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青年期~前編~

くノ一アスナ

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 気を取り直して、街を散策する。

 そして、貴族御用達の服屋に向かう。

「そういえば……この地の領主は、なにをしているんですか?」

 あの兵士達の横暴を許しているのだろうか?

「うむ……我が国は、領主はいないのだ。いるのは数年おきに変わる代官と言われる者だけだ」

「なるほど……そうなると権力も薄いですね。故に、ああいったことにすぐに対処出来ないと」

「その通りだ。以前はいたのだが……領主が反乱を起こしてな。教会と結託したのか、甘い話に乗せられたのかはわからないが」

「力を持たせすぎたと?」

「そうとも言える。教会に対抗するために、色々と工面をした結果……調子に乗ったのかも知れん。流石に昔のことなので、詳しいことはわからないがな。ただ、それ以降は力を持たせすぎないように、あとは癒着しないようにしている」

「あっちを立てれば、こちらが立たないですか」

「うむ、歯痒いがな。そのバランス能力に優れた者がいれば、話は早いが……その代だけがしっかりしててもな」

「そうですね……」

「アレス様、その辺にしときましょー? ところで、あれは何ですかね?」

 どうやら、その服屋の前に到着したらしい。
 空気を入れ替えるためか、アスナが俺の服を掴んで言った。
 こういうところは、物凄く有難いなと思う。

「あれは忍び装束なのじゃ!」

「へっ?」

「アレス様? なに面白い顔をしてるんですか?」

「おい? 仮にも主人に向かってなんて言い草だ」
 
「ハハッ! お主達もよい主従関係ではないか! やはり、それくらいのが良い」

「ロナード殿まで……しかし、忍び装束か」

 レナちゃんが指差す方向には、確かにそれらしき物が置いてある。
 黒い布に、動きやすそうな服装だ。

「へぇ……カッコいいですね。あれは、どんな人が着るんですか?」

「レナ、説明できるな?」

「はいっ! ……えっと、迷い人が着ていた物で……くノ一って呼ばれる人達が着てたみたいなのじゃ。高貴な人の護衛や、他国への諜報員として働いていたとか。そして主人と認めた者に仕えるらしいのじゃ」

「へぇー!? わたしみたいですね!」

 ……忍者とかくノ一って本当にいたのか?
 まあ、それらしき者がいたという本は見たことあるが……。

「アレは珍しいのですか?」

「ああ、魔石などでコーティングしてあるはずだ。見た目は軽装だが、防御力は高いだろう」

「なるほど……うん、そうするか」

 俺はアスナを見つめる。

「えっと……アレス様?」

 ……もう、信頼してもいいだろうか?
 この一ヶ月怪しい動きや、俺をどうにかしようと行動は起こさなかった。
 あえて隙を作ったりしたのだが……もちろん、完全にいうわけにはいかない。
 だが、少しずつ歩み寄る時なのかもしれない。

「ロナード殿、アレを購入しても良いですか?」

「うむ? ああ、もちろんだ」

「カグラさんにですかー? それとも、セレナさんに?」

「いや、お前にだ」

「へっ——わ、私ですか!?」

「ああ、これまでの働きに対する報酬と——

「あっ——えへへー、そうですか~」

 そう言って嬉しそうにしている。

「お兄様? どういうことなのじゃ?」

「ふむ……まだ正確には主従関係ではなかったということか」

「ええ、まあ……こちらにも色々とありまして」

「なるほど、お主も苦労しているな」

「アレス様、早く買いましょうよー」

「へいへい、わかりましたよ」

 ニヤニヤが止まらないアスナに引っ張られ……。
 自腹をはたいて、その黒装束を購入する。
 ……めちゃくちゃ高かったんですけど?






