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最終章
オルガとの別れ
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馬車が進み出すこと数刻後……。
途中からカグラの隣に来て話していたら……。
「むっ!? 馬が駆けてくるのだ!」
「なに?……おいおい、こなくて良いって言ったろうに」
そこには、俺の親友であり右腕である男がいた。
すっかり逞しくなり、もう一人前の男になっている。
「はぁ、はぁ……アレス様! 酷いじゃないですか!」
「オルガ……いや、お前こそ何してるんだ? カエラは妊娠中だろうに」
そう……俺がオルガを置いて行く一番の理由だ。
これからは、俺ではなく家族を守らなければならない。
「し、しかし……僕は……貴方を守ると誓ったのに……」
「これからは家族を守れ。きっと、これから大変なことも起きる。この三か月の間に処理をしたとはいえ、女神がいなくなったことでの争いもまた起きるだろう」
「で、ですが……」
「おいおい、父親は子供と奥さんといてやってくれ。それが、どんなに大事な時間かというのは……俺に言わせるなよ?」
口には出さないが、小さい頃俺がどれだけ寂しかったか。
転成体でなかった普通の人なら、その寂しさに耐えられたか……。
それに耐えられたのは……きっとカエラというお姉さん的な存在がいたからだ。
「アレス様……」
「きっと、カエラは行ってきても良いって言ったんだろ?」
「……はい」
「だが、俺が許さん。俺との約束を忘れたのか? 俺の大事な姉でもあるカエラを、お前が好きだと言った時のことを」
「……必ず幸せにしてやってくれと……俺の大事な人だからと……」
「ああ、そうだ。カエラは血の繋がった家族には恵まれていない……だから、そばにいてやってくれ」
「くっ……」
オルガは強く拳を握りしめて俯く。
きっと、行きたい気持ちと残りたい気持ちが混同しているのだろう。
オルガとてまだまだ若い……冒険したいという気持ちもあるだろう。
すると……それまで黙っていたカグラが動く。
「オルガ」
「カグラさん?」
「安心するのだ。オルガの分も……左腕の分も拙者が主人殿をお守りするのだ」
「……ずるいですよ」
「何を言うのだ。いつもずるいと思っていたのは拙者だ。男同士で楽しそうで」
「……ふふ、それもそうでしたね」
「それと……大丈夫なのだ。また、数年後には帰ってくるし……せ、拙者が子供とかできたら……そ、その時は、代わりにオルガが行くといいのだ!」
「……なるほど、そういう考えもありますね」
「だ、だから! お主はそれまで主人がいつでも帰ってこれるようにしとくのだ!」
「ありがとう、カグラさん……いえ、我がライバルよ。では、我が主君のことを頼みます」
「うむっ! 任されたのだ!」
すると……馬車から二人が顔を出す。
「オルガ君! わたし達もいますから!」
「平気ですよ~」
「セレナさん、アスナさん……ええ、よろしくお願いします」
そこでオルガが、再び俺の方を向く。
「我が主君よ」
「どうした、我が騎士オルガよ」
「僕は貴方が安心して帰ってこれるように、この地を守ってまいります。安心して旅ができるように、いつでも帰ってこれるように」
「オルガなら安心だ。なにせ、俺の自慢の親友だからな?」
「っ……! ぼ、僕は、貴方がいなければ……ただの男爵の子息だった僕と仲良くしてくれて……領地のことも気にかけてもらって……僕のためにカイゼル様に頭を下げて……大事な姉であるカエラさんとのことを認めてくれて……それに対して、僕が貴方に何を返せたでしょうか……」
「バカいうなよ。聖痕なしの落ちこぼれと言われた俺と仲良くしてくれて、領地にまで遊びに連れてってくれて、俺を守るために必死に訓練して、俺の大事な姉と親友が結婚してくれたんだ……ありがとな、オルガ。俺は充分にもらっているさ」
「ア、アレス様……」
「さて……さあ、そろそろ戻るといい。妊娠中の女性は不安になるんだぞ?」
「……はい、わかりました」
「オルガ、また会える日を楽しみにしてる。そして、悲しい顔をするな……笑顔でな」
「はい! 三人もお元気で!」
「うむ!」
「オルガ君も!」
「達者で~」
そして、オルガが馬を反転させ……走り去っていく。
「主人殿、もう行きましたよ……だから、平気なのだ」
「っ……ァァ……」
俺の目から、我慢していた涙が滲み出てくる。
