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青年期~前編~

後処理

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 ……ふぅ、短期決戦に持ち込んで正解だった。

「くっ……」

 思わず膝をついてしまう。

「危なかった……」

 見た目ほど簡単な勝利ではなかった。
 相手が俺を舐めているうちに、最大の力を発揮して短期決戦に持ち込んだ。

「早く仕留める必要があったからな」

 強力である光魔法を多用される前に、そして俺の魔力が尽きる前に。
 あの鎧と光魔法の防御を貫くには、大量の魔力を消費した。
 オリジナルで編み出した『火龍一閃』を使うほどに。
 さらには証拠隠滅のために、『クリムゾン』まで使った。

「長期戦になったら……どうなっていたか」

「ご主人様!」

「アスナ、今なら俺を仕留められるよ?」

「まったく、そんなことしませんよー。ほら、行きましょ」

「ありがとね」

 肩を借りて、ロナードの元に向かう。



「アレス殿!」

 そこには全身血まみれのロナードがいた。
 そして、無数の屍も……その中には、一般人もいる。

「お怪我は……なさそうですね」

「ああ、何とかな。そっちも……平気か?」

「アスナ、もう大丈夫だ。ありがとね」

「いえいえー」

 肩を外し、一人で立つ。

「ふぅ……少々魔力を使い過ぎましたね」

「なるほど、そういうことか。確かに、ここからでも見えるほどの炎であった。あれが、お主の本気ということか」

「ええ、今の俺ではあれが限界ですね。まだまだ精進が必要です」

「その若さであの実力……それを驕らないか」

「師匠に言われましたから。戦場では、驕った者から死んでいくと。だから、あの男は死にました。最初から本気でやっていれば、俺が負ける可能性もありましたからね」

「良い師匠のようだ。さて、問題はここからだな」

「一般人の生き残りは?」

「半分といったところか。だが、若い衆が戦って死んでしまった。これでは、ここには住めまい」

「そうですか。では、ほかの村々に?」

「そうなるな……そして、彼らには悪いが——無かったことにしてもらわねば」

「それは……そもそも、奴らは来なかったということですよね?」

 戦う前の『殺してくれ』から、そういう予想はしていた。

「ああ、お主が理解してくれて助かった。そうだ、まずは礼だった……指揮官を倒してくれたこと、感謝する」

 馬から降りて、きっちりと頭を下げてくる。

「いえ、適材適所というやつです。おそらく、俺が相手をするのが最も犠牲が少ない方法でしたから」

「そう言ってくれると助かる。末端とはいえ聖騎士だからな……」

「確か、血が濃い人がなるんですよねー?」

「そうらしいね。聖女や勇者の先祖返りや、子孫同士の掛け合わせで生まれるらしい」

「ああ、そうだ。そいつらはさまざまな光魔法を使用できる。あれの恐ろしいところは、攻撃魔法以外にある」

 そう……基本的には四属性には攻撃魔法しかなく、ゲームのような補助魔法はない。
 しかし、光と闇だけは別だ……あとは水属性の回復系もか。
 闇魔法は、俺のように暗くしたり隠れたり、相手を弱らせる魔法もある。
 光魔法は、相手を強化したり、光の盾を発動させたりできる。

「特に強化と盾は怖いですね」

「ああ、一般兵士が強くなるからな」

「それが大軍だったら……恐ろしいことになりますね」

「幸い、そこまで多用できるものではないのが救いだが……本物はできるらしい」

「聖女に勇者ですか……」

 ……いずれ、会うことがあるのだろうか?

 そして、俺は……その時、どうするのだろう?

