前世で家族に恵まれなかった俺、今世では優しい家族に囲まれる 俺だけが使える氷魔法で異世界無双

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1巻

1-3

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 * * *


 その後、兄さんは父上との稽古に行き、姉さんは勉強に。母さんは洗濯物を畳みながら縁側で俺とエリゼを見守っている。

「それでは、アレス様。ここからは、私が指導しましょう」
「はいっ!」
「良い返事です。魔法の説明は受けましたか?」
「えっと、なんとなくだけど」

 俺が司祭様に教わったことを伝えると……。

「さすがはモーリス殿ですね。それなら、私が注意する点はほとんどないかと。逆に、アレス様から何か質問はありますか?」
「みんなの属性と……有用性について知りたいです」
「有用性ですか。ふむふむ……そうですね、それを含めてご説明します」
「うん、お願い」
「まずは属性についてですが、ヒルダ様は火属性魔法、奥様は水属性魔法を使えます。そして私は、風属性魔法を使います」
「えっと……僕が水属性使いなのは、母上がそうだから?」
「間違ってはいないし、正解でもないかと。確かに、受け継ぐ可能性が高いことはわかっています。ですが、そうでない場合もあるのです。以前は、それで不貞ふていを疑われる事態もあったので研究されましたね」

 ……ああ、なるほど。貴族は血を大事にするって聞いたことあったし、そりゃ大事だよね。

「っと……アレス様には、まだ早かったですね」
「う、うん、よくわかんない」
「では、話を変えまして……あと、ごくまれにですがダブルという存在が生まれます」
「ダブル?」
「二つの属性を持って生まれる者のことです」
「へぇ~、それって凄いのかな?」
「そもそも、魔法を使える者が、一割と言われています」

 十人に一人ってことか……珍しいけど、びっくりするほど珍しいってわけじゃないと。だから、この家に四人いても、多いけどおかしくはないと。

「ふんふん」
「そして、その中でもダブルを持つ者は稀です。おそらくこの世界でも、指で数えられるほどです」
「指で数えられる……十人以下ってこと?」
「ふふ、もう数がわかるのですね。とはいえ、アレス様なら当たり前ですね」
「ま、まあね」
「本当に賢い子ですね……さすがです」

 ま、まずい、あんまり賢いと思われるとあれかな。でも、これだけは聞いておかないと。

「えっと、有用性についてなんだけど……」
「火属性は広範囲にわたる全体魔法から、圧縮して強い威力となる単体魔法まで使えます。土属性は高い威力を誇る攻撃だけでなく、防御にも使えます。風属性は汎用性が高いですね。基本的にどこでも使えます。あと攻撃や防御もそうですが、自分自身の素早さを上げたりもできます」
「……水属性は?」
「水属性は貴重な回復魔法を使うことができます……が、所詮光魔法の下位互換と言われたりしますし、お世辞せじにも攻撃向きとは言えません。威力もそうですが、基本的に後衛に回されます」

 ……ん? 攻撃向きじゃないの? 戦いにおいて回復魔法は大事だから、後衛っていうのは理解できるけど。

「確かに、水魔法は大事です。生活に必須ですし、魔石は飛ぶように売れます。しかし、悪い言い方をすれば……雑用魔法とも呼ばれたりします」
「雑用魔法……」
「戦い向きではないという意味ですね」

 ……どうやら、この世界の水魔法は立場が弱いらしい。
 ……でも、色々と疑問がある。

「ねえ、どうして水魔法は攻撃に不向きなの?」
「そうですね……一つに近接戦闘に向いていないことです。近づかれた時に、対処が難しいのです。火属性なら燃やしますし、土属性なら貫きますし、風属性なら切り裂きますが……水属性には、そういった技がないのです。ゆえに、色々な意味で後衛担当になります。無論、近接武器を極めれば問題はありませんが……両方をやろうとし、中途半端になる人が多いです」
「へぇ……」

 つまり、水の攻撃魔法はあんまり発展してないってことかな?
 その理由を考えるに……回復魔法を使わせるために魔力を温存させてきたとか? 回復魔法としての需要や生活必需品扱いされて、今まで攻撃魔法を極めようとしなかった?
 ……うーん、わからない。

「ですが、ご安心ください。攻撃魔法が使えないわけでもないので。ひとまず、やってみましょう」
「うん、やってみる」
「では、腕を前に出してください。そして、こう言います。我が手より出ずるは水、ウォーター」
「我が手より出ずるは水――ウォーター」

