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一章 義妹を預かる

従兄弟であり、育ての親からの連絡

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 はぁ……終わった。

 疲れた身体に鞭を打ち、仕事場の一階から階段を上って二階の住居に帰宅する。

家のソファーにて、俺は眠い目を擦り、思い切り伸びをする。

「やっと仕事が終わった……」

 若いとはいえ二十六歳、もはや十代とは違うものだ。

「人気店になるには、まだまだ厳しいものがあるな」

 そこで、はっと気づく。

「いけね! スマホ確認してねえ!」

予約の連絡があったらどうする!?

「くそっ!  電源が切れてる!」

 これだからスマホはっ! ガラケーなら一週間は保つというのに!  
 1日2日放っておくと、すぐにこれだっ!

「かといってなぁ~もうガラケーのプランが無くなるっていうし……」

 仕方ないので、起動できるまでコーヒーを飲む。

「というか、今何時だ? 相変わらず、時間感覚がなくなるよな」

    飲食業界の人間は、不規則な生活を余儀なくされる。
 いや、これには語弊がある。
 きちんとした生活を送っている人もいるが、大体は不規則な生活をしている。

「やれやれ、疲れて自分の料理を作る気がしねえ」

 ひとまずコーヒーとコンビニパンを食べ、スマホを起動させてみる。

「おっ、動いたな……ん?  兄貴か」

 電話履歴には、俺の従兄弟であり、育ての親でもある智さんの名前がある。
 ひとまず折り返してみる。

「もしもし?」

『やあ、弟よ』

「さようなら、兄貴」

 この言い方の時はロクなことがない。

『ま、待て! 大事な話があるんだ』

『ほら、だから言ったじゃない。最初からそう言いなさいって』

『す、すまん』

「桜さんもいるのか」

 どうやら、奥さんである桜さんが横にいるらしい。
 そして相変わらず頭が上がらないらしい。

『ああ、いるぞ。それでな、実は海外転勤が決まってな』

「なるほど……外資系の会社は仕方ないよな」

『まあ、昇進も出来るし給料も上がるから悪いことばかりではないんだが……』

「単身赴任するのか?」

『いや、桜だけについて来てもらう予定だ。だから、お前に娘を預かって欲しい』

「はっ? 娘って、春香と詩織か?」

 春香は小さい頃、俺のお嫁さんになる!とか言っていたが……。
 中学生の頃には、もう言わなくなったし、少し避けられるようになったけど。
 詩織はおじたん!と言って懐いてくれてはいる。
   お兄ちゃんといっても既に遅く、おじたんに固定されてまった……。
   いや、年の差的におじたんですけど。

『ああ、そうだ。治安は悪くないが、娘を二人を連れて行くのはアレかと思ってな。それに手続きも大変だし、期間が長いかもしれないし、すぐに終わるかもしれないって感じなんだよ』

「詩織は年長さん、春香は高校一年生になるんだっけ?」

 今は二月で、今年の四月からそうだったはず。

『ああ、その時期に転校というのもな。詩織も大変だし、春香も高校に入学するしな』

「それは……まあ、キツイわな』

「というわけで、頼めるか? お前は自宅兼お店だから安心だし。うちには、お前しか頼れる者がいない』

 ここで断るという選択肢はない。
 俺は、兄貴には世話になりっぱなしだからだ。
 しかし……俺は迷う。
 俺は、兄貴達と家族になることから逃げ出したからだ。

「兄貴、三十分だけ時間をくれるか?」

『ああ、お前にも都合があるだろうからな』

「ありがとう、じゃあ一度切るよ」

 通話を切って、眠気覚ましにコーヒーを一気飲みする。

「ふぅー……さて、どうしたものかね」

 俺は天井を見上げ、少し昔のことを思い出してみる……。
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