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最終章

平和を実感する

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その後、順調に馬車は進み……。

「やはり、魔物などが出ないみたいですね」

「うむ、父上からの手紙でもそのように書かれていたのだ」

「まさに平和ってヤツですねー」

二人が御者の方に顔を出して、無防備な状態をさらす。
本当なら注意するところだが、確かに魔物がいない今、そこまで警戒することはない。

「……どうだかな」

「アレス様?」

セレナの優しく素直な目が、俺を見つめてくる。
 
「魔物がいなくなれば……それはそれで争いが起きるさ。皆が、セレナのようだったら良いが」

「そんな、わたしなんて……でも、そうですよね」

「まあ、その辺りも含めて世界を回ってみよう」

「はい、そうですね」

そう、この旅の目的は他にもある。
世界を回って、ここ以外の人々がどういった生活を送っているのかを確かめる。
それを持ち帰ることが、俺の仕事でもある。






そのまま何事もなく進みブリューナグ家領地に入ると……すぐに人々が集まってきた。

「アレス様! お帰りなさいませ!」
「アレス様~! 待ってましたよぉ~!」
「カグラ様もお帰りなさい!」

あちこちから、そんな嬉しい声が聞こえてくる。
その全てに手を振り、声をかけつつ、ブリューナグ家のに屋敷に到着する。

「アレス様、よくぞいらしてくださいました」

「アレス様、ご無沙汰しておりますわ」

「クレハさん、クロイス殿、どうかアレスと呼んでください。もはや、俺は皇位継承権を失ったのですから」

兄上が皇帝となった今、俺が継承権を持っているとまずい。
なにせ、皇太子という立場になってしまうからだ。
故に、俺は皇位継承権を放棄した。

「いえいえ、そういうわけには参りません。我らブリューナグ家は、貴方様に忠誠を誓ったのですから」

「はい、皇帝陛下だろうとそれを曲げることはできませんわ」

「そうなのだ! さすがは父上と母上なのだ!」

「いつでも、我が領地に遊びに来てください。領民の皆も、そう思っていますから」

「もし帰ってきた時に皇都に居づらいなら、いつでもいらっしゃってくださいな」

……全く、困った人たちだ。
きっと、俺の立場がなくなったり、居場所がなくならないようにしてくれているのだろう。

「ここは、俺の第二の故郷だと思っているので嬉しいです。クロイス殿、クレハさん、改めてありがとうございます。俺が魔王だと認定された時、貴方達が味方になってくれたこと……本当に嬉しかったです」

「何を言うのですか。我々は貴方様に助けられた。国王陛下に掛け合ってくださり、物資や兵士を送ってくださり……」

「こんなじゃじゃ馬娘まで娶ってくださって……感謝しかありませんわ」

「も、もう! 母上!」

「いえいえ、こんな可愛い子は俺には勿体ないくらいです」

「ふえっ!?」

「ははっ! 顔が真っ赤ではないか!」

「あらあら、そんなんで初夜とか平気かしら?」

「しょ、しょ、初夜!? あぅぅ……」

すると、それまで見守っていた二人が前に出てくる。

「わ、わたしもできるかな?」

「私は余裕ですよー」

「むむっ……せ、拙者も頑張るのだ!」

「……まあ、俺も頑張るよ」

俺は久々の緩い空気に肩の力を抜くのだった。

うん……こういうのが平和っていうんだろうな。

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