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一章 義妹を預かる

命の大事さ

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 その後、再び散歩再開となる。

 アイス休憩を入れたことが良かったのか。

 二人共、疲れた様子はない。

 今は、少し商店街を離れたところを散歩している。

 そんな中、詩織がある場所で立ち止まる。


「うさちゃん?」

「えっ?」

「ん? ……ああ、あれが目に入ったのか」

 うさぎの絵が貼ってある建物が向こうにある。
 確か、小動物専門のペットショップだったはず。

「行きたいのか?」

「いいの!?」

「ああ、行くとするか」

「わぁーい! うさちゃんだぁ~!」

「お、お兄ちゃん……でも」

「春香、言いたいことはわかってる。だから安心していい」

「へっ? そ、そうなんだ」

 ひとまず二人を連れて、中へと入っていく。

 そのまま、ペットコーナーに向かうと……。

「わぁ……いっぱいいる……可愛い」

「うさちゃんだお!」

 二人は夢中でうさぎを眺めている。
 その姿に、俺の心も暖かくなってくる。
 懐かしい感覚と共に……。
 そういや昔、春香を連れてきたことがあったな。

「それにしても懐かしいな」

「へっ? お兄ちゃん、飼ったことあるの?」

「うん? まあな……お前が生まれる前にだけど」

 確か四歳の時に飼って、三年くらいで死んじゃったんだよなぁ。
 命の大事さと、失うことの悲しみを初めて知った時だ。
 まさか、その一年後に再び経験するとは思ってもなかったが。

「いいなぁ! わたしも飼いたいお!」

 詩織が目を輝かせて、俺の服を引っ張ってくる。

「ほらぁ~お兄ちゃん! こうなったら大変だよ?」

「わかってるよ。お前だってそうだったし」

 確か、飼いたい飼いたいと泣き叫んでいたような。

「お、覚えてるの!?」

「ああ、もちろんだ。あれは大変だったよ。というか、その他にも色々と大変だったよ」

「うぅー……どうしてそういうことは覚えてるのぉ~肝心なことは忘れてるのに……」

「おじたん!」

「はいはい、わかってるよ。飼いたいのか?」

「あいっ!」

「いいか? 生き物を飼うってことは責任が伴うんだぞ?」

 膝を曲げて、しっかりと目線を合わせる。

「うぅ?」

「ご飯をあげて世話をしたり、きちんとかまって愛情を注いだり、体調管理をしてあげたり……まあ、色々とあるんだぞ?」

「うぅー……できるもん」

「本当か? おじたん、嘘をつく子は嫌いだぞ?」

「できるおっ! 嘘じゃないもん!」

 その目は真剣そのものだが、子供というのは一過性の可能性もある。

「でも、おじたんはママとパパから甘やかさないように言われてるしなぁー」

「ど、どうしたらいいお……?」

 幼いながらに、必死に考えているようだ。

「そうだな……自分で着替えはできるかな?」

「うぅー……できるお」

「おや、本当かな?」

「すこしだけおねえたんが……」

「おっ、嘘をつかなかったな」

「ほとんど一人で出来るんだけど、すこし甘えてるみたい。この歳の子ならみんな出来てるんだけど……靴下とかが、少し手間取るみたいなの」

「春香、今回は別にいいが……なるべく、みんな出来るは禁止だ」

「へっ?」

「人はそれぞれに成長速度や個性が違う。俺も、そうだったしな。二月生まれの早生まれで、人より成長が遅かったよ」

「そっかぁ……うん、そうだよね、詩織は詩織だもんね」

「そういうことだ。詩織も二月生まれだったな?」

「あいっ!」

「なら、これからお前には一人で着替える特訓をしてもらう。もしそれが続けられたなら、俺が責任を持ってうさぎさんを飼うことを約束しよう」

「おきがえ?」

「ああ、そうだ。ママもいないし、お姉ちゃんも手伝ってくれないぞ。それに、これから年長さんになるんだろ?だったら、お姉ちゃんとして見本にならないとな」

「うぅー……そしたらうさぎさんくる……?」

「ああ、俺が約束しよう。さて、どうする?」

「や……やるお! お着替えするの!」

「そうか、ならやってみると良い。任務開始だ、報酬はうさぎさんを飼うことだな」

「にんむ……! やるっ!」

 やはり、子供はこういうセリフが好きなのか。
 あとは、ちょっと難しいことをやらせるといいと書いてあったな。
 なにせ……ここ一週間は、そんな本ばかりを読んでいた。

「お兄ちゃん、随分と上手だね?」

「いや、まあ……一応預かる身として、最低限の勉強をしたからな」

「えへへ~ありがとう、お兄ちゃん」

「それに……お前で慣れてるしな」

「へっ?」

「おねえたん?」

「おっ、詩織知ってるか? お姉ちゃんもな、小さい頃に駄々こねて大変だったんだぞー?」

「そうなのっ!?」

「なんで言っちゃうの!?  お、お兄ちゃんのばかぁぁ——!!」

「はい? ……ダメなのか?」

「ダメッ! 姉としての威厳があるのっ!」

「そ、そうなのか……そういうものか、すまんな」

「おねえたん、みんな見てるお?」

 周りを見渡してみると……ほかのお客さんにクスクスと笑われている。
 嫌な笑いではなく、微笑ましいといった感じで。

「あぅぅ……恥ずかしぃ」

 すこし目立ちすぎた俺たちは、店員さんに謝り、そそくさと退散することにした。

 帰りにコロッケを買って………春香のご機嫌取りをしたことは言うまでもない。
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