14 / 67
一章 義妹を預かる
春香と二人きり
しおりを挟む
家に帰り軽く昼食を食べた後、詩織はお昼寝の時間になる。
「お兄ちゃん、詩織寝たよー」
「そうか。どれくらい寝かせて良いんだ?」
「うーん、一時間から二時間くらいかな?」
「なら、その間は平気ってことか」
嫌ということはないが、色々と神経を使うから疲れたな。
どうしても目を離せないし、行動も予測がつかない。
ましてや、兄貴達の大事な娘だ。
俺の不注意で何かあったら……死んでも死にきれん。
「お、お兄ちゃんは何かする予定あるの?」
「あん? 何か用事でもあるのか?」
「い、いや、その……二人きりだね」
「いや、詩織いるけど?」
「そういうことじゃなく——!?」
大声を出しそうになったので、素早く口を手で塞ぐ。
「静かに……いま、寝たところなんだろ?」
春香は顔を真っ赤にして、コクコクと頷く。
俺はそっと口から手を離す。
「はぅ……」
「すまんな、咄嗟とはいえ」
「う、ううん……私が悪かったから」
春香は何故か、自分の心臓を手で押さえている。
びっくりさせすぎたか?
「んで、どうした?」
「だって、久しぶりだから……こうして話すのだって」
「そうだな、お前には避けられてたし」
「ぅっ……べ、別に避けてたわけじゃ」
「じゃあ、なんだ?」
「その、あの、お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃなくなったというか、お兄ちゃんなんだけどお兄ちゃんには見えなくなったというか……」
「……謎かけか?」
「むぅ……違うもん」
「よくわからないが、今は解決したってことか?」
「う、うん……違う問題ができたけど」
「うん? まあ良いさ、嫌われてないなら」
「ふえっ? ……き、嫌われてると思ってたの?」
「いやだっておまえ……目も合わさなかったし」
「うぅー……わたしのばかぁ」
「今はわかってるから大丈夫だよ。ほら、泣きそうな顔をするな。俺は、昔からその顔には弱いんだよ」
昔のように、優しく頭を撫でてやる。
「えへへ……いつも泣いてるとお兄ちゃんが来てくれたね」
「おまえは泣き虫だったからな。俺が出て行く時も大変だったよ」
「あ、あれは、お兄ちゃんが悪いもん……急に出て行っちゃうから」
「まあ、春香からしたらそうかもな。兄貴と桜さんとは話し合っていたからな……悪かったよ」
「あ、あのね……お兄ちゃん」
「うん?」
何やら真剣な表情をしている。
「お兄ちゃんは家族だから」
その言葉が、俺の心に響く。
「春香……ありがとな。優しい子に育って」
「べ、別に! それだけだから……詩織の様子見てくる」
恥ずかしそうにしながら、春香は自分の部屋に入っていった。
……そうか、家族か。
そう思ってもらえてるのか。
いや、昔からわかってはいるつもりなんだ。
ただ、俺の心の何かが、それを否定するだけで……。
その後、俺も自分の部屋に入って、仕事をする。
「明日の予約は三件……コース料理のメインは、和牛のローストビーフにするか」
今日のお肉屋さんで良いのが買えたし。
わざわざ知り合いの人に頼んでもらって、それを俺に売ってくれている。
お客さんにも好評で、俺の店の看板メニューの一つだ。
「前菜はスモークサーモンと季節の野菜、スープはカボチャのポタージュ……」
その後も、明日のメニューや仕込みの準備などを書き出していく。
俺が集中していると、扉がノックされる。
「お兄ちゃん?」
「おっ、春香か。入って良いぞ」
「お、お邪魔します……」
何故か恐る恐る部屋へと入ってくる。
しかも、やたらにあちこちを見回している。
「どうした?」
「い、いや、お兄ちゃんのお部屋見てなかったなぁって」
「何も面白いものはないぞ? いや、漫画とかゲームならあるが」
「み、見ても良い?」
「良いぞ、好きなの持っていって。詩織は?」
「まだ寝てるよ。あと三十分したら起こすかな。あんまり寝すぎると夜寝てなくなっちゃうから」
「なるほど、そういやそうだったな。お前の寝顔が可愛くて、俺は起こすのを躊躇った記憶がある。そしたら、桜さんに叱られてな……夜に寝なくて大変なのよっ!って」
「か、可愛い……」
「あん?」
