出来損ない皇子に転生~前世と今世の大切な人達のために最強を目指す~

最終章

結衣と俺

　再び戻ると、そこでは爆音が響いていた。

　光の雨と、水と風の魔法が荒れ狂い、大地を揺るがす。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

「しつこい」

　まずい！ セレナの魔力が限界だ！

「シャドウワープ！」

　セレナの影から飛びだし、光の雨から闇のバリアで身を守る！

「ア、アレス様！？」

「もう平気だ！ あとは任せろ！」

「……すみません、私時間稼ぎしか……」

「何を言うんだ。お前は相手を殺さないようにしてくれたんだろ？ 俺が大事だと言ったから……いい女だな」

「ふえっ！？」

　きっと、結衣に対して良い感情は持っていないだろうに。
　それでも、こうして時間を稼いでくれた。

「大丈夫だ。俺は、結衣とどうこうなるつもりはない。それに、仮に元の世界に帰れる方法があったとしても、この——みんながいる世界にいるから」

「あっ……はぃ」

　セレナの顔から不安が消える。
　きっと、不安だったのだろう。
　俺自身も……元の平和な世界に帰りたくないと言ったら嘘になる。
　おじさん、おばさん、結衣と暮らす……そんな未来もあったはず。
　でも、俺はアレスで……ここには大事な人たちがいる。

「でも、結衣を救いたいんだ」

「はい！ それはアレス様にしかできません！」

「ああ、行ってくる」

「あっ！ 今のセリフ、カグラちゃんにも言わないとダメですからね！」

「もちろんだ」

　決意を新たにして、虚ろな表情を浮かべている結衣に近づく。

「おい、聞こえてるか？」

「……うるさい」

　よし……反応がある。
　どうやら、女神にダメージを与えた影響が出ている。

「よく聞け。女神に操られるのが、お前の望みか？」

「……」

「これでわかっただろう？ 女神が聖なる存在ではないことは」

「……じゃあ、どうしろっていうの？」

　……和馬、すまないが荒療治させてもらう！

　結衣の両頬に手を添え……。

「甘ったれるな！」

「っ！？」

「和馬が惚れた女がそんなことでどうする！？ そんなんじゃ——あいつはいつまで経っても、安心していくことができないぞ！ お前は和馬の葬式で、天国で和馬が安心していられるようにって決意したんじゃないのか！」

　きっと、俺が夢だと思っていたことは現実だったんだ。

　その意味まではわからないが、きっとこの時のためにある。

　すると……結衣から一粒の涙が流れる。

「……ず、ずるいよぉ……和馬さんのことを言うなんて……それに……惚れてたって……」

「ああ、そうだ。和馬は……お前のことが好きだった」

「……そんなぁ……」

「だが、今のお前を見て……和馬がどう思うか。俺を和馬の偽物と呼ぶのは良い。だが、お前の中の和馬はなんと言ってる？」

「……叱ってるよぉ……和馬さん、いつも優しくて……でも、時には厳しくて……私が弱気になると、しっかりしろって……」

「そうか……なら、自分のすることはわかるな？」

「……う、ゔん！！」

　涙を流す結衣を抱きしめずに……両手を肩に置く。

　和馬、安心してくれ。

　お前に代わって、俺が必ず結衣を元の世界に返してみせるから。