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青年期~前編~

力を証明する

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 馬車に乗り、ロナード殿に疑問をぶつける。

「レナ王女は、連れて行かなくて良いのですか?」

「うむ……扱いが難しくてな。軽々しく王城へは入れないのだよ」

「それは、女性だからということですか?」

「それもある。王女が政治に興味を持っては困るからな。ただ、父上が問題でな」

「そうですか……」

「まあ、よくある話だ。父上は政略結婚の正妻の子よりも、妾である俺の母上を愛してしまった。正妻に似たレナを嫌いではないが、どう扱って良いのかわからないのだろう。どうしても、政治の道具としてみてしまうしな」

「……そんなことまで話しても?」

「なに、お主なら少しは理解出来ると思ってな。確か、似たような情報があったが?」

 俺の父上が、母上を愛しているようにか。
 ただ、父上と違うのは……父上は、子と母親は別と考えていることだ。
 故に俺も、ヒルダ姉さんと母親は別と考えることができたのだから。

「確かにそうですが……いえ」

 流石に他国の国王を批判するわけにはいくまい。

「気にするな、俺とてそう思う。我が父上ながら、なんと器の小さいことか」

「……それがあるから、レナ王女を?」

「うむ、それがないとは言えん。ただ、単純に妹とは可愛いものだ……そうではないか?」

「ええ、その通りですね」

「生意気であろうとそうでなかろうと……俺は、レナが伸び伸び生きられるようにするつもりだ——たとえ、短い間だとしても」

「ご立派ですね……それに比べて俺は……」

 結衣やエリカに、なにをしてやれただろうか?
 かたや目の前で死んで、エリカとはこうして離れ離れになってしまった。







 馬車は進んでいき……。

「到着したようだな。では、ついてきてくれ」

「ええ、案内をお願いします」

 アスナは黙って、俺の後をついて来る。

 城の門をくぐって、検査を受けることなく進んでいく。

「お疲れ様です!」

「ロナード様! どうぞお入りください!」

「うむ、皆もご苦労」

 ……どうやら、ロナード殿は兵士達に好かれてるようだな。
 それが、兵士達の態度や顔に如実に表れている。



 中に入ると……。

「お待ちしておりました」

「ゼスト、出迎えご苦労。アレス殿、我が国の近衛騎士団長ゼストだ」

「お初目にかかります、アレス様。ご紹介頂いた通り、私が近衛騎士団長のゼストと申します」

「ゼスト殿、初めまして。アレス-アスカロンと申します」

「ご丁寧にありがとうございます。それでは、私についてきてください」

 視線を感じつつも、大人しく後をついていく。

「あれが……」

「随分と噂と……」

「いや、しかし……」

「だが、ロナード様がお認めになったと……」

「すまぬな、アレス殿」

「いえ、お気になさらずに。誰だって気になるでしょうから」

「感謝する」

 そして、そのまま見覚えのある場所に着く。

「謁見の間か……」

 どうやら、公式の挨拶ということか。
 プライベートの話ができるかどうか……。

「では、このままお進みください。付き添いの方は、私とここで待機でお願いします」

「アスナ、武器を頼むね」

「はい、畏まりました」

「何か、特殊な作法はありますか?」

「いや、気にすることはない。お主は国賓扱いだし、皇子であるからな。目線を下げることも必要ない。普通の礼儀さえあれば問題ない」

「わかりました。では、お願いします」

 武器を預けて、ロナード殿についていく。

 赤い絨毯の上を、背筋を伸ばして進んでいく。

 視線はやや上を、一点を見つめ、礼儀を損なうことなく堂々と。

 俺の行動次第では、我が国そのものが舐められてしまう。

 たった今、この国の重鎮達が俺に視線を注いでいるのだから。

「国王陛下、アレス殿をお連れしました」

「うむ、ご苦労。アレス殿、遠路はるばるご苦労であった。そして、挨拶が遅れたことを申し訳なく思う」

 ……これが、ライト-グロリアか。
 金髪碧眼の英国風な風貌をしているな。
 割と、スマートな体型をしている。

「いえ、お気になさらないでください。ロナード殿をはじめとした方々に、よくして頂いております」

「うむ、ならば良い。急遽予定変更があって、時間が取れたのでな。我が国は、どうであるかな?」

「そうですね……我が国と違い、草原が広がっていたのは驚きましたが……それがかえって自然というか、気持ちの良い風や、良い景色を楽しめるので良いと思いました。そして街の中は様々な建物があり、それもまた違うのだなと感心いたしました」