 すると、俺の手から水が流れる。

「おおぉ! 魔法だっ!」

 雑用魔法か知らないけど、俺にとっては凄いことだ! それに、おそらく……前世の知識のある俺の考えでは水魔法は強いはず。
 水が使えるってことは……まあ、あとにしようか。

「ふふ」
「まあ、アレス様ったら」
「あっ……ごめんなさい」
「いえ、何も謝ることはありませんよ」

 色々妄想していたら、エリゼに変なふうに思われてしまった。
 そこへ、母上がやってくる。

「ええ、そうよ。私もそうだったから」

 どうやら母上は、ちょっと前から話を聞いていたらしい。

「奥様。遅れましたが、先ほどは失礼いたしました」
「いいのよ、エリゼ。きちんと伝えておかないといけないことだから」

 その目は、少し寂しそうに見える。もしかしたら、母上も過去に、水魔法使いということで、つらい目に遭ってきたのかもしれない。だとしたら、俺のやることは決まってる。

「母上! 大丈夫です!」
「アレス?」
「僕が水魔法は使えることを証明しますから!」
「あらあら……ふふ、楽しみにしてるわ」
「はいっ!」
「じゃあ、もう一度やってみましょう」
「わかった。我が手より出ずるは水――ウォーター」

 再び俺の手から水が流れ……特に変化はない。

「……ところで、魔力はどうですか?」
「へっ? ……全然、減ってる感じはしないかな」
「ほんとですね? 嘘ではないですね?」
「う、うん」
「……なるほど。奥様、どうやら魔力は相当ありそうです」
「そうね。三歳の子供なら、今ので疲れるはずよ」
「そうなんだ……というか、なんで唱えるの? 唱えないと魔法は出せないの?」

 俺が疑問に思っていたことを尋ねると、エリゼは答える。

「唱えなくても魔法は出せます。ですが、唱えた方が魔力効率も良いし失敗しないのです。魔法とはイメージが大切で、そのための呪文でもあります。それを唱えてる間に、体の中で魔法が生成される仕組みです」

 なるほど……確かに、失敗したら元も子もないか。でも、イメージなら簡単にできてるし。

「試しにやってみてもいい?」
「……まあ、いいでしょう。幸い、私と奥様がいますから」
「じゃあ……ウォーター」

 次の瞬間――俺の手から勢いよく水が溢れ出る!

「うひぁ!?」

 その反動で、俺は尻餅しりもちをついてしまう。

「アレス様!?」
「す、凄い、水の量……」
「え、えっと……どういうこと? おんなじ感じで魔法を使ったんだけど……」
「まさか……詠唱がない方が魔力伝導の効率がいい?」
「エリゼ、どういう意味?」
「そうですね……詠唱とは魔法をスムーズに出すための装置のようなものです。しかし、理由はわかりませんが……アレス様のお身体は、それが逆に邪魔になってる可能性がございます」

 ……確かに、詠唱するのは違和感しかなかったけど。俺がよく読んでいた小説では、無詠唱なんか当たり前だったし。
 この世界の人にとっては、詠唱することが当たり前だから、そっちのがイメージしやすいんだろう。
 でも、転生してきた俺には、頭の中で想像した方がイメージしやすいってこと?

「よくわかんないけど……凄い?」
「ええ、もちろんです。それならば、水属性でも問題なさそうです」
「あっ、そっか。呪文を唱えなくてもいいってことか」
「そういうことです……しかも、元々の魔力量が多い」

 もしかして……これって、チートってやつなのかな? うーん……まだわからないや。


 その後も、魔法を使い続け……。

「あっ……疲れたかも」
「では、そこまでにしましょう」
「ふふ、お疲れ様」
「ふぁ……」

 そして、俺の意識は沈んでいく……とりあえず、魔法が使えて良かった。


 * * *


 家族が全員寝静まった頃、私――グレイはエリゼより報告を受ける。

「エリゼ、アレスはどうだ?」
「そうですね。水属性ということで、どうかと思いましたが……やはり、只者ただものではなさそうですね。無詠唱の方が威力が高いとは……魔力量も、あの歳にしては多いですし。他にも、何かありそうな感じがします。元々、生まれた頃から賢い子でしたから」
「確かに、アレスは生まれた頃から賢かったな。赤ん坊の頃から、私たちの会話をわかっているような感じもある。それに、すぐに言葉や歩きも覚えた。そうか……どうやら、平穏へいおんというわけにはいかないか」
「ですが、わかっていたことでは? だから、領地に置いておく気もなかったのでしょう?」
「……まあな、こうなる気はしていた」