 その後は、特に問題が起きることなく……。

 日が暮れる前に、王都に帰還する。

「ロナード殿、ありがとうございました」

「なに、気にするな。俺とて気分転換になった。こちらこそ、すまぬ。あのような輩を見せてしまった」

「いえ。出来事自体は不愉快でしたが、知れて良かったです」

「そうか……いや、今はまだ良いか」

 意味深なセリフを残して、ロナード殿は去っていった。

 ……やはり、教会について思うところがあるのだろうな。






 その日の夜……。

「アレス様」

「ん? アスナ?」

 珍しく普通にノックをしてきたな……。
 いつもなら隠れてるか、こっそりと入ってくるのに。
 いや、あえて油断させるパターンか?

「入っても良いですかー?」

「ああ、良いよ」

 そして、入ってきた姿に驚く。

「おおっ!」

「へ、変じゃないですかね?」

「ああ! よく似合ってる!」

 思わず本音で声を荒げてしまう。
 つい日本人としての、和馬の意識が表面化してしまった。

「そ、そうですか……照れますね」

 くノ一のような黒装束は、セミロングの黒髪によく似合っているし。
 手足が長く、シュッとしたスタイルのアスナが着るとカッコいい。

「いや、ごめんね。でも、買った甲斐があったよ」

「あ、足がスースーしますけど……着て良かったですねー」

「なるほど、それを見せにきたと?」

「それもありますけど……」

 そういうと、膝をついて頭を下げた。

「アスカロン帝国第三皇子アレス殿」

 これは……なるほど、そういうことか。

「ああ、なんだ?」

「私、アスナ-ルーンは——である貴方様に忠誠を誓います」

「そうか。それは家や国は関係なく——俺個人につくという意味で良いんだな?」

「はい、そのようにお受け取りくださいませ」

「俺の手足となり、俺のために働くと誓うか? ——俺のために死ねるか?」

「っ——!! もちろんです!」

 顔を上げ、物凄く嬉しそうな顔をする。
 ……やはり、これで正解か。
 俺個人としては、そういう関係は好まないが……。
 本人が望んでることと、これからのことを考えれば……致し方ない。

「なら良い。では、アスナ——正式に、お前を俺の傍付きに命ずる」

 傍付きとは主人の手足となり、身の回りの世話や、護衛をする者である。

「は——はいっ! ありがとうございます!」

「ただし、完全に信頼したわけではない。それは、これからの働きでもって証明するがいい」

「それが道理でしょう。まだ、信頼を得てないことは理解しております」

「では、俺の信頼を得たければ……行動で証明しろ」

「御意」

「…………」

「…………」

 二人で、顔を見合わせたまま沈黙する。

「ハハッ!」

「ふふ……」

「さて、真面目くさった会話は終わりにしよう」

「そうですねー、疲れちゃいますから」

「さて、すり合わせを行おう。俺を主人と認め、忠誠を誓うと?」

「はい、そういうことですねー」

「だが、家のことなど……まだ、話してないことがあるよね?」

「それは……」

「いや、それは追々で良い。俺も、話せない内容はある。それは、これからの付き合いで判断するとしよう」

「わかりましたー。では、ひとまずはこれにて——ご主人様」

「へっ? 呼び名はそれでいくの?」

「ダメですか? 普段はメイドですし、違和感もないと思いますけど?」

 ……言われてみればそうか。
 いかんいかん、和馬の意識があると変な感じになる。
 可愛いメイドさんにご主人様……カグラにぶん殴られないと良いなぁ。

「まあ、良いや。じゃあ、改めてよろしくね」

「はーい。では、失礼しますねー」

 そう言い、アスナは部屋から出て行った。

 ……まあ、少しずつ距離は縮まってきたかな。

 戦闘能力は申し分ないし、回復魔法の腕も上がってきたし。

 身の回りの世話は完璧だし、隠密性も上がってきた。

 言い方はアレだが……これなら、役に立ちそうだ。

 ただ本当に彼女の力を発揮させるためには……。

 いずれ、闇魔法を使えることを教えるべきなのだろう。

 幸い、まだ時間はある。

 ここで過ごす日々の生活で、それらを判断していこう。
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