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青年期~前編~

闘技場にて

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 馬車を降りてみると……。

「おおっ……こっからでも聞こえるね」

「すごいですねー、盛り上がってます」

 歓声や拍手の音が、外からでも聞こえる。
 建物はコロッセオに近い形になっていて、上が空洞なのも理由だろう。

「我が国自慢の見世物の一つだからな。では、ついてまいれ」

 護衛も付けずに先頭を行くロナード殿の後をついていく。




 その入り口では……。

「はいよ! 次の勝負はこれだ!」

「俺は三番に賭けるぞ!」

「俺は五番だ!」

 ガタイの良いおじさんが、お立ち台の上に立って掲示板を指差している。
 その掲示板には番号と名前が書いてある。

「なるほど、九人でトーナメント方式ですか?」

 一人がシードって形のタイプだな。

「ああ、そういうことだ。今日の出場者の中で、優勝する者を予想する」

 つまり、合法カジノということか。

「戦う者の場所と、娯楽を提供といったところですかね?」

「ほう? 娯楽はともかく……よくわかったな」

 まあ、前の世界の知識があるからね。
 特に誇るようなものでもない。

「こちら側は、女神の結界と接している部分が少ないと聞きましたから。後、作物などが育ちにくいと」

「ああ、そういうことだ。戦いを生業とするものは、戦う場がなければ息苦しさを覚える。かといって、争いを起こされでも困る。また貧困に喘いだ者が、盗賊になったりするよりはマシだ。最後に……犯罪者などの使い道にもなる」

 ……なるほど、それもあるか。
 犯罪者を牢屋に入れたり、世話をしたりするのもタダではない。
 それを有効活用して、自分で稼がせるってことか。

「維持費もバカになりませんからね」

「うむ……楽しいな」

「へっ?」

「打てば響くような会話は心地が良いものだ。どうも、一から十まで説明をしなくては理解しない者が増えてきたからな」

「読解力の低下ですね……あと、考えることの放棄」

 この世界がおかしいことだって、もっと気づいてもいいと思うのに。

「その通りだ。俺も人の事は言えないがな」

 会話をしつつ、中へと入っていく。

「ウォォォ——!」

「やれぇぇー!」

「こっちは明日の飯代がかかってんだぞー!」

 観客席から野次が聞こえる。

「へぇ……随分と距離が近いですね」

 観客と選手の距離感は、テニスの試合に近い。
 4本の柱に囲まれたリングの上で、選手達が一対一の戦いを繰り広げている。
 それを囲う形で、観客が見ているということだ。

「やはり、近い方が迫力があるからな」

「あの柱ってうちと同じやつですよねー?」

「ああ、卒業試験の試合の時に使ったものと同じだろうね」

 四つの柱の間にバリアが張られている。
 さらには観客席側にも設置してあるので、安全を確保することも出来ている。



 ひとまず、その試合を見終わると……。

「さて、とりあえずこんなところか。今日は主要箇所を案内するとしよう」

 踵を返して、元来た道を歩いて行く。

 会場を抜けて通路に入ると……。

「ウォォォ—! キタキタキター!」

「優勝候補筆頭! シード選手の登場だ!」

「数年前に彗星のように現れた男!」

「その剣は全てをなぎ払い、相手の心も体も粉砕する!」

「元盗賊——ゼスト選手だァァァ!」

 ……すごい盛り上がっているな。

「む? 次は奴の番だったか。気になるか? なんなら戻るが……」

「いえ、それは結構です。ただ、随分と人気だなぁって」

 元盗賊団っていう割には、好意的な会話だったし。
 それとも、強ければ関係ないのか?

「少し特殊な奴でな。盗賊団といっても、人を襲ったりしたわけではないのだ。まだ見ぬ真実を求めていると言っていたな」

「えっと……?」

「我が国にある遺跡や、王族以外に入れない書庫への侵入をしていてな」

「なるほど、そういう意味ですか」

「本当なら、即処刑なのだが……その話を聞いた俺は、そいつに興味を持ってな。ちょうど、ロイドとそういう話をし始めた時だったからな」

「その人も、この世界がおかしいと思っていると?」

「そういうことだ。あちこちの遺跡や国を巡って思ったらしい。面白いと思ったので、俺が国王陛下に掛け合い剣闘士として働かせることにした。見た目は良いし、何より強いからな。見世物にした方が利益になると……結果的に、今ではナンバーワンの座についている」

「へぇ……どこの国の人なんですか?」

「それは頑なに言わないようだ。まあ、この国ではないだろうな。気になるなら、今度会わせてみるが?」

「ええ、機会があればお願いします」




 そんな会話をしつつ、再び馬車に乗る。

 そして洋服屋さんや、武器防具屋、有名な飲食店などを巡っていると……。

「あっ、いました」

「いたのじゃ!」

 エミリアさんと、レナちゃんがこちらに向かってくる。

「レナ、どうした?」

「父上から遣いがあったのじゃ! 今から来てもらえるかと」

「なるほど、よく知らせてくれた。アレス殿、このまま向かってもいいか?」

「ええ、もちろんです。さっき食事も摂りましたしね」

「私も付いて行って良いんですかー?」

「もちろんだ。他国の皇子を一人には出来ん。ただし、俺に対するような……」

「わかっております。アレス様の顔に泥を塗るような真似はいたしません」

 さっきまでのゆるい感じが鳴りを潜め、ピシッとした言葉遣いになる。

「ふっ、流石だな。いい部下を持っている。力を抜くところと、力を入れるべき箇所をわかっている」

「お褒めにあずかり光栄でございます」

「早く行った方がいいですよ?」

「おい? エミリアも見習ったらどうだ?」

「はーい」

「ハァー……まあ、お前に言っても無駄か」

「アレス殿! 我はいけないが……その」

「そっか、じゃあ一応聞いてみるね」

「覚えてて……ありがとぅ」

 二人と別れ、そのまま三人で王城へと向かう。




 ……俺は、後になってこの日のことを後悔することになる。
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