上 下
131 / 257
青年期~後編~

明かされる事実

しおりを挟む
 ……なんだ?

 真っ黒い空間で何も見えない……。

 はっ……これは、以前にも見たことがある。

「誰かいるのか?」
「………モウスグダ」

 聞き取り辛い声がするが、相変わらず姿は見えない。
 だが、以前ほど取り乱したりはしない。
 冷静に……出来るだけ情報を。

「何が、もうすぐなんだ?」
「……メザメノトキダ」
「誰が?」
「……オヌシニアズケタ」
「クロスのことか?」
「……ヤツノチカラモマシテイル」
「奴とは?」
「……メガミノナヲカタルモノ……キヲツケルガイイ……ヤツニキヅカレテハイケナイ」
「女神? 名を騙る? 気をつける? なにを?」
「我が選んだ依り代よ……時は近い、聖女と勇者を呼ぶ者たちに気をつけろ。奴らは女神を名乗るモノのしもべだ」

 そこだけはっきりと聞こえ……眩い光に包まれる!






「っ——!!」

 俺はガバッと起き上がる。

「ハァ、ハァ……」
「平気か?」
「……父上? 何故、ここに?」
「おいおい、お前を呼んだのは俺だろうに」

(そうだ……謁見の間の後に部屋に案内されて……うたた寝をしていたのか)

「すみません、少し夢見が悪かったようで……」
「ふむ……話してみるといい。今は二人だけで、外にはゼノしかおらん」
「ではお耳を……」

 父上に夢の内容を伝える。

「なるほど……以前より鮮明ということだな?」
「ええ、そうですね」
「女神を騙る……気になる言い方だな……まるで偽物とでも言うように」
「はい、そう思います」
「もうすぐという言葉……最近、魔物の出現率が高いことも関係してそうだな」
「やはり、そう思いますか」
「うむ……さらに勇者と聖女を呼ぶ者——教会か。やはり、奴らは何らかの企みがあると思って間違いないな……我が国も含めて」

(俺を狙う理由もそこにあるかもしれない。だが、俺が闇魔法を使えることは漏れていないはず……では、なんだ? 何をもって、俺やロナードを狙う?)

「そういえば、ライル兄上が父上から話を聞けと……」
「そうか、奴にも会ったか。どうだ? お前の目から見て」
「立派になったかと。傲慢さもありますが、よく言えば威厳があるとも言いますし。あとは、周りに緩和剤のような方がいれば上手くいくのでは? そうですね……優しくて人を惹きつけるような」
「なるほど、俺と同意見か。ならば安心だな」
「父上、俺は子供ですよ?」
「くく、俺には通用せんぞ?」
「参りましたね……」

(でも、この感じ……懐かしくて、楽しいなぁ)

「さて……本当ならもっと楽しい話をしたかったが……そうもいかんのだ」
「そうですね。それは、そのうち訪れるように努力しましょう」
「うむ、そうだな。結論から言うと——宰相が死んだ」
「……何ですって?」
「冗談でも何でもなく、これは紛れも無い事実だ」
「そうですか……」

(つまり、国の内政をまとめる者が死んだということか)

「おそらく、宰相は教会の者だったのだろう」
「……グロリア王国と同じですね」
「ああ、時期はこっちの方が早かったがな」
「何をして発覚したのですか?」
「……エリナやエリカを殺そうとした」
「なっ——!? 俺は聞いていませんよ!?」
「落ち着け! お前はもう会っているだろう? つまり、全員無事ということもな」
「そ、そうですけど……」

(カグラやセレナの手紙にも、一切書いてなかったし……帰った時も、誰もその話をしなかったじゃないか)

「すまんが、お前には黙るように言っておいた。だから、責めないでやってくれるか? 俺なら、いくらでも殴っていい」
「そういうことですか……まあ、そんなことはしませんけど」
「もちろん、お前に心配や負担をかけないためでもある。これには、みんなが賛成した」

(確かに、その話を聞いていたら……俺は何が何でも国に帰っていたかもしれない。無事だとわかっても尚、実際に見るまで不安は消えなかったはずだ)

「……わかりました。それで、何がどうなったのですか?」
「うむ。奴は暗殺者に加えて、ならず者まで雇っていた。そして、それをあの家に差し向けたということだ」
「なるほど……よく防げましたね? カイゼルがいるとはいえ、多勢に無勢では?」
「オルガもいないし、カグラもいなかったが……セレナがいたからな」
「セレナが?」
「ああ、凄かったらしいぞ? 師匠であり上司であるコルンと共に……」
「ま、待ってください。コルン……先生がなんで?」
「そういえば、お前は知らなかったか」

