214 / 257
最終章
師弟
しおりを挟む
まだまだ疑問点はある。
聖女とは? 勇者とは?
この大陸というが、この世界はそんなに狭いのかとか。
封印とは具体的にどういうことなのか、魔物とはなんだ……キリがない。
「クク、色々聞きたそうだ」
「聞けば答えてくれるのか?」
「ただで教えるのはつまらん。さあ、続きをやってもらおうか。そいつを倒せたら、色々と教えてやろう」
静かに佇んでいたカイゼルが動き出す。
「良いだろう……こい、カイゼル——弟子として、主人として、お前の目を覚まさせてやる」
「ガァァァァァァァ!」
魔法は一切使うつもりはない。
己の剣術のみで——!
「ふっ!」
迫り来る剛剣を、柔剣でいなす!
「カァ!?」
「どうした? 動の剣の極みとは、そんなものか?」
「カ……ガァァ!」
カイゼルが動なら、俺は静……そうだ、散々言われ来たじゃないか。
◇
グロリア王国から帰ってきたある日、カイゼルに言われたことがある。
「アレス様」
「ん? どうした?」
「少し、剣技が荒れておりますな」
「そうか?」
自分では意識していないが、カイゼルが言うならそうなのだろう。
グロリア王国に一年以上いたからかもしれない。
「ええ、貴方の剣は静の剣。私の動の剣とは違う」
「まあ、俺にはカイゼルのような体格も力もないからな」
「無論、それもあります。ですが、もっと大事な理由があります。以前にも、教えたはずですが」
えっと……確か、最初の頃か。
動の者は激情に任せひたすら攻撃に転じ、相手に攻撃の隙を与えない。
静の者は激情を抑え受けに徹し、ここぞという時に返し技を与える。
「静の者は、いつ如何なる時も冷静であれ……だったな」
「はい、その通りです。私も今でこそ静の剣も扱えますが、それは歳を重ねて来たからです。若いうちは自分に合った剣技を極めると良いでしょう」
「俺は静を極めるか……」
「ええ、貴方はお優しい。故に、激情に駆られることもあるでしょう。ですが、そんな時ほど冷静になるのです——たとえ、相手が誰であろうとも」
そうだ、俺が間違えそうな時、迷っている時、困っている時……。
いつだって、カイゼル師として導いてくれた。
カイゼルが間違ったのなら……それを正すのも弟子の務め!
◇
ならば——俺にできることは!
「カァ!?」
「どこを見ている!」
「グカァァァァァ!」
迫り来る剣を右へ左へと、紙一重にかわす。
冷静に、慌てず、刀を鞘に仕舞い、ただ——その時を待つ。
どれくらい経っただろうか……ついに、その時が来た。
焦りからか、カイゼルの剣が……一瞬遅くなる。
「今——一刀龍閃」
「ガァァァァァァァア!?」
俺の居合斬りは……カイゼルの利き腕を切りとった。
聖女とは? 勇者とは?
この大陸というが、この世界はそんなに狭いのかとか。
封印とは具体的にどういうことなのか、魔物とはなんだ……キリがない。
「クク、色々聞きたそうだ」
「聞けば答えてくれるのか?」
「ただで教えるのはつまらん。さあ、続きをやってもらおうか。そいつを倒せたら、色々と教えてやろう」
静かに佇んでいたカイゼルが動き出す。
「良いだろう……こい、カイゼル——弟子として、主人として、お前の目を覚まさせてやる」
「ガァァァァァァァ!」
魔法は一切使うつもりはない。
己の剣術のみで——!
「ふっ!」
迫り来る剛剣を、柔剣でいなす!
「カァ!?」
「どうした? 動の剣の極みとは、そんなものか?」
「カ……ガァァ!」
カイゼルが動なら、俺は静……そうだ、散々言われ来たじゃないか。
◇
グロリア王国から帰ってきたある日、カイゼルに言われたことがある。
「アレス様」
「ん? どうした?」
「少し、剣技が荒れておりますな」
「そうか?」
自分では意識していないが、カイゼルが言うならそうなのだろう。
グロリア王国に一年以上いたからかもしれない。
「ええ、貴方の剣は静の剣。私の動の剣とは違う」
「まあ、俺にはカイゼルのような体格も力もないからな」
「無論、それもあります。ですが、もっと大事な理由があります。以前にも、教えたはずですが」
えっと……確か、最初の頃か。
動の者は激情に任せひたすら攻撃に転じ、相手に攻撃の隙を与えない。
静の者は激情を抑え受けに徹し、ここぞという時に返し技を与える。
「静の者は、いつ如何なる時も冷静であれ……だったな」
「はい、その通りです。私も今でこそ静の剣も扱えますが、それは歳を重ねて来たからです。若いうちは自分に合った剣技を極めると良いでしょう」
「俺は静を極めるか……」
「ええ、貴方はお優しい。故に、激情に駆られることもあるでしょう。ですが、そんな時ほど冷静になるのです——たとえ、相手が誰であろうとも」
そうだ、俺が間違えそうな時、迷っている時、困っている時……。
いつだって、カイゼル師として導いてくれた。
カイゼルが間違ったのなら……それを正すのも弟子の務め!
◇
ならば——俺にできることは!
「カァ!?」
「どこを見ている!」
「グカァァァァァ!」
迫り来る剣を右へ左へと、紙一重にかわす。
冷静に、慌てず、刀を鞘に仕舞い、ただ——その時を待つ。
どれくらい経っただろうか……ついに、その時が来た。
焦りからか、カイゼルの剣が……一瞬遅くなる。
「今——一刀龍閃」
「ガァァァァァァァア!?」
俺の居合斬りは……カイゼルの利き腕を切りとった。
21
お気に入りに追加
2,767
あなたにおすすめの小説
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ユウ
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡
サクラ近衛将監
ファンタジー
女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。
シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。
シルヴィの将来や如何に?
毎週木曜日午後10時に投稿予定です。
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
【完結】僕は今、異世界の無人島で生活しています。
コル
ファンタジー
大学生の藤代 良太。
彼は大学に行こうと家から出た瞬間、謎の光に包まれ、女神が居る場所へと転移していた。
そして、その女神から異世界を救ってほしいと頼まれる。
異世界物が好きな良太は二つ返事で承諾し、異世界へと転送された。
ところが、女神に転送された場所はなんと異世界の無人島だった。
その事実に絶望した良太だったが、異世界の無人島を生き抜く為に日ごろからネットで見ているサバイバル系の動画の内容を思い出しながら生活を開始する。
果たして良太は、この異世界の無人島を無事に過ごし脱出する事が出来るのか!?
※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さんとのマルチ投稿です。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる