上 下
248 / 257
最終章

オルガとの別れ

しおりを挟む
 馬車が進み出すこと数刻後……。

 途中からカグラの隣に来て話していたら……。

「むっ!? 馬が駆けてくるのだ!」

「なに?……おいおい、こなくて良いって言ったろうに」

 そこには、俺の親友であり右腕である男がいた。
 すっかり逞しくなり、もう一人前の男になっている。

「はぁ、はぁ……アレス様! 酷いじゃないですか!」

「オルガ……いや、お前こそ何してるんだ? カエラは妊娠中だろうに」

 そう……俺がオルガを置いて行く一番の理由だ。
 これからは、俺ではなく家族を守らなければならない。

「し、しかし……僕は……貴方を守ると誓ったのに……」

「これからは家族を守れ。きっと、これから大変なことも起きる。この三か月の間に処理をしたとはいえ、女神がいなくなったことでの争いもまた起きるだろう」

「で、ですが……」

「おいおい、父親は子供と奥さんといてやってくれ。それが、どんなに大事な時間かというのは……俺に言わせるなよ?」

 口には出さないが、小さい頃俺がどれだけ寂しかったか。
 転成体でなかった普通の人なら、その寂しさに耐えられたか……。
 それに耐えられたのは……きっとカエラというお姉さん的な存在がいたからだ。

「アレス様……」

「きっと、カエラは行ってきても良いって言ったんだろ?」

「……はい」

「だが、俺が許さん。俺との約束を忘れたのか? 俺の大事な姉でもあるカエラを、お前が好きだと言った時のことを」

「……必ず幸せにしてやってくれと……俺の大事な人だからと……」

「ああ、そうだ。カエラは血の繋がった家族には恵まれていない……だから、そばにいてやってくれ」

「くっ……」

 オルガは強く拳を握りしめて俯く。
 きっと、行きたい気持ちと残りたい気持ちが混同しているのだろう。
 オルガとてまだまだ若い……冒険したいという気持ちもあるだろう。
 すると……それまで黙っていたカグラが動く。

「オルガ」

「カグラさん?」

「安心するのだ。オルガの分も……左腕の分も拙者が主人殿をお守りするのだ」

「……ずるいですよ」

「何を言うのだ。いつもずるいと思っていたのは拙者だ。男同士で楽しそうで」

「……ふふ、それもそうでしたね」

「それと……大丈夫なのだ。また、数年後には帰ってくるし……せ、拙者が子供とかできたら……そ、その時は、代わりにオルガが行くといいのだ!」

「……なるほど、そういう考えもありますね」

「だ、だから! お主はそれまで主人がいつでも帰ってこれるようにしとくのだ!」

「ありがとう、カグラさん……いえ、我がライバルよ。では、我が主君のことを頼みます」

「うむっ! 任されたのだ!」

 すると……馬車から二人が顔を出す。

「オルガ君! わたし達もいますから!」

「平気ですよ~」

「セレナさん、アスナさん……ええ、よろしくお願いします」

 そこでオルガが、再び俺の方を向く。

「我が主君よ」

「どうした、我が騎士オルガよ」

「僕は貴方が安心して帰ってこれるように、この地を守ってまいります。安心して旅ができるように、いつでも帰ってこれるように」

「オルガなら安心だ。なにせ、俺の自慢の親友だからな?」

「っ……! ぼ、僕は、貴方がいなければ……ただの男爵の子息だった僕と仲良くしてくれて……領地のことも気にかけてもらって……僕のためにカイゼル様に頭を下げて……大事な姉であるカエラさんとのことを認めてくれて……それに対して、僕が貴方に何を返せたでしょうか……」

「バカいうなよ。聖痕なしの落ちこぼれと言われた俺と仲良くしてくれて、領地にまで遊びに連れてってくれて、俺を守るために必死に訓練して、俺の大事な姉と親友が結婚してくれたんだ……ありがとな、オルガ。俺は充分にもらっているさ」

「ア、アレス様……」

「さて……さあ、そろそろ戻るといい。妊娠中の女性は不安になるんだぞ?」

「……はい、わかりました」

「オルガ、また会える日を楽しみにしてる。そして、悲しい顔をするな……笑顔でな」

「はい! 三人もお元気で!」

「うむ!」

「オルガ君も!」

「達者で~」

 そして、オルガが馬を反転させ……走り去っていく。

「主人殿、もう行きましたよ……だから、平気なのだ」

「っ……ァァ……」

 俺の目から、我慢していた涙が滲み出てくる。

 主人として、親友として、かっこ悪いところは見せたくなかったから。


しおりを挟む
感想 44

あなたにおすすめの小説

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

【完結】僕は今、異世界の無人島で生活しています。

コル
ファンタジー
 大学生の藤代 良太。  彼は大学に行こうと家から出た瞬間、謎の光に包まれ、女神が居る場所へと転移していた。  そして、その女神から異世界を救ってほしいと頼まれる。  異世界物が好きな良太は二つ返事で承諾し、異世界へと転送された。  ところが、女神に転送された場所はなんと異世界の無人島だった。  その事実に絶望した良太だったが、異世界の無人島を生き抜く為に日ごろからネットで見ているサバイバル系の動画の内容を思い出しながら生活を開始する。  果たして良太は、この異世界の無人島を無事に過ごし脱出する事が出来るのか!?  ※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さんとのマルチ投稿です。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

処理中です...