213 / 257
最終章
語り
しおりを挟む
噂を聞かないと思っていたら……そういうことか。
「ザガンが言っていた者とはお前だな? 騙されたとか、裏切られたとか」
「べ、別に……僕はただ強くなりたいって言ったから……」
「責任逃れか? お前がやったことに変わりはない」
「う、うるさい! 君に何がわかる!」
「さあ? 知りたくもない。ただ、一つだけ言えるのは——お前は殺す」
「ヒィ!?」
「誇り高き男を……こんな目に遭わせやがって」
イメージだが、これは麻薬に近い。
こんなモノが出回ったら……えらいことになる。
「ふむ、まだ死なれては困る。さあ、下がってろ」
「は、はぃ」
奴は、再び扉の向こうに去っていく。
「さて、他の奴らはどうかな?」
「心配いらない。俺の仲間は、そんなにやわじゃない」
俺はターレスとカイゼルから視線を逸らさない。
すでに仲間たちは視線に入らない位置にいるが……。
仲間を信じ、俺は俺のやるべきことをなす。
「動じないか……良い、やはり良い……不安や心配を抑え込み、それでも気丈に振る舞うことができる……ははっ!」
「……貴様は、何がしたいんだ?」
俺には、ずっと疑問だった。
こいつは、その気になれば……もっと狡猾にことを進められたはず。
俺を殺すことも、母上達に危害を加えることも。
しかし、何処か……手を抜いていた。
無論、気づいたのはだいぶ後だったが。
「何がしたいか……柄ではないが、種明かしも含めて少し話をしてみるか。どうやら、私も気分が良いらしい。さて……私は、この国を裏から操ってきた一族だ。フラムベルク皇家を追い出し、新たに初代皇帝を立てた」
「……だから、フラムベルク家は自分達が正当なる者と主張してきたのか」
「まあ、そういうことだ。奴らは元々、この大陸の支配者だった。グロリア王国も、元々はフラムベルク家から分かれた国家だ。そして、私は教会出身だ」
「……それには予想がついていた」
「ほう? 流石だ。では聞かせてくれ、貴様の考えを」
「大したことはわからない。俺に言えることは、この世界は女神にとって都合の良い世界になっていたということだけだ」
「……いや、十分だろう。全ては、それに集約される。女神はこの世界を龍神から乗っ取った。奴を悪神に仕立て上げ、己を奉ずるように仕向けた。神の力とは、信徒の力。信徒が減った龍神は弱くなり、女神が徐々に力を持ったというわけだ」
「……肝心の部分がないな」
「そこに気付くか……」
「そもそも、何故女神がこの世界にきたのか? どこからきたのか? 龍神とやらは何をしていたのか?」
「流石の私も、その辺りはわからん。それを知っているのは本人だけだが……もう存在しない。私の中から、女神の意識は消え去っている」
「つまり、この世界は龍神に手に帰ってくると……お前が何をするかによるが。さあ、もう一度問おう——貴様は何がしたいんだ?」
「退屈なのだよ」
「……何?」
「女神を奉ずる教会による支配、決められた役割、代わり映えしない日々……私は——生を感じたい」
「……狂ってるな。それだけのために、ここまでのことを?」
「平穏を求める貴様にはわかるまい」
その顔は寂しげに見え……。
俺は、ようやく……ターレスという男を見た気がした。
~あとがき~
いつも本作品を読んでくださり、誠にありがとうございます。
本日はこの場を借りてお礼申し上げます。
私の書籍デビュー作である「はぐれ猟師の異世界自炊生活」ですが、無事に二巻に向けて準備中となっております。
こちらの作品から私を知って買ってくださった方もいたので、誠にありがとうございます。゚(゚´Д`゚)゚
これからも、引き続き執筆活動を続けてまいりますので、よろしくお願いいたします。
「ザガンが言っていた者とはお前だな? 騙されたとか、裏切られたとか」
「べ、別に……僕はただ強くなりたいって言ったから……」
「責任逃れか? お前がやったことに変わりはない」
「う、うるさい! 君に何がわかる!」
「さあ? 知りたくもない。ただ、一つだけ言えるのは——お前は殺す」
「ヒィ!?」
「誇り高き男を……こんな目に遭わせやがって」
イメージだが、これは麻薬に近い。
こんなモノが出回ったら……えらいことになる。
「ふむ、まだ死なれては困る。さあ、下がってろ」
「は、はぃ」
奴は、再び扉の向こうに去っていく。
「さて、他の奴らはどうかな?」
「心配いらない。俺の仲間は、そんなにやわじゃない」
俺はターレスとカイゼルから視線を逸らさない。
すでに仲間たちは視線に入らない位置にいるが……。
仲間を信じ、俺は俺のやるべきことをなす。
「動じないか……良い、やはり良い……不安や心配を抑え込み、それでも気丈に振る舞うことができる……ははっ!」
「……貴様は、何がしたいんだ?」
俺には、ずっと疑問だった。
こいつは、その気になれば……もっと狡猾にことを進められたはず。
俺を殺すことも、母上達に危害を加えることも。
しかし、何処か……手を抜いていた。
無論、気づいたのはだいぶ後だったが。
「何がしたいか……柄ではないが、種明かしも含めて少し話をしてみるか。どうやら、私も気分が良いらしい。さて……私は、この国を裏から操ってきた一族だ。フラムベルク皇家を追い出し、新たに初代皇帝を立てた」
「……だから、フラムベルク家は自分達が正当なる者と主張してきたのか」
「まあ、そういうことだ。奴らは元々、この大陸の支配者だった。グロリア王国も、元々はフラムベルク家から分かれた国家だ。そして、私は教会出身だ」
「……それには予想がついていた」
「ほう? 流石だ。では聞かせてくれ、貴様の考えを」
「大したことはわからない。俺に言えることは、この世界は女神にとって都合の良い世界になっていたということだけだ」