 そこで俺は、初めて知った。
 コルン先生が、俺たちの皇族のお守りをしていたこと。
 それが俺で終わり、その後本職である宮廷魔導師に戻ったこと。
 そして、セレナの師匠兼上司になっていたこと。
 父上の命令で、俺の家族を守っていたとなどを……。


「そうだったんですね……俺たちは知らないところで守られていたんですね」
「当たり前だ。お前を含めて、大事な子供達だ」
「父上……ええ、そうですね。とりあえず、理由はわかりました」
「さらには、アスナの実家が手伝ってくれた。忠誠心を示す絶好の機会だと言ってな。おかげで、暗殺者共に遅れを取らなかったということだ」
「そうですか……」

(どうやら、嘘ではなかったということか。それにしても、これからも気をつけなくてはいけないな……俺の全てをかけて守ってみせる)

「おい、アレス」

 いつのまにか、父上が俺の目の前に来て……俺の顔を軽く叩く。

「な、なにを?」
「そんな怖い顔をして思い詰めるな。言っておくが、お前は心配しすぎだ。お前がいなくとも、みんな成長しているし、俺たちとて無能ではない」
「わ、わかってますが……」
「もっと周りを頼れ。セレナもカグラも、お前に頼られたいと思って今日まで頑張ってきたはずだ。もちろん、オルガやカエラもな。話は聞いただろ?」
「……はい」

 そうだ、ここに来る前に言われた。
 俺の力になるためにと……俺は馬鹿だ。

「まあ……お前の強くなろうとする意志、守ろうとする意志は立派だ。しかし、周りもそう思っていることを忘れるな」
「はいっ!」
「うむ、良い顔だ……おっと、肝心なことを言ってなかったな」
「えっ?」
「アレス、よく無事に帰ってきた。成長したお前の姿を見れて、として嬉しく思う」

 そう言って、父上が頭を撫でてくる。

 その姿、言動は……俺の尊敬する男そのものだった。

 俺は気恥ずかしくも、大人しく撫でられるのだった……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

貴方がLv1から2に上がるまでに必要な経験値は【6億4873万5213】だと宣言されたけどレベル1の状態でも実は最強な村娘!!

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
この世界の勇者達に道案内をして欲しいと言われ素直に従う村娘のケロナ。 その道中で【戦闘レベル】なる物の存在を知った彼女は教会でレベルアップに必要な経験値量を言われて唖然とする。 ケロナがたった1レベル上昇する為に必要な経験値は...なんと億越えだったのだ!!。 それを勇者パーティの面々に鼻で笑われてしまうケロナだったが彼女はめげない!!。 そもそも今の彼女は村娘で戦う必要がないから安心だよね?。 ※1話1話が物凄く短く500文字から1000文字程度で書かせていただくつもりです。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

転生したら唯一の魔法陣継承者になりました。この不便な世界を改革します。

蒼井美紗
ファンタジー
魔物に襲われた記憶を最後に、何故か別の世界へ生まれ変わっていた主人公。この世界でも楽しく生きようと覚悟を決めたけど……何この世界、前の世界と比べ物にならないほど酷い環境なんだけど。俺って公爵家嫡男だよね……前の世界の平民より酷い生活だ。 俺の前世の知識があれば、滅亡するんじゃないかと心配になるほどのこの国を救うことが出来る。魔法陣魔法を広めれば、多くの人の命を救うことが出来る……それならやるしかない! 魔法陣魔法と前世の知識を駆使して、この国の救世主となる主人公のお話です。 ※カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

その聖女は身分を捨てた

メカ喜楽直人
ファンタジー
ある日突然、この世界各地に無数のダンジョンが出来たのは今から18年前のことだった。 その日から、この世界には魔物が溢れるようになり人々は武器を揃え戦うことを覚えた。しかし年を追うごとに魔獣の種類は増え続け武器を持っている程度では倒せなくなっていく。 そんな時、神からの掲示によりひとりの少女が探し出される。 魔獣を退ける結界を作り出せるその少女は、自国のみならず各国から請われ結界を貼り廻らせる旅にでる。 こうして少女の活躍により、世界に平和が取り戻された。 これは、平和を取り戻した後のお話である。

処理中です...