢駅前付近だから、むしろ家からよりも近いらしい。

「全く、早く言えっての」

「だって、兄貴だって開店したばっかりでしたし……それに、兄貴だけには迷惑をかけたくなかったんです」

「水臭い事言うなよ、俺とお前の仲じゃねえか」

「兄貴……ウオォ——!! 俺は働くぜ~!」

「おいおい、張り切りすぎて指を切るなよ?」

「へいっ!」

 まあ、俺自身も助かってるし。
 気心が知れているから、仕事もしやすい。
 もちろん親しいからこそ、厳しくしてる面もあるが。
 それでもお金関係が絡む以上、和也なら信頼できるし。
 それに、こいつに裏切られたら仕方ないと思える。



 そのまま、仕込みをしていると……。

「おはようございます」

 綺麗なロングの黒髪をなびかせ、妖艶な空気をまとった美女が現れた。

「おはよーです!」

 こっちはゆるふわの茶髪で、小さく可愛らしい女性だ。

「二人とも、おはよう。昨日は悪かったね、店を休みにしちゃって」

「いえいえー、気にしないでくださいよ、大将!」

「おい? それどうにかならない?」

 今時の雰囲気の大学生である今野美沙さんは、何故か俺を大将と呼ぶ。
 居酒屋でもないし、ちゃんと店長ってネームプレートしてるのに。

「良いじゃないですかー、大将って感じですし」

「いや、全く意味がわからん」

「あははっ! 面白い人ですねー。じゃあ、着替えてきますねー」

 ……何が面白かったのだろうか?
 今時の子の笑いポイントは謎である。

「そうですよ、宗馬さん。呼び名なんて気にしてはダメですよ」

「えぇー……ダメですか?」

「それぞれ呼び名が違って良いじゃないですか。親しみを込めて言っていますし」

「まあ、それはわかります」

「ふふ、良い子ですね。では、私も着替えてきますね」

 ……良い子って、俺アラサーなんだけど。
 いや、アラフォーの加奈子さんから見たらそんなもんか。

「いやー相変わらず、すごい色気っすね」

「ん?」

「笹原さんっすよ。とても、子持ちとは思えないですよ」

「まあ、未亡人だしな」

「娘さん、まだ六歳ですからね……俺、その子の気持ちわかるっす」

「ああ、俺もだ。出来るだけ力になってあげたいよな」

 俺の店で雇っている人は、それぞれに事情を抱えている。
 未亡人だったり、片親がいなかったり、働く場所がなかったり……。
 そして俺は自分自身がそうだったから、そういう人を雇うことにしている。
 俺もバイトを探すのすら大変だったし、色眼鏡で見られてきた。
 お金が足りなければ疑われるし、少し態度が悪いと親がいないからと言われてきた。



 その後着替えてきた二人と一緒に、開店準備を進める。

 すると、入り口から声が聞こえてくる。

「お客様、まだ開店時刻ではないのですが……」

 どうやら、誰かが入ってきたらしい。
 それを、加奈子さんが対応している。

「あ、あの! わたし、春香っていいます! お、お兄ちゃんはいますか?」

「お兄ちゃんですかー? あっ! 噂の妹さん!?」

「あらあら! こんな可愛らしい妹さんなんて!」

「ふえっ!? えっと、あの、その」

「きゃー! 可愛い!」

「良いわねー、私の娘もこうなったら嬉しいわ」

「だ、抱きしめないでください!   おっ、お兄ちゃん~!!」

 ……そういや思い出した。

 あいつ、人見知りだったわ。

 小さい頃は、よく俺の後ろに隠れていたっけ。

 というか、まだ直ってなかったのか……。

「あっ——そういや、兄貴の手紙に書いてあったな」

 過保護に育てすぎたので、内気で引っ込み思案な性格になったと。

 俺はそんなバカなと思っていたが……。

 俺はその光景を見て、疑問に思った。

 あれ? じゃあ、俺への態度はなんだったんだ?

 ……心を許してたってことか。

 なんか、それって嬉しいな。
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