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一章 義妹を預かる

温かな時間

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 その後、詩織が起きたということで、一度部屋から出る。

「おい、何を膨れている?」

「別に!」

「おねえたん? おじたん、どうしたお?」

「さあ? お姉ちゃんは変な子だからな、俺にも良くわからん」

「変じゃないもん! お兄ちゃんのばかぁぁ——!」

 再び、部屋へと戻ってしまう。
 ところで……俺、1日に何回アレを言われれば良いのだろう?

「はれ?」

「気にするな、詩織。さて、何か飲むか?」

「のむっ!」

「じゃあ、麦茶にしとくか」

「あいっ!」

 確か、あんまりジュースを飲ませないようにって書いてあったしな。
 幼いうちは健康にも良くないし、覚えさせないようにって。
 ただ、ご褒美とかにはあげてとも書いてあった……むずくね?


 ひとまず、こたつにて詩織と二人きりという状態になる。
 あれ? これってどうすれば良いんだ?
 多分、生まれてから初めてのことじゃないか?
 いつも誰かしら側にいて、それで対応していた気が……。

「おじたん!」

「うん? どうした?」

「プリキュ○みたいお!」

「ん?  今やってるのか?」

「わかんない!」

「えぇー……」

 出た、子供特有の現象。
 とりあえず言ってみたが、よくわかんないパターン。

「みれないお……?」

 どうする? 春香は怒って部屋に篭っちゃうし。
 いや待て……うちにはアレがあるじゃないか。

「少し待て!」

 テレビをつけて、録画確認する。
 ……あった! この辺りでどうだ!?

「あっ——動物だぁー!」

 よし! 反応は上々! やはり、動物モノは鉄板だな。
 今見せているのは、アニマルプラネッ○という番組だ。
 動物特集を組んでおり、俺は好きでよく見ている。

「これ、見るか?」

「あいっ!」

 ……ふぅ、どうにかなったな。

 やれやれ、子供を育てるって大変なんだろうなぁ。


 その間に、俺は今日の夕飯の支度を始める。

「いやしかし、オープンキッチンタイプで良かったな」

 ここからなら、料理をしながらでも詩織の様子がよく見える。
 何をするかわからないから、あんまり目を離さないでと書いてあったし。

「わぁ……!」

 うん、実に楽しそうに見ている。
 契約しといて良かった。

「さて、今日のメニューはどうする?」

 俺一人なら栄養など気にしないが……そういうわけにもいかん。

「あんまり洋食は良くないよな」

 カロリーや塩分が多いものがほとんどだ。
 それに慣れさせてしまうと、桜さんが苦労してしまう。

「となると、和食か中華か」

 それでもって、たまにの贅沢に洋食という形をとるか。
 もしくはパスタ系やカレーくらいなら、作っても良いかもしれない。

「いや待て……今日はお祝いということで洋食にしよう」

 よくよく考えてみたら、休みの日じゃないと作れないし。
 基本的に、どれも時間がかかるものばかりだ。

「……ビーフシチューにするか」

 そうと決まれば、早速調理開始だ。

 幸い香味野菜やルーは常に冷凍庫にストックがあるし。

 これがあるだけで、調理時間の短縮ができる。




 そして俺が料理を仕込んでいると……。

「お、お兄ちゃん?」

「おっ、出てきたか」

「むぅ……お兄ちゃんがいけないんだもん」

「悪かったよ。ほら、味見するか?」

 煮込んであるビーフシチューを、スプーンですくう。

「わぁ……! 美味しそう!」

 よし、作戦成功だ。
 美味しい物は、人の機嫌すらも良くする。

「ああ、いいぞ」

 俺は春香のスプーンを差し出す。

「えっ?」

「ん? ああ、嫌だったか。自分で食べ」

「お兄ちゃんがやって!」

「お、おう……ほらよ、あーん」

「ア、アーン」

 髪をかきあげ、春香がスプーンを口の中に入れる。
 ……少し色気があると思った俺は、頭のおかしい奴なのだろうか?

「……どうだ?」

「おいひい!」

「そっか、ありがとな」

「えへへ……みたい」

「あん? なんて言った?」

 新なんとかって聞こえたような。

「ううん! なんでもない!」

 まあ、機嫌が良くなったからいいか。
 やはり、美味しいもので笑顔になるのは素敵なことだな。

「どうやって作ったの? 何というか……甘い? もう少し酸味があるイメージだったんだけど」

「うん? ああ、そういうことか。多分、ワインが煮詰まっていなかったんだろう。あとは使ったフォンドボーがそのタイプだったか。あとは野菜の旨味が足りなかったか」

「え、えっと……?」

「すまん、よくわからないよな。肉を弱火でじっくり焼いて、その脂でしっかりと香味野菜の旨味を引き出して、ワインをしっかり煮詰めて、仕上げにルーを入れればこうなる。もっと言えば生クリームを入れるといい。これなら春香や詩織も食えるだろ?」

 大人向けなやつは少し酸味があるからな。
 もしくは、大人でも好みがあるし。

「むぅ……また子供扱い?」

「違うよ、ただの好みの問題だ」

「おじたん! ずるいお!」

 いつのまにか、詩織が足元にいた。

「おっ、見終わったか」

「わたしもっ!」

「はいはい、少しだけな」

 しっかりと冷まして、口元に持っていく。

「はむっ……なにこえ!?」

「どうやら、初体験か。美味いか?」

 もしダメなら他のを作れば良いだけだ。
 冷凍庫にはカレーもストックしてあるし。

「おいちい!」

「そうか、ありがとな。じゃあ、そろそろご飯にしようか」

 時計を見ると六時を過ぎていた。
 詩織が寝る時間を考えると、これからは夕飯も早くしないといけないな。

「「うんっ!」」

 元気で可愛い声が重なる。
 そして同時に、暖かいものが流れ込んでくる。

「よし、じゃあ先にお風呂に入ってしまいなさい」

「詩織、いくわよ」

「あいっ!」


 俺はその間に作り置きのサラダボウルから、サラダを盛り付ける。
 その上にはカリカリに焼いたベーコンを乗せる。
 スープはストックしてあるコーンポタージュを使う。

「よし、これで良いだろう」

 全ての準備を済ませると、二人が丁度風呂場から出てくる。

「ご、ごめんね、お兄ちゃん」

「ん?」

「お手伝いするつもりだったのに」

「気にするな。風呂に入れてくれるだけで助かるさ」

「お腹すいたおっ!」

「だな、まずは食べるとしよう」

 仲良く三人でテーブルを囲む。

「いただきます」

「いただきます」

「いたーきます!」

「……美味しい……えっ? お肉、柔らかい」

「これおいちい! 甘いおっ!」

「そうか、良かった良かった」

「ごめんね、こんな高級なお肉……」

「いやいや、普通の牛肉だよ。国産でもないし」

「えっ? だ、だって」

「きちんと蜂蜜につけて、然るべき調理をすれば、安い肉だっていくらでも美味しくなるんだよ。高い肉が美味しいなんて当たり前のことだしな」

「そ、そうなんだ……」

「ほら、食べようぜ。詩織、サラダも食わないとな?」

「うぅー……あい」

 やはり、二日間定休日にしといて良かったな。

 こうして、しっかり二人とコミニケーションを取ることが出来た。

 さて、明日から仕事だし……どうなることやら。
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