「……いや、十分だろう。全ては、それに集約される。女神はこの世界を龍神から乗っ取った。奴を悪神に仕立て上げ、己を奉ずるように仕向けた。神の力とは、信徒の力。信徒が減った龍神は弱くなり、女神が徐々に力を持ったというわけだ」
「……肝心の部分がないな」
「そこに気付くか……」
「そもそも、何故女神がこの世界にきたのか? どこからきたのか? 龍神とやらは何をしていたのか?」
「流石の私も、その辺りはわからん。それを知っているのは本人だけだが……もう存在しない。私の中から、女神の意識は消え去っている」
「つまり、この世界は龍神に手に帰ってくると……お前が何をするかによるが。さあ、もう一度問おう——貴様は何がしたいんだ?」
「退屈なのだよ」
「……何?」
「女神を奉ずる教会による支配、決められた役割、代わり映えしない日々……私は——生を感じたい」
「……狂ってるな。それだけのために、ここまでのことを?」
「平穏を求める貴様にはわかるまい」
その顔は寂しげに見え……。
俺は、ようやく……ターレスという男を見た気がした。
~あとがき~
いつも本作品を読んでくださり、誠にありがとうございます。
本日はこの場を借りてお礼申し上げます。
私の書籍デビュー作である「はぐれ猟師の異世界自炊生活」ですが、無事に二巻に向けて準備中となっております。
こちらの作品から私を知って買ってくださった方もいたので、誠にありがとうございます。゚(゚´Д`゚)゚
これからも、引き続き執筆活動を続けてまいりますので、よろしくお願いいたします。
11
お気に入りに追加
2,747
あなたにおすすめの小説
転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。
蒼井美紗
ファンタジー
魔物に襲われた記憶を最後に、何故か別の世界へ生まれ変わっていた主人公。この世界でも楽しく生きようと覚悟を決めたけど……何この世界、前の世界と比べ物にならないほど酷い環境なんだけど。俺って公爵家嫡男だよね……前の世界の平民より酷い生活だ。
俺の前世の知識があれば、滅亡するんじゃないかと心配になるほどのこの国を救うことが出来る。魔法陣魔法を広めれば、多くの人の命を救うことが出来る……それならやるしかない!
魔法陣魔法と前世の知識を駆使して、この国の救世主となる主人公のお話です。
※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
貴方がLv1から2に上がるまでに必要な経験値は【6億4873万5213】だと宣言されたけどレベル1の状態でも実は最強な村娘!!
ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
この世界の勇者達に道案内をして欲しいと言われ素直に従う村娘のケロナ。
その道中で【戦闘レベル】なる物の存在を知った彼女は教会でレベルアップに必要な経験値量を言われて唖然とする。
ケロナがたった1レベル上昇する為に必要な経験値は...なんと億越えだったのだ!!。
それを勇者パーティの面々に鼻で笑われてしまうケロナだったが彼女はめげない!!。
そもそも今の彼女は村娘で戦う必要がないから安心だよね?。
※1話1話が物凄く短く500文字から1000文字程度で書かせていただくつもりです。
~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~
hisa
ファンタジー
受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。
自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。
戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?
教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!!
※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく!
※第5章に突入しました。
※小説家になろう96万PV突破!
※カクヨム68万PV突破!
※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました
料理を作って異世界改革
高坂ナツキ
ファンタジー
「ふむ名前は狭間真人か。喜べ、お前は神に選ばれた」
目が覚めると謎の白い空間で人型の発行体にそう語りかけられた。
「まあ、お前にやってもらいたいのは簡単だ。異世界で料理の技術をばらまいてほしいのさ」
記憶のない俺に神を名乗る謎の発行体はそう続ける。
いやいや、記憶もないのにどうやって料理の技術を広めるのか?
まあ、でもやることもないし、困ってる人がいるならやってみてもいいか。
そう決めたものの、ゼロから料理の技術を広めるのは大変で……。
善人でも悪人でもないという理由で神様に転生させられてしまった主人公。
神様からいろいろとチートをもらったものの、転生した世界は料理という概念自体が存在しない世界。
しかも、神様からもらったチートは調味料はいくらでも手に入るが食材が無限に手に入るわけではなく……。
現地で出会った少年少女と協力して様々な料理を作っていくが、果たして神様に依頼されたようにこの世界に料理の知識を広げることは可能なのか。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる