上 下
158 / 257
前世と今世が交わる時

降臨?

しおりを挟む
 大人しく椅子に座り、儀式が行われるのを待っているが……。

 ……なんだ? さっきから汗が止まらない。

 身体全体が震えそうになるのを、必死に堪える……。

 今すぐにでも、ここから逃げろと……誰かに言われてる気がする?

 いや……そんな声はしない。

 皇族用スペースという、慣れない場所で緊張でもしているのだろうか?





 俺がそんなことを考えていると……。

「アレス、平気か?」
「父上……すみません、少し緊張しているみたいです」
「ふん、普段からこう言う場に出ないからだ」
「それをライル兄上が言います?」
「……さっきの仕返しだ」

 なるほど、意趣返しってわけか。
 それにしても、堂々としているな……流石は、皇太子ってことか。

「そういうことですか」
「安心するといい、貴様の出番はないからな……大人しく座っていろ」
「アレス、ライルはこう言っている……兄さんに任せろと」
「ち、父上!?」
「なるほど、そういうことですか。兄上、心遣いに感謝いたします」
「ぐっ……覚えてろ」

 ……なんだか、悪くない時間だ。

 心なしか、リラックス出来たような気もするし。




 その後、進行役の元……解説や挨拶が済んでいく。

 その際にライル兄上の挨拶も聞いたが……文句なしだった。

 これなら、立派な皇帝になれるかもしれない。

 俺も、微力ながら……支えていこうと思う。

 そして、進行は順調に進み……いよいよ、最後のメインイベントとなる。

「続きましては……最後となります。神器——御登場です!」

 通路から、布に覆われた台が運ばれてくる。

 そして、その布が取り払われた時……。

「……なんだ?」

 それを見た瞬間——体全体に悪寒が走った。
 方天戟のような槍……ハルバードに近いか?
 見た目は、ただの槍に見えるが……。

「アレス、神器を見るのは初めてだな? 流石のお前も緊張するか。アレは、普段は皇城の地下深くに封印されているからな」
「そ、そうでしたね」

 いや、違う……緊張などではない。
 これは……恐怖? 誰が? 俺が? いや……違う?

「それでは、ヘイゼル殿下のご登場です!」
「おっ、始まるぞ……相変わらずか」
「ふん……見るに耐えん姿です」
「完全な不摂生な生活を送ってる証拠ですね」
「「「はぁ………」」」

 続いて出てきたヘイゼルの姿に……俺達三人だけがため息をつく。
 他の者も思っているだろうが、皇族批判になってしまうからな。
 それくらい、奴の身体は怠惰そのものだった。
 俺より小さい身長、ぶよぶよの身体……特に、その欲に染まった顔。

「矯正はできなかったのですか?」
「俺も忠告したが……無駄だった」
「父上、放っておきましょう。あいつは、部屋に閉じこもって出てこない。何もしないが、特に害はないですから」
「そうはいうが……」
「父上、兄上、始まりますよ」

 ヘイゼルが、アスカロンに近づき……手に取る。

『オォォォ——!!』

 それまで静かに見守っていた会場がどよめく。

 それもそのはず……アレこそが聖痕の証……。

 通称、本物の皇族の証……俺が出来損ないと言われる所以。

 だが、今はいい。

 俺には、それより大事なものがある。

 大切な家族と、頼りになる仲間が……。




 ◇

 ~ヘイゼル視点~


 くそっ! 馬鹿にしやがって!

 だから出たくなかったんだ!

 高いところから見下ろしている父親と兄弟……。

「奴らが気にくわない」

 兄上はいつの間にか、アレスと仲良くしてるし。

 アレスは出来損ないのくせに、いつの間にか偉そうにしやがる。

 あんな可愛い婚約者まで……アレは手に入れたいなぁ。

 それに、父上は小言ばかりだ。

 やれ、しっかりしろ、皇族してとかなんとか……うんざりだ。

「どうせ、俺は皇帝にはなれない」

 聖痕もあるし、風魔法の才能もあるのにだ。

 ライル兄上がいる限り、俺には回ってこない。

 だから、皇都を出てからは好き勝手に生きることにした。

 言われるがままに女を覚え、美味い飯を食べる。

 寝て起きて、女、酒、食い物……そんな素晴らしい日々だ。

「フフ……平民をいたぶるのは楽しかったなぁ……あと、お高く止まった貴族の女も……」
「あの? ヘイゼル様? 平気ですか?」

 おっといかん……今は儀式中だった。

 さっさと終わらせて、女でも漁りにいくとしよう。

 俺は前に出て、アスカロンに触れる。

「ふふ……これを持てること、それが聖痕の証」

 出来損ないのアレスにはないものだ。

 うん……やはり、あいつには勿体ない。

 あの聖女と呼ばれるセレナとかいう女……。

 あれは、俺のモノにしよう。

「最悪、攫ってでも……。帰ったら、仕事の依頼をするとしよう……ん?」

 なんだ? アスカロンが……。

「う、うわぁァァァ!」

 アスカロンが光り輝く!

 そして、その瞬間——俺の頭に声が聞こえた。        

 ミツケタ……ヨウヤク……マサカ、コンナチカクニイタトハ……。

 ……ワガテキノケハイ……アレヲコロサナケレバァァァ!!

「ぁぁぁァァァ!」

 気がついた時、俺はアスカロンを掲げて投げる姿勢に入っていて……。

 その方向とは——。






 父上達がいる皇族用スペースだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

貴方がLv1から2に上がるまでに必要な経験値は【6億4873万5213】だと宣言されたけどレベル1の状態でも実は最強な村娘!!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
この世界の勇者達に道案内をして欲しいと言われ素直に従う村娘のケロナ。 その道中で【戦闘レベル】なる物の存在を知った彼女は教会でレベルアップに必要な経験値量を言われて唖然とする。 ケロナがたった1レベル上昇する為に必要な経験値は...なんと億越えだったのだ!!。 それを勇者パーティの面々に鼻で笑われてしまうケロナだったが彼女はめげない!!。 そもそも今の彼女は村娘で戦う必要がないから安心だよね?。 ※1話1話が物凄く短く500文字から1000文字程度で書かせていただくつもりです。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?

柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。 理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。 「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。 だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。 ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。 マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。 そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。 「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。 ──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。 その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。 けれど、それには思いも寄らない理由があって……? 信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。 ※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

処理中です...