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一章 義妹を預かる

プロローグ

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 ……やれやれ、大変だな、こりゃ。

「こらー! 詩織! 裸で出ないのっ!」

「やっー!」

「おい!?  お前もだよ!」

 俺の目の前には、バスタオル一枚姿の義妹がいる。
 子供の頃とは違い、すっかり女性らしい体つきになっている。
 あんなにつるぺただったのに、時が経つのは早いもんだ。
   俺がおっさんになるわけだな。

「へっ? ……きゃあ~!? お兄ちゃんのばかぁぁ——!」

「グハッ!?」

 座布団がぶん投げられて、顔面に直撃する。

「きゃははっ! おじたんぶっ飛んだ!」

「なにすんだよ!?」

「こっち見ないでよぉ~!」

「お前が風呂場に戻れよっ! ここはリビングだっ!」

「はっ! そ、そうだった! 詩織! 戻るわよ!」

「うんっ! あぁー楽しかった!」

「こら、あんまり騒いじゃダメよ。いくら一軒家だからって」

「はーい」

 ドタドタと足音を立てて、風呂場に戻っていく。

「ったく、床が濡れてるっーの」

 タオルで濡れた床を拭いていく。

「まあ、でも……詩織に元気が出て良かったな」

 両親が海外転勤でいなくて、こっちに来た時は塞ぎ込んでいたが……。
 まだ五歳だ、無理もないことだ。
 だが、あいつのおかげもあって、詩織も笑顔を見せるようになってきた。

「春香も、なんか知らないが避けないし」

 ついこの間まで、少し避けられていたというのに。
 中学二年になったあたりから避けられていたが……。
 急に、懐いてきたというか……年頃の女の子はよくわからん。

「二人とも、俺の店での評判も良いし」

 いつのまにか、看板娘になってやがった。
 いや、別にいいんだけど。
 ただ、男共が寄ってくるのは許せん。

「俺は兄貴に、あの子達を託されたわけだし……まだ春香に恋人なんて早すぎる!」

 だいたい、そんなことになったら……。

「俺が兄貴に殺される……監督不行き届きかんとくふゆきとどきとして」

 娘を溺愛してるからなぁ、兄貴は。
 まあ、一緒に暮らすと、それも無理はないかと思う。

「お兄ちゃん?」

「うおっ!?」

「おじたん、どしたのー?」

 いつの間にか、二人が俺の顔を覗き込んでいた。

「いや、何でもない。ほら、ガキ共は寝ろ。明日も早いんだろ」

「お兄ちゃんも早く寝てよね? 身体休めないと……」

「ああ、わかってるよ」

「むにゃ……」

「あらら、眠いなっちゃったね。ほら、いこ」

「うん……おじたん、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ。春香もな」

「うん、おやすみなさい」

 二人が寝室に入るのを見届ける。

「ふぅ……何年振りかに人と暮らすが、やっぱり大変だな」

 だが、しっかりしないと。

 短い間だが、今は俺が母であり父であり、お兄ちゃんなんだから。
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