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一章 義妹を預かる

俺が代わりになる

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 ……おかしい。

 食事を終えて、部屋に着替えに行った春香と詩織が来ない。

 迷ったが、俺はこっそりと聞き耳を立てることにした。



「グスッ……ママは? パパは?」

「詩織、この間から説明してたでしょ? お父さんとお母さんは、海外出張っていうやつで、しばらくは会えないの。だから、お兄ちゃんの家にお世話になりにきたんだよ?」

「なんでぇぇ……うぅ~パパとママいつ帰ってくるお?」

「だから……わがまま言っちゃダメよ、詩織。お父さんとお母さんだって、詩織に会えなくて寂しいはずなんだから」

「じゃあ、どうしていないの……?」

「だから……!」

 うむ……無理もないよな。
 詩織もそうだが、春香だってまだまだ子供だ。
 俺は静観しようとしたが、このままではまずいと思い……。

「春香、詩織」

「お、お兄ちゃん……ごめんなさい」

「おじたん……」

「なにを謝ることがあるか。詩織、寂しいか?」

 俺は詩織を抱き上げて、目線を合わせる。

「グスッ……」

 泣きながらこくんと頷く。

「そうだな、寂しいよな。おじたんもな、ママとパパがいなくて寂しかったよ」

「おじたんも……?」

「ああ、そうだ。詩織よりも、少し歳は上だったけどな。どうしていないんだろ?って毎日思ってたさ」

「お兄ちゃん……」

「どうしていなかったの……?」

「そうだな……遠い空に旅立ってしまってな、もう二度と会うことは出来ないんだ」

「もう会えないの……? 寂しくない……?」

「ああ、そうだな。寂しいが、代わりにお前のママとパパがいたからな。俺は、そのおかげで寂しいながらも生きてこれた」

「よくわかんない……」

「まあ、そうだよな。詩織、お前のママとパパは必ず帰ってくる。それまでは、お俺がパパとママの代わりになる。もちろん、力不足なのは否めないが」

 五歳児に理解しろというのは難しい。
 しかしどうにか伝わるように、優しく腕に力を込める。

「おじたん……泣いてるお?」

「なに? ……参ったな」

 意識してないが、無意識に両親を思い出したのかもしれない。

「おじたんも、わたしのママとパパいなくて寂しい?」

「ああ、そうだ」

「私もよ、詩織」

「じゃあ……我慢するお」

「そうか、偉いな」

「……きゃはー」

 優しく撫でると、詩織は泣きながら笑うのだった。



 しかし……子供というのは起伏が激しいものだな。

「おねえたん! 今日は何をして遊ぶの!?」

「うーん、どうしようかな?」

 先ほどの涙は何処へやら……すでに元気いっぱいである。
 もちろん、今はいっとき忘れているだけだろう。
 また、寂しくなるに違いない……何か、手を打たなくては。


  とりあえず、こたつにて今日の予定を決める。

「お兄ちゃん、今日もお休みで大丈夫?」

「ああ、本来の定休日だからな。昨日の代わりに、先週土曜日は店を開けていたし」

「おじたんも遊べる!?」

「ああ、遊んでやるさ」

「わぁーい!」

「えへへ、お兄ちゃん優しい。よかったね、詩織」

 寂しい気持ちを消すことは出来ない。
 でも、それを和らげることはできるはずだ。
 俺はそれを、身を以て知っている。

「だが、何がしたいかにもよるが……」

 おままごとも、やれと言われたらやるが……なるべくなら避けたいところだ。
 二人共女の子だから、その辺のことが男兄弟みたいな俺にはわからない。

「私は、高校に使う道具なんかを買いたいかなって」

「ああ、そういやそうだな。詩織は?」

「うー……おさんぽっ!」

「へっ?」

「お兄ちゃん、詩織は最近は歩くのが好きなの。色々なものを見たいってことらしいの」

「そういう意味か……まあ、初めての土地だしな。今日は、案内と商店街の中を歩いてみるか」

「うんっ!」

「あいっ!」

 元気よく返事をもらったので、出かける準備を済ませる。



 早速、商店街を歩いていると……。

「おじたん! あれは!?」

「お肉屋さんだな。二人共、お肉は好きか?」

「私は好きだよ」

「あいっ!」

 確かメモにも好き嫌いはあまりないって書いてあったな。
 献立も考えていかないと……意外と楽しいな。
 自分一人なら適当でいいと思っていたが、やはり誰かがいると違うものだ。

「美味しいコロッケがあるからオススメだな」

「うぅー……帰りに食べちゃいそう」

「食べたい!」

「さっき朝飯食ったろ。じゃあ、帰りに寄って行くとしよう」

「わぁーい!」

「太っちゃいそう……」

「春香、女の子はな……少し太ってるくらいがちょうどいいんだよ」

「へっ?」

「最近の子はとにかく痩せたがるようだが、俺はあまり好かんな。いっぱい食べて、いっぱい動く。それで健康的であれば良いと思うぞ?」

「お、お兄ちゃんは……そっちのが好きってこと?」

「うん? 俺か……まあ、ガリガリよりは健康的な方が好みかもな」

「そ、そうなんだ……お兄ちゃんはそっちのが好き……」

「おねえたん?」

「詩織! 私も食べるわっ! お小遣いの範囲で!」

「何を気合い入れることが? というか、それくらいは払わせてくれ」



 その後も、あちこちの店を回っていく。

 駄菓子屋さんや、おもちゃ屋さんなど子供が好きそうなところを中心に。

 流石に行きつけの居酒屋や雀荘には案内していない。

 そんな中、春香も無事に必要な物を買い揃えることができたようだ。

「さて、こんなところだな。まだどこか行きたいか?」

「歩きたいおっ!」

「詩織、平気? もう一時間くらい歩いてるけど……」

 いわゆるテンションが上がっている状態というやつか。
 うーん、どうしたものか。

「まあ、最悪俺が抱っこすれば良いさ」

「お兄ちゃんだって疲れちゃうよ?」

「詩織くらいなら余裕だ。まあ、春香は無理だけど」

「お、お兄ちゃんのばかぁぁ——! デリカシーない!」

「おじたん、デリカシーないお?」

「……そうだな、俺が悪かった」

「うぅー……やっぱりコロッケ食べないもん」



 その後アイスを奢ることで、何とかご機嫌をとってなだめることに成功する。

「おいちい!」

「美味しいね、詩織……あれ……結局食べちゃってるよぉ~!」

「悪かったって。平気だよ、それくらい。お前はスタイルも良いし可愛いから安心しろ」

「ほ、ほんと!?」

「ああ、もちろんだ」

「エヘヘ~もう一個食べようかな?」

「いや、それは食べすぎたから」

 ふぅ、ひとまず機嫌が良くなったか。

 こりゃ、言動にも気をつけないといけないな。
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