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青年期~前編~

新たな友

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 ……あれが、神聖騎士か。

 父上の言う通り、中々のクズだったな。

 あんなのが、我が国の中でも我が物顔で歩いているのか……。

 やはり、教会について色々と調べるべきかもしれない——多少の危険を覚悟で。



「アレス殿、申し訳ない。早速、面倒なことに巻き込んでしまった」

「いえ、俺が貴方の立場なら同じことをしたでしょう。たとえ、あとで叱られようとも」

「クク……お主ならそう言うと思った。さて、とりあえず場所を変えるか」

「お兄様、我はお腹が空いたのじゃ!」

「そうですねー、わたしもです」

「良いですね、美味しいものを食べて気分転換しましょう」

「みな、気遣いに感謝する」




 助けた親子に礼を言われ、兵士達に事情を説明した後……。

 移動して、王族御用達の個室の飲食店に入る。

 そしてひとまず食べ終えた後、先ほどのことについて話し合う。

「まずは、謝罪を。お主を利用してしまった」

「えっと?」

「俺の後についてきてくれと言ったことだ。俺一人だったら、殴りかかっていたかもしれん。そうすれば、流石に国際問題になる」

……なるほど、国賓である俺がいることで、気持ちを抑え込んだということか。

「いえ、お気になさらずに。俺も殴りたかったですし」


「ハハッ! 気があうな!  ふぅ……しかし、いよいよ勝手が過ぎるな」

「いつも、あんなですか?」

「いや、あそこまででは……瘴気が溢れていることで、奴らの出動回数も増えた。そのことが、増長を促進させているのやもしれん」

「なるほど、確かに奴らの光魔法もどきは魔物に特効効果がありますからね」

「アレス殿」

「わかってます。人前ではもどきとは言いません」

「うむ、奴らはうるさいからな。さらには、世界を救う召喚された勇者と聖女の子孫で構成されている。故に、偉そうな態度を取るのも仕方ないのかもしれんが……」

「それは、また別の話ですよ。親や先祖が偉業を成し遂げたとしても、本人が偉いわけではないですから。それにたとえ偉かろうとも、それが横暴をして良い正当な理由にはなりえません」

 前の世界でもいたが……社長の息子だから偉いとか。
 そんなわけがないというのに……あくまでも、本人は別物だ。

「……それがわかる者の、何と少ないことか」

「師匠は立派なのじゃ!」

「そうですねー、そういう人が上に立ってくれるといいんですけどねー」

「そんなに大したことじゃないよ。多分、少し考えればわかるはずなんだ。ただ、教える人がいないだけでね。本当なら、親がそういうことを教えないといけない。幸い、父……皇帝陛下は、俺にそれを教えてくれたから」

 父上が横柄な態度をとったところなど見たことがない。
 常に相手の視点に立って、物事を考えてくれる。
 だからこそ、アレスとしても和馬としても、尊敬に値すると思ったんだ。

「良き父親で羨ましい限りだ」

「でも、国王陛下も悪い方には見えませんでしたが……」

「そうですねー、きちんとアレス様のことを評価してましたし」

「うむ……国王陛下としては優秀な部類に入るだろう。きちんと家臣の声にも耳を傾ける度量もあるし、民についても考えている。ただ……子供に関してはどうだかな」

「お兄様……」

「それは……」

 流石に、俺の口からどうこう言える問題ではないな……。
 すると……ロナード殿はレナちゃんの頭に手を置く。

「いや、すまぬ。他国の者の前で言うことではないな。レナや兄上を見ていると、どうしてもな……」

「俺で良ければ、お話を聞きますが……もちろん、他言無用を約束します——アスナ」

 俺は、諜報員でもあるアスナに視線を送る。

「ええ、わかってますよー。主人である貴方が言うなら、私はそれに従うだけです」

 どうやら、わかってくれたようだ。
 まあ、概ね信用していいだろう。

「そうか……父上は正妻にも愛情がなく、妾である母上を愛してしまっている。故に、兄上とレナは愛情を注いでもらっておらん。そして妾の子である俺を可愛がってしまっている。そのせいで兄上は俺を嫌っているし、もちろんその母も嫌っている。もう、俺の母上はいないというのにだ」

「わたしはお兄様が可愛がってくれるからいいの!」

「クク、そうか」

 ……そっか、道理で既視感があると思った。
   レナちゃんとロナード殿は、俺とヒルダ姉さんの関係に近いのか。
 だから親近感を覚えるし、放って置けないと思うのかも。

「なるほど……ちなみに、お聞き辛いのですが……」

「うむ、そうであろうな。母上は若くして亡くなったが、それは暗殺の類ではないことは断言できる。もしそうであれば、俺は冷静ではいられない」

「大変失礼いたしました」

「いや、構わぬ。お主の事情を考えれば無理もない。そうか……お主には悪いが、俺はまだマシということか」

「まあ、俺の母は暗殺されそうでしたからね。でも、俺の母は生きてますから。亡くなってる貴方の方が辛いはずです」

「そうか……感謝する。しかし、お互いに父親には苦労させられるな?」

「まあ……父上は尊敬に値する方ですが、否定はできませんね。うちも、母上を愛した故に色々とありましたからね」

 父上が、もう少しゲルマに寄り添っていたら……。
 そうすれば、最初から皆で仲良く出来たかもしれないが……。
 まあ、ターレスがいる限りはそうはならなかったか。
 何より、過去は変えられない。
 できることは、より良い方向に向かって進んでいくことだけだ。

「うむ、完璧な人間などおらんとわかってはいるが……歯がゆいものだ」

「まあ、そんな奴は逆に信用できないですけどね」

「ハハッ! お主のいう通りだな! 多少人間くさい方が良いのかもしれん」

「ええ、周りが支えたいと思われるのも器でしょうから」

「うむ、それも一つの形であるな」

「むぅ……難しい話なのじゃ!」

 なるほど、静かだと思ったらそういうことか。
 まあ、六歳には難しいよなぁ。

「クク、お前にもいずれわかる時が来る。それにしても……お主と話すのは楽しい」

「ええ、俺もです」

 きっと、考え方や境遇が似ているからだろう。
 歳はあちらが上だが、対等に話をしてくれるし。

「なら良い。これからもよろしくお願いしたいものだ」

「わ!我もなのじゃ! 師匠!」

「ああ、もちろんだ」

 最初はどうなるかと思ったけど……この国に来てよかった。

 出来事自体は不快だが、初めて教会の騎士と会うことが出来たし。

 それに、可愛い弟子はできるし、良き友にも出会えた。

 もし彼らが困っていたなら、助けたいと思うくらいに。










 その機会がいずれ訪れることを、この時の俺は知る由もない。
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