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最終章

結衣と龍神

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 ……あれ? 私は、何をして……?

「聖女よ」

「だ、誰!?」

 暗くて何も見えない。

「我は龍神なり。器の願いによりお主を元の世界に返す」

「えっ!? 今から!?」

 何もお別れしてない! お礼だって……。
 私ってば、よくわからない態度ばかりとって……。

「うむ、時間がない故にな」

「……あれ? じゃあ、どうしてこんな時間を?」

「奴は望まないかもしれないが、お主には伝えるべきだと思ってな。世界を救った奴の望みは、和馬の命を蘇らせることだった」

「で、できるんですか!?」

「ああ、我が命に代えても……五体満足かはわからないが」

「ど、どうやって? 過去は変えられないのでは?」

 どこかでそんな本を読んだことかある気がする。
 そしたら、世界線が違うとかなんとか。

「問題はない。元々は、我々の責任でもある。本来なら死ぬべき運命になかったのだから。都合良く、女神の介入がなかった世界になっている筈だ。しかし、そのための代償は大きい。奴は培ってきた力のほとんどを失うだろう」

「そ、そんな……」

 あの子…アレス君が努力をしてきた姿は知っている。
 兄弟に虐げられても、いつも前を向いて頑張ってきた。
 そして私のことも救ってくれた。

「奴には後悔はない。和馬を幸せにしてやってくれと。お主が……奴にとっても大事な人だからなのだろう」

「アレス君……」

「我が器の最後の願いだ……叶えてくれるだろうか?」

 私は溢れてる涙を拭いて、暗闇に答える。

「はいっ! もちろんです! 和馬さんは私が幸せにしますから!」

「うむ……では、お前達を元の世界に返そう」

 その瞬間……私の身体が何かに弾かれる!









 ……ん……。

「おい! 起きろ!」

「あれ? ……お父さん?」

「結衣! 早く行くわよ!」

「ど、どうしたの?」

 二人が余りにも鬼気迫る表情をしているので、ひとまず疑問を押し込める。
 私が、どのような状態で戻ってきたかを……あっ!

「か、和馬さん!」

「そうだっ! 和馬だっ!」

「行くわよっ!」

「う、うん!」

 よくわからないまま、私は両親共に家を出る。

 そして、そのまま車に乗り込む。

「お、お父さん」

「結衣、慌てるな。まだ確定したわけじゃない」

「貴方こそよ。これで私達が事故にでもなったら大変だわ」

「ああ、そうだな。運転に集中するとしよう」



 結局、黙ったまま……とある病院に到着する。

 そして、受付にて案内された部屋には……。

 身体中に管を入れている和馬さんがいた。

 その姿はやせ細っていて、以前とは見違える姿だった。

「か、和馬さん!」

「お、落ち着いてください!」

 飛び出そうとする私を、お医者さんが止める。

 その時……和馬さんの目が開かれる。

「ヒュー……」

「なんと……奇跡だ」

「和馬!」

「和馬君!」

「和馬さん!」

「ヒュー……」

 その仕草は、酸素マスクを外してくれと言っているようだ。

「……わかりました、ただし少しですからね。言語機能も落ちてるはずですから」

 そして、酸素マスクが外され……。

「ゆ、結衣……よ、よがった……お前が無事で……」

「か、和馬さん……ァァァ……!」

「し、しんばいかけだ……も、もうへいぎだ……おじさ……おばさ……すまながった」

「ば、バカいうな……生きていればいいさ……!」

「そ、そうよ……!」

「……ゆい……ちかくに……」

 私は一瞬だけお医者様に目を向け……頷くのを確認して近づく。

 そして、その手を優しく握りしめる。

「き、綺麗になっだ……」

「……えへへ、ありがとう。和馬さんは痩せちゃったね?」

「あぁ……どうやら……お前を車からかばっ……植物状態だっだ……長い夢をみていだ……アレスという」

「お、覚えてるの?」

「あぁ……そうが……アレは夢じゃなかっだのか……」

 正直言って真相はわからないけど……どうでもいい。

 私の目の前に、和馬さんがいる——それ以上の望みなんてないから。
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