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最終章

魔王と聖女と勇者

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……綺麗になったな。

この年の一年というのは、本人が思っているより大きい。

まさか、成長した姿を見れるとは……こんな形でさえなければ。

「何よ? じっと見てきて……」

「いや、綺麗になったなと思ってな」

「なっ!? こいつ、あんなに可愛い子侍らせといて……!」

「ま、待てっ!」

クソ!? 調子が狂う!
今の俺はアレスだから、セレナやカグラを裏切るつもりはない。
しかし、結衣を前にしたら……和馬の想いが溢れてくる。

「けっ、中ボス風情が。さっさと片付けようぜ」

「……そうね、それには同意するわ」

俺は警戒しつつ、勇者と呼ばれる男を見る。
チャラチャラした、如何にも軽薄そうな男だ。
こんな奴に、結衣はやれん……と、今の俺が言えた義理じゃないか。

「お前は何だ? 結衣の彼氏か?」

「おっ、そうみえる?」

「違うわよ! 私は和馬さん一筋だもん!」

「いや、それはそれで困る」

「何で偽物の貴方が困るのよ!?」

「偽物か……」

その言葉を否定できない自分がいる。
アレスとて生きて、早十五年……和馬としての意識は、大分薄れている。

「おい! 女神様の話を聞いてたろ!?」

「そ、そうだったわね……そういう手口を使うって言ってたわ」

「ほう? 女神がそんなことをねぇ……結衣、騙されるな。思い込むのは、お前の悪い癖だ。女神は、お前を無理矢理この世界に呼び出した存在なんだぞ? そして、自分の都合のために、お前を戦わせているんだぞ? その意味を、自分の頭で考えてみろ。お前は、本来は」

「子供のくせに和馬さんみたいなこと言わないで!」

「ったく……子供はお前だ、結衣。しっかり、俺の目を見ろ——俺が嘘をついてるように見えるか?」

「そ、それは……でも、和馬さんを殺したのは邪神で……」

邪神が俺を殺した?……なるほど、そういうシナリオか。
邪神が俺を殺したことにして、結衣を焚きつけたということか。
この子は本来は馬鹿ではない……。
つまり結衣の俺への想いは、そこまでだったと……利用するとは胸糞悪い。
女神の正体はわからないが、少なくとも良い存在とは思えない。

「もう良い! 行くぜ!」

「ちっ、邪魔な勇者だ」

勇者を名乗る男が、剣を構えて向かってくる。

「俺の名前は中村将吾だっ!」

「速いな……」

力任せに振るった剣を、一歩下がって躱す。
素人くさいが、スピードとパワーを感じる一撃だ。

「おい! こいつを倒さねえと、元の世界に帰れないぜ!」

「そ、そうよね!」

その瞬間——結衣の身体が光りだす。

「ホーリーランス!」

「ダークランス!」

光と闇がぶつかり——相殺される。

どうやら……今は戦うしかないようだ。
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