主人として、親友として、かっこ悪いところは見せたくなかったから。
途中からカグラの隣に来て話していたら……。
「むっ!? 馬が駆けてくるのだ!」
「なに?……おいおい、こなくて良いって言ったろうに」
そこには、俺の親友であり右腕である男がいた。
すっかり逞しくなり、もう一人前の男になっている。
「はぁ、はぁ……アレス様! 酷いじゃないですか!」
「オルガ……いや、お前こそ何してるんだ? カエラは妊娠中だろうに」
そう……俺がオルガを置いて行く一番の理由だ。
これからは、俺ではなく家族を守らなければならない。
「し、しかし……僕は……貴方を守ると誓ったのに……」
「これからは家族を守れ。きっと、これから大変なことも起きる。この三か月の間に処理をしたとはいえ、女神がいなくなったことでの争いもまた起きるだろう」
「で、ですが……」
「おいおい、父親は子供と奥さんといてやってくれ。それが、どんなに大事な時間かというのは……俺に言わせるなよ?」
口には出さないが、小さい頃俺がどれだけ寂しかったか。
転成体でなかった普通の人なら、その寂しさに耐えられたか……。
それに耐えられたのは……きっとカエラというお姉さん的な存在がいたからだ。
「アレス様……」
「きっと、カエラは行ってきても良いって言ったんだろ?」
「……はい」
「だが、俺が許さん。俺との約束を忘れたのか? 俺の大事な姉でもあるカエラを、お前が好きだと言った時のことを」
「……必ず幸せにしてやってくれと……俺の大事な人だからと……」
「ああ、そうだ。カエラは血の繋がった家族には恵まれていない……だから、そばにいてやってくれ」
「くっ……」
オルガは強く拳を握りしめて俯く。
きっと、行きたい気持ちと残りたい気持ちが混同しているのだろう。
オルガとてまだまだ若い……冒険したいという気持ちもあるだろう。
すると……それまで黙っていたカグラが動く。
「オルガ」
「カグラさん?」
「安心するのだ。オルガの分も……左腕の分も拙者が主人殿をお守りするのだ」
「……ずるいですよ」
「何を言うのだ。いつもずるいと思っていたのは拙者だ。男同士で楽しそうで」
「……ふふ、それもそうでしたね」
「それと……大丈夫なのだ。また、数年後には帰ってくるし……せ、拙者が子供とかできたら……そ、その時は、代わりにオルガが行くといいのだ!」
「……なるほど、そういう考えもありますね」
「だ、だから! お主はそれまで主人がいつでも帰ってこれるようにしとくのだ!」
「ありがとう、カグラさん……いえ、我がライバルよ。では、我が主君のことを頼みます」
「うむっ! 任されたのだ!」
すると……馬車から二人が顔を出す。
「オルガ君! わたし達もいますから!」
「平気ですよ~」
「セレナさん、アスナさん……ええ、よろしくお願いします」
そこでオルガが、再び俺の方を向く。
「我が主君よ」
「どうした、我が騎士オルガよ」
「僕は貴方が安心して帰ってこれるように、この地を守ってまいります。安心して旅ができるように、いつでも帰ってこれるように」
「オルガなら安心だ。なにせ、俺の自慢の親友だからな?」
「っ……! ぼ、僕は、貴方がいなければ……ただの男爵の子息だった僕と仲良くしてくれて……領地のことも気にかけてもらって……僕のためにカイゼル様に頭を下げて……大事な姉であるカエラさんとのことを認めてくれて……それに対して、僕が貴方に何を返せたでしょうか……」
「バカいうなよ。聖痕なしの落ちこぼれと言われた俺と仲良くしてくれて、領地にまで遊びに連れてってくれて、俺を守るために必死に訓練して、俺の大事な姉と親友が結婚してくれたんだ……ありがとな、オルガ。俺は充分にもらっているさ」
「ア、アレス様……」
「さて……さあ、そろそろ戻るといい。妊娠中の女性は不安になるんだぞ?」
「……はい、わかりました」
「オルガ、また会える日を楽しみにしてる。そして、悲しい顔をするな……笑顔でな」
「はい! 三人もお元気で!」
「うむ!」
「オルガ君も!」
「達者で~」
そして、オルガが馬を反転させ……走り去っていく。
「主人殿、もう行きましたよ……だから、平気なのだ」
「っ……ァァ……」
俺の目から、我慢していた涙が滲み出てくる。
主人として、親友として、かっこ悪いところは見せたくなかったから。
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