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前世と今世が交わる時

降臨?

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 大人しく椅子に座り、儀式が行われるのを待っているが……。

 ……なんだ? さっきから汗が止まらない。

 身体全体が震えそうになるのを、必死に堪える……。

 今すぐにでも、ここから逃げろと……誰かに言われてる気がする?

 いや……そんな声はしない。

 皇族用スペースという、慣れない場所で緊張でもしているのだろうか?





 俺がそんなことを考えていると……。

「アレス、平気か?」
「父上……すみません、少し緊張しているみたいです」
「ふん、普段からこう言う場に出ないからだ」
「それをライル兄上が言います?」
「……さっきの仕返しだ」

 なるほど、意趣返しってわけか。
 それにしても、堂々としているな……流石は、皇太子ってことか。

「そういうことですか」
「安心するといい、貴様の出番はないからな……大人しく座っていろ」
「アレス、ライルはこう言っている……兄さんに任せろと」
「ち、父上!?」
「なるほど、そういうことですか。兄上、心遣いに感謝いたします」
「ぐっ……覚えてろ」

 ……なんだか、悪くない時間だ。

 心なしか、リラックス出来たような気もするし。




 その後、進行役の元……解説や挨拶が済んでいく。

 その際にライル兄上の挨拶も聞いたが……文句なしだった。

 これなら、立派な皇帝になれるかもしれない。

 俺も、微力ながら……支えていこうと思う。

 そして、進行は順調に進み……いよいよ、最後のメインイベントとなる。

「続きましては……最後となります。神器——御登場です!」

 通路から、布に覆われた台が運ばれてくる。

 そして、その布が取り払われた時……。

「……なんだ?」

 それを見た瞬間——体全体に悪寒が走った。
 方天戟のような槍……ハルバードに近いか?
 見た目は、ただの槍に見えるが……。

「アレス、神器を見るのは初めてだな? 流石のお前も緊張するか。アレは、普段は皇城の地下深くに封印されているからな」
「そ、そうでしたね」

 いや、違う……緊張などではない。
 これは……恐怖? 誰が? 俺が? いや……違う?

「それでは、ヘイゼル殿下のご登場です!」
「おっ、始まるぞ……相変わらずか」
「ふん……見るに耐えん姿です」
「完全な不摂生な生活を送ってる証拠ですね」
「「「はぁ………」」」

 続いて出てきたヘイゼルの姿に……俺達三人だけがため息をつく。
 他の者も思っているだろうが、皇族批判になってしまうからな。
 それくらい、奴の身体は怠惰そのものだった。
 俺より小さい身長、ぶよぶよの身体……特に、その欲に染まった顔。

「矯正はできなかったのですか?」
「俺も忠告したが……無駄だった」
「父上、放っておきましょう。あいつは、部屋に閉じこもって出てこない。何もしないが、特に害はないですから」
「そうはいうが……」
「父上、兄上、始まりますよ」

 ヘイゼルが、アスカロンに近づき……手に取る。

『オォォォ——!!』

 それまで静かに見守っていた会場がどよめく。

 それもそのはず……アレこそが聖痕の証……。

 通称、本物の皇族の証……俺が出来損ないと言われる所以。

 だが、今はいい。

 俺には、それより大事なものがある。

 大切な家族と、頼りになる仲間が……。




 ◇

 ~ヘイゼル視点~


 くそっ! 馬鹿にしやがって!

 だから出たくなかったんだ!

 高いところから見下ろしている父親と兄弟……。

「奴らが気にくわない」

 兄上はいつの間にか、アレスと仲良くしてるし。

 アレスは出来損ないのくせに、いつの間にか偉そうにしやがる。

 あんな可愛い婚約者まで……アレは手に入れたいなぁ。

 それに、父上は小言ばかりだ。

 やれ、しっかりしろ、皇族してとかなんとか……うんざりだ。

「どうせ、俺は皇帝にはなれない」

 聖痕もあるし、風魔法の才能もあるのにだ。

 ライル兄上がいる限り、俺には回ってこない。

 だから、皇都を出てからは好き勝手に生きることにした。

 言われるがままに女を覚え、美味い飯を食べる。

 寝て起きて、女、酒、食い物……そんな素晴らしい日々だ。

「フフ……平民をいたぶるのは楽しかったなぁ……あと、お高く止まった貴族の女も……」
「あの? ヘイゼル様? 平気ですか?」

 おっといかん……今は儀式中だった。

 さっさと終わらせて、女でも漁りにいくとしよう。

 俺は前に出て、アスカロンに触れる。

「ふふ……これを持てること、それが聖痕の証」

 出来損ないのアレスにはないものだ。

 うん……やはり、あいつには勿体ない。

 あの聖女と呼ばれるセレナとかいう女……。

 あれは、俺のモノにしよう。

「最悪、攫ってでも……。帰ったら、仕事の依頼をするとしよう……ん?」

 なんだ? アスカロンが……。

「う、うわぁァァァ!」

 アスカロンが光り輝く!

 そして、その瞬間——俺の頭に声が聞こえた。        

 ミツケタ……ヨウヤク……マサカ、コンナチカクニイタトハ……。

 ……ワガテキノケハイ……アレヲコロサナケレバァァァ!!

「ぁぁぁァァァ!」

 気がついた時、俺はアスカロンを掲げて投げる姿勢に入っていて……。

 その方向とは——。






 父上達がいる皇族用スペースだった。
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