「う、ううん! そ、それは何してるの?」
「うん? 見てもつまらんが見るか? 明日のメニューを考えている」
「みるっ!」
机に座っている俺の後ろから、俺の肩に手を置き春香が覗き込む。
「へぇ~いつもこうやって考えてるの?」
俺は、その横顔を間近で見て……何を思ったのか、綺麗だなと思ってしまった。
おいおい、相手は春香だぞ? でも、そうか……もう高校生なんだよな。
「まあな。その日のお客さんの好みや、仕入れてきた食材と相談して決めている」
「へぇー! すごいねっ!」
目をキラキラさせた春香が、そう言ってくる。
「クク……」
「ふえっ? な、なんで笑うの?」
「いや、すまん。可愛いと思ってな」
「か、可愛い!?」
「お前、子供みたいに笑うもんだから」
やれやれ、やっぱりまだまだ子供だな。
「子供みたい……おっ」
「おっ?」
「お兄ちゃんのばかぁぁ——!」
そう言い、部屋から出て行ってしまった。
しかも、借りるといった本まで置いて行ってしまっている。
はて? 結局、あいつは何しにきたんだ?
「お兄ちゃん、詩織寝たよー」
「そうか。どれくらい寝かせて良いんだ?」
「うーん、一時間から二時間くらいかな?」
「なら、その間は平気ってことか」
嫌ということはないが、色々と神経を使うから疲れたな。
どうしても目を離せないし、行動も予測がつかない。
ましてや、兄貴達の大事な娘だ。
俺の不注意で何かあったら……死んでも死にきれん。
「お、お兄ちゃんは何かする予定あるの?」
「あん? 何か用事でもあるのか?」
「い、いや、その……二人きりだね」
「いや、詩織いるけど?」
「そういうことじゃなく——!?」
大声を出しそうになったので、素早く口を手で塞ぐ。
「静かに……いま、寝たところなんだろ?」
春香は顔を真っ赤にして、コクコクと頷く。
俺はそっと口から手を離す。
「はぅ……」
「すまんな、咄嗟とはいえ」
「う、ううん……私が悪かったから」
春香は何故か、自分の心臓を手で押さえている。
びっくりさせすぎたか?
「んで、どうした?」
「だって、久しぶりだから……こうして話すのだって」
「そうだな、お前には避けられてたし」
「ぅっ……べ、別に避けてたわけじゃ」
「じゃあ、なんだ?」
「その、あの、お兄ちゃんがお兄ちゃんじゃなくなったというか、お兄ちゃんなんだけどお兄ちゃんには見えなくなったというか……」
「……謎かけか?」
「むぅ……違うもん」
「よくわからないが、今は解決したってことか?」
「う、うん……違う問題ができたけど」
「うん? まあ良いさ、嫌われてないなら」
「ふえっ? ……き、嫌われてると思ってたの?」
「いやだっておまえ……目も合わさなかったし」
「うぅー……わたしのばかぁ」
「今はわかってるから大丈夫だよ。ほら、泣きそうな顔をするな。俺は、昔からその顔には弱いんだよ」
昔のように、優しく頭を撫でてやる。
「えへへ……いつも泣いてるとお兄ちゃんが来てくれたね」
「おまえは泣き虫だったからな。俺が出て行く時も大変だったよ」
「あ、あれは、お兄ちゃんが悪いもん……急に出て行っちゃうから」
「まあ、春香からしたらそうかもな。兄貴と桜さんとは話し合っていたからな……悪かったよ」
「あ、あのね……お兄ちゃん」
「うん?」
何やら真剣な表情をしている。
「お兄ちゃんは家族だから」
その言葉が、俺の心に響く。
「春香……ありがとな。優しい子に育って」
「べ、別に! それだけだから……詩織の様子見てくる」
恥ずかしそうにしながら、春香は自分の部屋に入っていった。
……そうか、家族か。
そう思ってもらえてるのか。
いや、昔からわかってはいるつもりなんだ。
ただ、俺の心の何かが、それを否定するだけで……。
その後、俺も自分の部屋に入って、仕事をする。
「明日の予約は三件……コース料理のメインは、和牛のローストビーフにするか」
今日のお肉屋さんで良いのが買えたし。
わざわざ知り合いの人に頼んでもらって、それを俺に売ってくれている。
お客さんにも好評で、俺の店の看板メニューの一つだ。
「前菜はスモークサーモンと季節の野菜、スープはカボチャのポタージュ……」
その後も、明日のメニューや仕込みの準備などを書き出していく。