 女神や邪神について、まだまだ知らないことが多すぎる。

 召喚される日が来るまでに、色々調べておかないと。




 その後、村人たちを近くの町に送り届ける。
 幸い空きがあり、快く受け入れてもらえた。
 もちろん、ロナードがきっちりと援助を与えると言ったことも一因だろう。

「ふむ、このまま泊まっていかないかと言われたが……」

「確かに、暗くなってきましたね」

「どうしますー?」

「一刻も早く報告に戻るべきだが……すり合わせを行うべきか」

「そうですね」

「ふふ、悪巧みですねー?」

「人聞きの悪い……これも、双方のためよ」

 ひとまず、移動をして密談を始める。





 そして一夜明けて……王都に帰還する。

 ……まあ、こうなることも想定してたけど。

 俺たちは王都の兵士たちに囲まれていた。

「ロナード様、国王陛下が御呼びでございます」

「わかった。案内を頼む」

「アレス殿もご一緒にとのことです」

「わかりました。アスナ、先に帰っててくれ」

「了解です」




 ロナードと共に、俺は城に向かい……。

 そのまま、とある部屋の中に通される。

「きたか」

「何をしていた! こっちは貴様のせいで大変だったんだぞ!?」

 見たところ、ここは国王陛下の私室か?
 しかし、国王陛下の横にいる男性は……態度からいって王太子か。

「国王陛下、遅れて申し訳ございません」

「うむ」

「俺を無視するな!」

「ライト! 黙っておれ! 他国の皇子がいるのだぞ!」
 
「くっ……はい」

「アレス殿、申し訳ない」

「いえ、お気になさらずに」

「…………」

 俺のこと、めっちゃ睨んでるけどね。
 見た目も細っこいし、神経質そうな人に見える。
 ただ初対面なのに、なんで俺は嫌われてるの?

「さあ、ロナードよ。弁明はあるか? 教会の者が殴り込んできおった。我が部隊の一部が帰還しないとな」

「はて? なんのことでしょうね。そもそも、他国である我が領地にいることがおかしいのでは?」

「うむ、やはりその方向で行くか。アレス殿?」

「私はただ野盗を退治しただけです。まさか、誇り高き教会の騎士が、了承もなしに国境を越えるわけがないかと」

「な、な、な……」

「ライト、お主に足りぬのはこれだ。お主は奴らの話に動揺し、隙を見せた。あそこは知らぬ存ぜぬで通すか、アレス殿のように言い回しをするべきだった」

「ぐぅ……!」

 歯をくいしばって睨みつけてくる。

「もしや、すでに何か対価を?」

「余が体調を崩していてな……その時に、ライトが対応した」

「兄上、何を言ったので?」

「お、俺は何も言ってない! ただ、帰ってきたら詳細を確認すると……」

「それでしたら問題ないですかね。それは必要なことだと思いますし」

「うむ、それも一理ある。わかった、あとはこちらでやっておくとしよう」

「お手数をおかけします」

「よろしくお願いします」

「……チッ」




 一礼をして、その部屋から退出する。

 そして、王城の手前で立ち止まる。

「すまぬな、色々と」

「いえ、俺は俺の意思でやりましたから。もし貴方が俺の立場でも、同じことをしたでしょ?」

「ああ、友を助けるのは当然だ」

「なら、言いっこなしですね」

「だが、借りができた。お主が窮地の際には助けると約束しよう」

「そんな日が来ないと良いですけど」

「ハハッ! それもそうだな!」

「ところで、俺って嫌われてます?」

「すまぬな、俺と仲がいいからだな」

「あっ、そういうことですか。でも、それは別の話だと思いますけど」

「耳が痛いな……そう、それがアレスに悪い態度を取っていい理由にはならないのだが。兄上は感情的になる癖があるし、甘言にも弱い」

「ふむ……そうですか」

「おっと、こんなところで話す内容ではないな。では、またな」

「ええ。では、また後日」




 迎えに来たアスナと共に、街を歩く。

「どうでした?」

 小声でアスナが問いかけてくる。

「まあ、概ね平気かな」

「では、しらを切る感じですか?」

「ああ、そういう方向でまとまったよ」

「でも、これで力関係がわかってしまいましたねー」

 そう……本来なら、こちらから攻め立てても良い案件だ。
 無断で国境を越え、罪もなき人々を殺したのだから。
 だが、それを言ってしまうと……問題があるほどに教会の力が強力なのだろう。

「ああ、そうだな。しかし、他人事ではない。我が国にでも、そういったことは起きているのかもしれない」

 俺が知らないだけで、似たようなことは起きているのかも。
 帰ったら、父上に確認した方が良いな。

「このあとはどうするんですかー?」

 「うーん、特にはないかな。今から図書館行っても遅いし」

「じゃあ、買い物しません? それで、カグラさんとかに送るといいですよー」

「おっ、なるほど。確かに、そういったことはしてないな」

 調べ物や、鍛錬、弟子の指導などで忙しかったし。

「じゃあ、いきましょー!」

「おい! 引っ張るなって!」

 ……それにしても、アレが王太子か。

 ロナードも苦労してそうだなぁ。

 俺はヘイゼル兄上は兎も角、ライル兄上とは和解?出来た。

 ロナードたちも、いずれそうなると良いけど……。
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