上 下
135 / 257
青年期~後編~

任命され、認められる

しおりを挟む
 それから数日が過ぎ……。

「ロックブラスト!」
「そうです! 出す前にどこを狙うか、的との距離はどんなかを意識してください」
「おっ、今のはいいな。あとは、もっと圧縮して放つといい」
「はいっ! 師匠!」

 庭にて、レナの魔法の鍛錬を行っている。
 日々の日課に取り入れ、俺とセレナが指導にあたる。
 自分で言うのもあれだが……贅沢な話だ。



 そのまま続けていると……見覚えのある人が庭に入ってくる。
 カイゼルと一言二言話してから、こちらに向かってくる。

「あら~! なんか、良い感じの子がいるわね!」
「誰なのじゃ!?」
「コルンさんだよ!」
「お二人とも、拙者と少し遊びましょう」

 カグラがそう言い、二人を部屋へと連れて行く。

(へぇ……そういう気配りもできるようになったのか)

 ちなみに、アスナはカエラに変わって家事などをこなしている。
 母上の話し相手になったり……正直言って、めちゃくちゃ助かっている。

「コルン先輩! こんにちは!」
「こんにちは、セレナさん。ふふ、良かったわね? 愛しのアレス君に会えて」
「あぅぅ……はぃ」
「どうも先生、お久しぶりです。どうやら、色々とお世話になったようで……」
「アレス君、もう先生じゃないからねー」
「確かに……コルンさんと呼ばせていただきますね」

(……それにしても、見た目が全く変わっていないのだが? 相変わらず小さいし、いつの間にか見下ろしてるし)

「むっ! 今、小さいと思いましたね!?」
「い、いえ! 滅相もない!」
「別に良いですよ……私なんて、このまま一人で生きていくのよ……アレス君は三人も婚約者がいるのに……グスッ」
「せ、先輩! 泣かないでくださいよぉ~! きっと良い人いますから!」
「ええいっ! 何を言うか! このおっぱいめ!」

 素早い動きでセレナの後ろに回り……胸を揉みしだいている。

「キャァァァ!」
「へへへ、こうか? こうが良いのか?」
「や、やめてください! ア、アレス様がいるのに~!」
「ふふふ、アレス君だって見たいでしょ?」

(……すごいな、あんなに形が変わるのか……おっと、いかんいかん)

「先生……見たいし触りたいのは否定しませんが——そろそろ、怒りますよ?」
「ふえっ~!?」
「……良い顔になったわね~。ますます、ラグナに似てきたわ」
「そうですかね? 顔は母上譲りな気がしますけど……」
「雰囲気というか……さて、私も遊びに来たわけじゃないの」
「いや、それはそうでしょうね」

(仮にも、宮廷魔導師なんだし……見た目は子供だけど)

「何か?」
「いえ、何も。それで?」
「えっと……これね、はい」

 何やら封筒を手渡される。

「見ても良いですか?」
「ええ、平気よ」

 封筒を開けて、紙を開いてみると……。

「なになに……其方を特務隊隊長に任命する……?」

(聞いたことない役職だな……)

 我が国は、大将をトップとした分かりやすい階級制だ。
 大将、中将、少将、大佐、中佐……という感じに。

「これは?」
「皇帝陛下が新しく作った役職よ。既存の軍に組み込むと、色々と問題があるからって。例えば、大臣達が煩かったり……軍上層部が自分の立場を脅かすと思ったりとか。この役職には昇格もないし、彼らに命令することもできないから」

(なるほど……軍内部を変えることはできないが、これはこれでありだな)

「という建前で、大臣達を説得したんですね?」
「ふふ、そういうことね」
「ふえっ? どういう意味ですか?」
「つまりは……俺は誰にも命令出来ないし、昇格することもない。そのかわりに、誰の命令も聞く必要がないってことだ——任命した皇帝陛下以外には」
「……あっ! そういうことですね! 皇帝陛下直属の特殊部隊ってことですよね?」
「ええ、それで合ってるわね」

(父上……中々考えましたね。これなら、渋々ながら大臣達や将軍達も認めるだろう)

 彼らは自分たちの役職さえ脅かさなければ、それで良いというスタンスだから。

「じゃあ、これで自由に動けるってことですね! 魔物討伐なんかでも、やっぱり上下関係が邪魔することもありますし……」
「うん、それもあるよね。しかも……おそらく、本来の狙いはそれじゃない」
「へぇ? わかるのね?」

 コルンさんの目つきが変わる……。

(やっぱり、そっち側の人間だったのか。全く、全然気づかなかったなぁ……いかに、俺達が子供だったってことだな)

「これで、炙り出せってことですね? ……腐った者達を——それこそ、貴女のように」
「あら? それにも気づいたの?」
「ええ、貴女が父上の命令を受けて学校にいたということは……そもそも、直属の部下ってことですよね?」

(つまり、今の俺と変わらないってことは……)

「ええ、そうね」
「俺たちを見守るという任務に嘘はないと思いますけど……何気ない会話から、子供達の性格ももちろんのこと……その親とかも知ろうとしたのでは?」
「どうして、そう思うの?」
「だって……
「ふえっ? ……あっ——そっか、皇族の方々がいたから……先輩は学校に……でも、一番年下であるアレス様だけになっても……先輩はいました」

(そう……俺を守るだけという理由だけでは弱い)

「ふふ……合格ね。いや~昔から頭が良いとは思ってだけど……これなら、仕事仲間としてやれそうだわ」
「……それも含めての会話だった?」
「それも正解ね。私も——命をかけてるし」

 その目はいつものお調子者ではなく、威厳のある大人の姿だった。

 どうやら俺も、大人に近い者として……。

 背中を預ける者として、認められたようだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【幸せスキル】は蜜の味 ハイハイしてたらレベルアップ

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はアーリー 不慮な事故で死んでしまった僕は転生することになりました 今度は幸せになってほしいという事でチートな能力を神様から授った まさかの転生という事でチートを駆使して暮らしていきたいと思います ーーーー 間違い召喚3巻発売記念として投稿いたします アーリーは間違い召喚と同じ時期に生まれた作品です 読んでいただけると嬉しいです 23話で一時終了となります

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...