 できれば、アレスには平穏な日常を送ってほしい。そして同時に、そんな平穏な日常にはならない可能性もわかっていた。
 そう、あの子がうちに来た日から。

「こうなると、逆に力を付けさせた方がいいのでは?」
「力を付けさせるか……いたし方あるまい。それが、アレスのためになるのなら」

 どんなだろうと、あの子が可愛い息子には違いない。
 それが、我々家族一同の想いだ。
 たとえ、誰がなんと言おうとも……アレス本人が思ったとしても。

「魔法の鍛錬は心配ありませんね。私や奥様、ヒルダ様がいますから」
「ああ、次は武器の適性を見なくてな」

 武器まで使えるとなると……どうなることやら。
 いや、こうなったら使えるようになってもらう方がいいかもしれない。

「何はなくとも、まずは報告をせねばなるまい。エリゼ、お前に任せる。それがお前の――本来の仕事のはずだ」
「ええ、もちろんです。では、失礼します」

 扉から、エリゼが出ていくのを確認して……椅子の背もたれに寄りかかる。

「ふぅ……この時が来たか」

 しかし、私のやることは変わらない。
 何としても、この領地を守り抜く。
 そして、アレスを……愛する息子を立派に育て上げる。



 4 お勉強と姉さん


 魔法の儀式から一ヶ月経って……少しずつ、魔法を撃てる量が増えてきた。
 そんな中、本日も庭に出て魔法の鍛錬をしてます。
 ちなみに今の俺の生活は、大体こんな感じだ。
 午前中に魔法の鍛錬、休憩してお昼ご飯、その後にお勉強をして、疲れてお昼寝、兄さん姉さんが学校から帰ってきて遊ぶという流れになっている。
 休日の場合は、全員で過ごしたり、お出かけしたりしている。

「つ、疲れた……」
「アレス様、お疲れ様でした」
「エリゼも、毎日ありがとね」
「いえ、それが私の役目ですから」

 ……この間から、エリゼの様子がおかしい気がする。
 休日だろうが平日だろうが、やたらと俺に付きまとうようになってきたし。
 いや、姉さんや兄さんと違って、俺は目が離せないからかもしれないけどね。姉さんと兄さんは、もう子供だけど戦えるみたいだし。
 実際に兄さんなんかは、魔物退治のお手伝いなんかをし始めてる。姉さんも、領地に迷い出た魔物を退治したこともあるみたいだ。
 ……俺も、早くお仕事手伝いたいなぁ。


 その後、お昼ご飯を食べ終わると……。

「次はお勉強をしましょう」
「えぇ~剣の稽古がいい!」

 父上も、そろそろ始めてくれるって言ってたのに。というか、教えるのはエリゼらしいし。
 だから、どちらにしろエリゼの許可がいるってわけだ。

「では、この問題を解けたらいいでしょう」
「ほんと!? 何、何!?」
「ふふ、では問題です。一週間の曜日と、一月ひとつきと一年は何日あるでしょうか?」
「そんなの簡単だよ! 火の日、水の日、風の日、土の日、闇の日、光の日だよ! あと一年は三百六十日で、一月は三十日だよ! ちなみに、光の日がお休みで、第二第三の闇の日がお休みです!」
「正解です。さすがはアレス様ですね」
「これくらい簡単だもん」

 このあたりは前世と近いから、覚えることは簡単だった。そもそも、よくわからないけど、生まれた時から言葉は理解できたし。
 この感じだと、この先の問題も楽勝だね!
 ……ただ、怪しまれないように答えないと。知ってたらおかしいことは、なるべく知らないふりしようっと。

「では、次の問題です。この大陸の名前と、私たちが住んでいる国、領地をお答えください」
「えっと……ガルガンディア大陸で、オルレアン皇国。そしてここは辺境のナイゼル領、かな」
「正解です。ちなみに、ガルガンディアは基本的に暖かい土地です。暑いことはあっても、寒いということはない大陸です」
「へぇ~、そうなんだ。確かに、寒いって思ったことはないかも」
「まあ、アレス様は最近までほとんど家の中ですし、寝ていることが多いですから」