俺が集中していると、扉がノックされる。
「お兄ちゃん?」
「おっ、春香か。入って良いぞ」
「お、お邪魔します……」
何故か恐る恐る部屋へと入ってくる。
しかも、やたらにあちこちを見回している。
「どうした?」
「い、いや、お兄ちゃんのお部屋見てなかったなぁって」
「何も面白いものはないぞ? いや、漫画とかゲームならあるが」
「み、見ても良い?」
「良いぞ、好きなの持っていって。詩織は?」
「まだ寝てるよ。あと三十分したら起こすかな。あんまり寝すぎると夜寝てなくなっちゃうから」
「なるほど、そういやそうだったな。お前の寝顔が可愛くて、俺は起こすのを躊躇った記憶がある。そしたら、桜さんに叱られてな……夜に寝なくて大変なのよっ!って」
「か、可愛い……」
「あん?」
「う、ううん! そ、それは何してるの?」
「うん? 見てもつまらんが見るか? 明日のメニューを考えている」
「みるっ!」
机に座っている俺の後ろから、俺の肩に手を置き春香が覗き込む。
「へぇ~いつもこうやって考えてるの?」
俺は、その横顔を間近で見て……何を思ったのか、綺麗だなと思ってしまった。
おいおい、相手は春香だぞ? でも、そうか……もう高校生なんだよな。
「まあな。その日のお客さんの好みや、仕入れてきた食材と相談して決めている」
「へぇー! すごいねっ!」
目をキラキラさせた春香が、そう言ってくる。
「クク……」
「ふえっ? な、なんで笑うの?」
「いや、すまん。可愛いと思ってな」
「か、可愛い!?」
「お前、子供みたいに笑うもんだから」
やれやれ、やっぱりまだまだ子供だな。
「子供みたい……おっ」
「おっ?」
「お兄ちゃんのばかぁぁ——!」
そう言い、部屋から出て行ってしまった。
しかも、借りるといった本まで置いて行ってしまっている。
はて? 結局、あいつは何しにきたんだ?
10
お気に入りに追加
161
あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美味しいコーヒーの愉しみ方 Acidity and Bitterness
碧井夢夏
ライト文芸
<第五回ライト文芸大賞 最終選考・奨励賞>
住宅街とオフィスビルが共存するとある下町にある定食屋「まなべ」。
看板娘の利津(りつ)は毎日忙しくお店を手伝っている。
最近隣にできたコーヒーショップ「The Coffee Stand Natsu」。
どうやら、店長は有名なクリエイティブ・ディレクターで、脱サラして始めたお店らしく……?
神の舌を持つ定食屋の娘×クリエイティブ界の神と呼ばれた男 2人の出会いはやがて下町を変えていく――?
定食屋とコーヒーショップ、時々美容室、を中心に繰り広げられる出会いと挫折の物語。
過激表現はありませんが、重めの過去が出ることがあります。

『 ゆりかご 』 ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。
設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。
最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで
くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。
古い作品ですが、有難いことです。😇
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
" 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始
の加筆修正有版になります。
2022.7.30 再掲載
・・・・・・・・・・・
夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・
その後で私に残されたものは・・。
・・・・・・・・・・
💛イラストはAI生成画像自作

神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる