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一章 義妹を預かる
失敗とこれから
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翌朝……何かの匂いで意識が目覚める。
なんだ……焦げ臭い……?
……まさかっ! 厨房の火をつけっぱなしか!?
……いや! 昨日は定休日だっ! 使っていないはず!
……あん? なんで定休日にしたんだ?
「……そうだっ!」
二人の娘を預かったんだった!
俺は急いで部屋を出る!
「煙くさっ!? 春香! 詩織! 無事か!?」
焦げ臭い臭いが部屋中に溢れている。
「お、お兄ちゃん!?」
「お前何を……いや、まずは止めなくては」
換気扇を全開にして、窓を開ける。
そして……目には入っていたが、あえて見ないふりをしていたものを直視する。
黒焦げになった何かを……。
「さて……説明をしてもらおうか?」
「あぅぅ……ごめんなさぃ……」
「俺は謝れと言っているんじゃない。説明をしてくれと言ってる」
ここは厳しくしないといけない。
火の扱いを誤ると大変なことになる。
「あ、あの……朝ごはんを作ろうとして……これからお世話になるから……」
「ふんふん……昨日、俺に言ったか?」
「う、ううん……驚かせようと思って……」
「まあ、驚いたがな……違う意味で」
「よ、喜んでくれるかなって……お兄ちゃん、ごめんなさい」
すっかり落ち込んでしまったな……。
やれやれ……叱るのはこのくらいにしておくか。
「ほら、片付けるぞ」
「えっ? お、怒ってないの?」
「怒ってはない、ただ心配しただけだ。お前に何かあったら俺は困る」
「お兄ちゃん……ごめんなさい」
何かあったら兄貴に殺されちゃう。
それに……人のことを言えたもんじゃないしな。
ひとまず片付け終わる。
幸い、まだ序盤だったので被害は少なかった。
……ほんと、気がついてよかったよ。
「次からは気をつけろよ?」
「えっ? ……次もして良いの?」
「ん? もう嫌になったか?」
「う、ううん! そうじゃなくて……失敗しちゃったし、勝手にやっちゃったから」
「それくらい誰にでもあることだ。それに、俺のために作ろうとしたんだろう?」
「う、うん」
「その気持ちが嬉しいしな。朝早く起きて大変だったろ? ありがとな、春香」
下を向いてしまっている頭を優しく撫でる。
「うぅ~……なんで褒めるの? わたし、全然ダメだったのに……」
「そうだな……とあるところに、料理が下手な少年がいました」
「へっ?」
「まあ、聞けよ……その少年は育ててくれる人に恩返しがしたかった。しかし、幼い少年はその方法がわからない。そして、ある時気づきます。あっ、料理が大変だって毎日言ってると……」
「それって……」
「少年はその人達を驚かせようと、黙って料理をしました。その結果、少し失敗をしてしまいました。しかし、二人が怒ることはありませんでした。ただ、心配したこと。その気持ちが嬉しかったこと。唯一言われたことは……黙ってやったことだけを叱られましたとさ」
「今のって、お兄ちゃん……?」
「さあ、どうだかな? とある少年の話さ」
「ふふ……ありがとう、お兄ちゃん」
少し恥ずいが、これで元気が出るなら安いもんだ。
失敗は誰にでもあることだし、挑戦することは良いことだと思う。
「まあ……今回の失敗は黙ってやったことだ。俺がいる時間なら好きにやって良いさ」
「うんっ!」
「俺が教えるか?」
「えっ?……もう少し頑張っても良い……?」
「ああ、もちろんだ。本も置いてあるから好きに使うと良い。ただし、なるべく食材を無駄にしないように。それは農家の方が一生懸命作ったものだからだ」
「昨日あった人みたいな?」
「ああ、そうだ。朝早く起きて収穫をして、開店前までに品出しをする」
そういったことを知ると、食材に対する考えが変わる。
無駄にしないように心がけるし、料理にも美味しくしようと熱が入る。
「そっかぁ……うん、気をつけます」
「なら良し。ほら、教えないから見ていると良い」
時計を見れば七時を過ぎていた。
俺は手早く味噌汁、卵焼き、焼き魚、サラダ、お米を準備していく。
「へっ? は、早い……」
「おいおい、俺は料理人だぞ?」
「でも、イタリアンだって」
「料理人は全てに通ずるってな。基本はどれも似たようなものだ。やる順番と、効率化が大事になってくるな」
「そうだよね、朝の時間って少ないもんね……」
「ほら、詩織を起こしてくれ」
「あっ、うん」
俺はその間にテーブルの上に料理や飲み物を置いていく。
「おじたん! おはようごじゃいます!」
「ああ、おはよう。ただ、ございますだ」
「ご、ございます……?」
「そうだ、偉いぞ。もう五歳だからな、そろそろ覚えような」
言えたのできちんと頭を撫でて褒めてあげる。
「きゃはー」
舌足らずも可愛いが、それは大人のエゴに過ぎん。
しっかりと教えていかないといけない。
「えへへ……お兄ちゃん、意外と良いパパになりそう」
「そうか? いまいちピンとこないが……だとしたら、俺を育てた人が良かったんだろう」
家を出て、社会人になり、大人になって気づいた。
若いのに礼儀正しいし、しっかりした人だねとか。
優しくて頼りになる人だねとか。
しかし、それは俺のおかげではない。
そうなるように育ててくれた、兄貴と桜さんのおかげだ。
「じゃあ……わ、私も良いママになれるかな?」
「あん? そりゃ……とりあえず、料理を覚えてからだな」
「うぅー……でも、言い返せないよぉ」
「おねえたん? どしたのー?」
「詩織、お姉ちゃんはな……」
「お、お兄ちゃんのばかぁ——!」
その後、なんとか機嫌を取り食事をとる。
相変わらず、思春期の子の扱いはよくわからん。
なんだ……焦げ臭い……?
……まさかっ! 厨房の火をつけっぱなしか!?
……いや! 昨日は定休日だっ! 使っていないはず!
……あん? なんで定休日にしたんだ?
「……そうだっ!」
二人の娘を預かったんだった!
俺は急いで部屋を出る!
「煙くさっ!? 春香! 詩織! 無事か!?」
焦げ臭い臭いが部屋中に溢れている。
「お、お兄ちゃん!?」
「お前何を……いや、まずは止めなくては」
換気扇を全開にして、窓を開ける。
そして……目には入っていたが、あえて見ないふりをしていたものを直視する。
黒焦げになった何かを……。
「さて……説明をしてもらおうか?」
「あぅぅ……ごめんなさぃ……」
「俺は謝れと言っているんじゃない。説明をしてくれと言ってる」
ここは厳しくしないといけない。
火の扱いを誤ると大変なことになる。
「あ、あの……朝ごはんを作ろうとして……これからお世話になるから……」
「ふんふん……昨日、俺に言ったか?」
「う、ううん……驚かせようと思って……」
「まあ、驚いたがな……違う意味で」
「よ、喜んでくれるかなって……お兄ちゃん、ごめんなさい」
すっかり落ち込んでしまったな……。
やれやれ……叱るのはこのくらいにしておくか。
「ほら、片付けるぞ」
「えっ? お、怒ってないの?」
「怒ってはない、ただ心配しただけだ。お前に何かあったら俺は困る」
「お兄ちゃん……ごめんなさい」
何かあったら兄貴に殺されちゃう。
それに……人のことを言えたもんじゃないしな。
ひとまず片付け終わる。
幸い、まだ序盤だったので被害は少なかった。
……ほんと、気がついてよかったよ。
「次からは気をつけろよ?」
「えっ? ……次もして良いの?」
「ん? もう嫌になったか?」
「う、ううん! そうじゃなくて……失敗しちゃったし、勝手にやっちゃったから」
「それくらい誰にでもあることだ。それに、俺のために作ろうとしたんだろう?」
「う、うん」
「その気持ちが嬉しいしな。朝早く起きて大変だったろ? ありがとな、春香」
下を向いてしまっている頭を優しく撫でる。
「うぅ~……なんで褒めるの? わたし、全然ダメだったのに……」
「そうだな……とあるところに、料理が下手な少年がいました」
「へっ?」
「まあ、聞けよ……その少年は育ててくれる人に恩返しがしたかった。しかし、幼い少年はその方法がわからない。そして、ある時気づきます。あっ、料理が大変だって毎日言ってると……」
「それって……」
「少年はその人達を驚かせようと、黙って料理をしました。その結果、少し失敗をしてしまいました。しかし、二人が怒ることはありませんでした。ただ、心配したこと。その気持ちが嬉しかったこと。唯一言われたことは……黙ってやったことだけを叱られましたとさ」
「今のって、お兄ちゃん……?」
「さあ、どうだかな? とある少年の話さ」
「ふふ……ありがとう、お兄ちゃん」
少し恥ずいが、これで元気が出るなら安いもんだ。
失敗は誰にでもあることだし、挑戦することは良いことだと思う。
「まあ……今回の失敗は黙ってやったことだ。俺がいる時間なら好きにやって良いさ」
「うんっ!」
「俺が教えるか?」
「えっ?……もう少し頑張っても良い……?」
「ああ、もちろんだ。本も置いてあるから好きに使うと良い。ただし、なるべく食材を無駄にしないように。それは農家の方が一生懸命作ったものだからだ」
「昨日あった人みたいな?」
「ああ、そうだ。朝早く起きて収穫をして、開店前までに品出しをする」
そういったことを知ると、食材に対する考えが変わる。
無駄にしないように心がけるし、料理にも美味しくしようと熱が入る。
「そっかぁ……うん、気をつけます」
「なら良し。ほら、教えないから見ていると良い」
時計を見れば七時を過ぎていた。
俺は手早く味噌汁、卵焼き、焼き魚、サラダ、お米を準備していく。
「へっ? は、早い……」
「おいおい、俺は料理人だぞ?」
「でも、イタリアンだって」
「料理人は全てに通ずるってな。基本はどれも似たようなものだ。やる順番と、効率化が大事になってくるな」
「そうだよね、朝の時間って少ないもんね……」
「ほら、詩織を起こしてくれ」
「あっ、うん」
俺はその間にテーブルの上に料理や飲み物を置いていく。
「おじたん! おはようごじゃいます!」
「ああ、おはよう。ただ、ございますだ」
「ご、ございます……?」
「そうだ、偉いぞ。もう五歳だからな、そろそろ覚えような」
言えたのできちんと頭を撫でて褒めてあげる。
「きゃはー」
舌足らずも可愛いが、それは大人のエゴに過ぎん。
しっかりと教えていかないといけない。
「えへへ……お兄ちゃん、意外と良いパパになりそう」
「そうか? いまいちピンとこないが……だとしたら、俺を育てた人が良かったんだろう」
家を出て、社会人になり、大人になって気づいた。
若いのに礼儀正しいし、しっかりした人だねとか。
優しくて頼りになる人だねとか。
しかし、それは俺のおかげではない。
そうなるように育ててくれた、兄貴と桜さんのおかげだ。
「じゃあ……わ、私も良いママになれるかな?」
「あん? そりゃ……とりあえず、料理を覚えてからだな」
「うぅー……でも、言い返せないよぉ」
「おねえたん? どしたのー?」
「詩織、お姉ちゃんはな……」
「お、お兄ちゃんのばかぁ——!」
その後、なんとか機嫌を取り食事をとる。
相変わらず、思春期の子の扱いはよくわからん。
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