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最終章

説得

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……傷をつけるわけにはいかない。

たとえ、結衣が俺を殺すつもりであろうとも。

それだけは——

「結衣、行くぞ」

「ひ、光の矢よ!」

いくつもの光の矢が、俺に向かって飛んでくる。
俺は、その全てを魔刀にて打ちはらう。
そして、そのまま間合いを詰め——結衣の正面に立つ。

「う、嘘……簡単に……」

「俺が今まで手加減をしていたことに気づかないほど、お前たちは素人だ。どうして、戦いに来た? 俺を倒さないと、女神が元の世界に帰れないとでも言ったか? そもそも、和馬を忘れろ。あいつは死んだ——それだけは間違いない」

「……そんなことわかってる! 女神のことも! 和馬さんのことも! でも! それ以外に——どうしろって言うの!!」

「結衣……」

その目からは、涙が滲んでいる。
いきなりこんな世界に連れてこられて……混乱しているのも無理はない。
俺もそんな当たり前のことに気づかないくらいに、冷静ではなかったか。
今すぐ抱きしめて、その涙を拭ってあげたいが……それは、アレスの役目ではない。

「俺とこい。俺がどんなことをしてでも、お前を元の世界に帰す。おじさんとおばさんの元に。それが、俺の……和馬としての最後の役目だ」

「っ……!」

瞳が揺れ動き……迷っているようだ。
ここで無理矢理連れ去ってもいいが……それではダメだ。
自分で決めて、俺の手を取らない限りは。

「……時間切れか」

「えっ?」

俺はすぐに、その場から離れる。
次の瞬間——俺がいた場所に槍が降る。

「チィィ! 相変わらず勘がいいですねぇ!」

「ハロルドか……」

「は、ハロルドさん!?」

「聖女様! 騙されてはなりませんぞ! 其奴は邪神の使いにて魔王! この世界で唯一闇魔法使えることが証です! 貴方を闇に染めようとしているのです!」

「よく回る口だ……ん?」

気配がして振り返ると……。

「何……?」

「あ、ありがとうございます」

「いえいえ、お気になさらずに。これこそが、私の役目ですから。一度斬られたことで、貴方の肉体は強化されていますよ」

「俺が斬った腕が再生しただと?」

勇者の側に、いつの間にか爺さんがいた。
どうやら、こいつが治したようだが……そうか、こいつがそうなのか。

「貴様が……教皇か!」

「ええ、如何にも。初めましてですね、魔王アレス」

「トップがわざわざ前線まで出てくるとはな」

「ほほ、勇者様と聖女様を死なせるわけにはいきませんから」

こいつが、結衣を召喚したに違いない。
つまり、元凶の元ということだ。
俺が刀を構えようとした時——敵の軍から魔法が降り注ぐ!

「くっ!?」

「では、ひとまず退くと致しましょう。そろそろ、女神様の準備も出来てる頃ですし」

「なに?」

それだけ言い、奴らは退いていった。

女神の準備? どうやら、まだまだ前哨戦のようだ。
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