 なるほど、それも水属性がこき使われる理由でもあるのか。暑いなら、生活用品として魔石に魔法を込めないといけないし。

「じゃあ、雪とかはないの? 絵本とかには描いてあったんだけど」
「残念ながら、この大陸には雪というものはありません。多分、見たことがない人がほとんどかと」

 雪がない……つまり、氷もない?
 そうなると、やっぱり実験する必要が出てくるね。

「でも、本になってるんだよね? ということは、誰か見たことがあって、それを伝えてるってことだよね?」
「……まだ早いですが、ついでに説明しましょう。このガルガンディア大陸は、三つの大国と小さな国々でできています。そのうちの一つが、我々の住んでいる国であるオルレアン皇国で、大陸の北東に位置します。もう一つが、南に広がるグロシス王国。最後に、北西側に位置するセルラン公国があります」
「ふんふん」
「まあ、地図や地理などはすぐには理解できないと思いますので、追々おいおいご説明はします。とにかく、その三つの国が中心となっています。そして、我が国は幸いにして海に面しております」
「海……」
「海とは……なんと言えばいいのか、とりあえず大量の塩水があるところです。そして、時折違う大陸から行商船がやってくることがあります。その者が持ってきた本や知識によって、雪などがあることはわかっています」
「なるほど……」
「いずれ、アレス様も連れてって差し上げますね」
「うんっ!」

 海かぁ……美味しいものがたくさんありそう!
 そういえば……うちは、お世辞にも食料事情がいいとは言えない。
 野菜とかはあるけど、基本的に硬いパンとスープだし。肉もたまに出るけど、それは領民たちに配ってたり、売りに出しちゃうみたいだし。
 もちろん、それ自体は立派なことだと思ってるけど……。

「どうしましたか?」
「うんと……もっと、いっぱいご飯が食べたいかなって」

 俺がそう口にすると、エリゼは俺に寄り添うように言う。

「そうですね……我が領地にはお金がないですからね。魔法を込めようにも、魔石の数も少ないですし」

 確か、魔石は鉱山から採れるって書いてあった。
 まあ、詳しいことはさすがにわかんないや。
 というか……眠くなってきた。いつも、このくらいの時間に起きていられなくなる。

「ふぁ……」
「少し難しい話をしすぎましたね。そういうのはまたにしましょう。疲れましたか?」
「そ、そんなことないよ。剣の稽古しないと……約束したもん」
「ふふ、平気ですよ。きちんとできていましたので、お昼寝終わったら約束通り教えますからね」
「ほ、ほんと? ……ん、なら……」

 意識が朦朧としてくると……何か、柔らかいものに包まれる。

「では、僭越せんえつながら私が付き添いますね」

 その顔は、とても柔らかく微笑んでいて、いつもの無表情な感じではない。
 そういえば……エリゼって何者なんだろう? 家のことは全部できるし、父上と母上からの信頼も厚い。全然、歳も取った感じしないし、魔法も使えて強そうだし。しかも、疲れてるところや寝てるところを見たことないし……謎が多い。
 ……まあ、いいや。
 エリゼは優しいし、いつも俺の面倒も見てくれる……それだけでいいよね。

「エリゼも、僕にとっては大事な家族だから……」
「……ふふ、ありがとうございます」

 柔らかな感触を感じながら、俺は気持ちよく眠りに落ちていく……。


 * * *


 ……よく寝た!
 お昼寝から、俺が飛び起きると……。

「あら、起きたのね」
「姉さん……お帰りなさい」
「ただいま、アレス」
「あれ? 兄さんは?」
「一度帰ってきて、父さんの仕事を手伝いに行ったわよ」
「そっか……よし、僕も頑張らないと」
「じゃあ、私が見ててあげる」
「うんっ!」

 姉さんと手を繋いで、エリゼのもとに向かう。


「エリゼ~!」
「起きたのですね。では、稽古を始めましょうか」
「うんっ!」

 三人で庭に出たら、木剣を渡される。

「では、適当に打ち込んでみてください」
「いくよっ!」

 剣を構えて近づき、横薙よこなぎに振るう!

「へぇ……良いですね。まるで、どこかで習ったようです」
「そ、そうかな?」

 俺は前世では剣道部員だった。なので、普通の人より扱いはわかってるかも。

「ええ、これならば剣を覚えても良さそうです。では、続けてください」
「わかった!」


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