「うむ、良きかな。何か、困ったことはあるか? 要望があれば聞こう」

 ……よし、表情が柔らかくなった。
 どうやら、掴みはオッケーだったようだ。

「そうですね……私は剣士であり、魔法使いなのです。剣の稽古の相手もそうですが、魔法の鍛錬もしたいと思っております」

 視線をちらりと向け、様子を伺う。

「うむ、しかし我が国には魔法を使いこなせる人材が少ない。まあ、とりあえず続けよ」

「はい、ありがとうございます。私の魔法は、もう教わることはほとんどありません。これは傲慢でもなく、単なる事実として。故に、これを向上させるには……教える側に回ることです」

「なるほど……レナを指導したいと?」

「はい、才能もありますので」

「国王陛下、発言をよろしいですか?」

「ロナードか……許可する」

「ありがとうございます。この男は、妹を預けるに相応しい男かと」

「お主が言うほどの男か……わかった、許可しよう」

「「ありがとうございます」」

「よい。だが、条件がある」

「何でしょうか?」

「実際の魔法を見せてはくれまいか?」

「なるほど、道理ですね。では、どちらで?」

「では、場所を移すとしよう」





 その後移動して、訓練所に到着する。

 俺を取り囲むように、みんなが興味深々で眺めている。

「では、私は火属性の魔法を扱います。水属性の方がいれば、膜を作ってください」

「うむ」

 国王の返事により、魔法使い達が俺を囲む。

「まずは……フッ!」

 全身に燃え盛る炎を纏う。

「くっ……!」

「な、何という熱だ……!」

 魔法使い達が水の膜を強化して、温度を下げようとする。

「うむ……我が国の宮廷魔道士長メイガン、どう思う?」

「……恐ろしいほどの魔力制御ですね。見てください、彼の衣服を」

「……燃えていないか?」

「ええ、おそらく魔力の膜を張った上から炎を纏っているのでしょう。火属性とは、その威力から制御が難しいとされています。それを、ここまで制御出来るとは……」

 ……ほっ、良かった。
 それをわかってくれる方がいたか。

「ありがとうございます。では、水属性の方々、そのまま魔法を当ててみてください」

「うむ、許可する」

「「「「ウオーターボール!」」」」

 四方向から魔法が飛んでくるが……その全てをかき消す。

「何と……密度も高い。完全に、水の威力を消しています」

「ふむ……他には何かあるだろうか?」

「では——舞い踊る炎蛇ファイアースネーク

 炎の蛇を自由自在に操る。

「おおっ!?」

「こ、これは……!」

「メイガン、どうだ?」

「魔力密度、それを制御する力共に文句の付け所がありません」

「そういうタイプの魔法使いということか?」

 ……もっと、わかりやすい方がいいか。

「いえ、他にもございます。では、壊していい物はありますか?」

 メイガンさんという壮年の男性が、指差す方を見ると……。
 そこには、いくつかのゴーレムが鎮座していた。

「では、あれに向かってお願いします」

「わかりました——灼熱の光インフェルノレイ

 セレナとの特訓により、制御された上級魔法が発動する。
 詠唱速度も上がり、正確性も増したはずだ。
 空中に、火の玉がいくつか出現する。
 そして、それらが降り注ぎ——ゴーレム全てを粉砕した。

「な、何と……上級魔法を……しかも、制御している」

「ふむ、申し分ない威力だな。まったく、どこが出来損ないだというのだ。とんだ麒麟児ではないか」

「ええ、その通りですな」

「ありがとうございます……それでは?」

「うむ、もちろん許可する。良いものを見せてもらった。ワガママな娘だが、よろしく頼む」

 そう言ってばつが悪そうな表情を見せる。

 ……そっか、別に嫌ってるわけではなさそうだ。

 国王とて人だ……複雑な思いがあるに違いない。
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