101 / 257
青年期~前編~
闘技場にて
しおりを挟む
馬車を降りてみると……。
「おおっ……こっからでも聞こえるね」
「すごいですねー、盛り上がってます」
歓声や拍手の音が、外からでも聞こえる。
建物はコロッセオに近い形になっていて、上が空洞なのも理由だろう。
「我が国自慢の見世物の一つだからな。では、ついてまいれ」
護衛も付けずに先頭を行くロナード殿の後をついていく。
その入り口では……。
「はいよ! 次の勝負はこれだ!」
「俺は三番に賭けるぞ!」
「俺は五番だ!」
ガタイの良いおじさんが、お立ち台の上に立って掲示板を指差している。
その掲示板には番号と名前が書いてある。
「なるほど、九人でトーナメント方式ですか?」
一人がシードって形のタイプだな。
「ああ、そういうことだ。今日の出場者の中で、優勝する者を予想する」
つまり、合法カジノということか。
「戦う者の場所と、娯楽を提供といったところですかね?」
「ほう? 娯楽はともかく……よくわかったな」
まあ、前の世界の知識があるからね。
特に誇るようなものでもない。
「こちら側は、女神の結界と接している部分が少ないと聞きましたから。後、作物などが育ちにくいと」
「ああ、そういうことだ。戦いを生業とするものは、戦う場がなければ息苦しさを覚える。かといって、争いを起こされでも困る。また貧困に喘いだ者が、盗賊になったりするよりはマシだ。最後に……犯罪者などの使い道にもなる」
……なるほど、それもあるか。
犯罪者を牢屋に入れたり、世話をしたりするのもタダではない。
それを有効活用して、自分で稼がせるってことか。
「維持費もバカになりませんからね」
「うむ……楽しいな」
「へっ?」
「打てば響くような会話は心地が良いものだ。どうも、一から十まで説明をしなくては理解しない者が増えてきたからな」
「読解力の低下ですね……あと、考えることの放棄」
この世界がおかしいことだって、もっと気づいてもいいと思うのに。
「その通りだ。俺も人の事は言えないがな」
会話をしつつ、中へと入っていく。
「ウォォォ——!」
「やれぇぇー!」
「こっちは明日の飯代がかかってんだぞー!」
観客席から野次が聞こえる。
「へぇ……随分と距離が近いですね」
観客と選手の距離感は、テニスの試合に近い。
4本の柱に囲まれたリングの上で、選手達が一対一の戦いを繰り広げている。
それを囲う形で、観客が見ているということだ。
「やはり、近い方が迫力があるからな」
「あの柱ってうちと同じやつですよねー?」
「ああ、卒業試験の試合の時に使ったものと同じだろうね」
四つの柱の間にバリアが張られている。
さらには観客席側にも設置してあるので、安全を確保することも出来ている。
ひとまず、その試合を見終わると……。
「さて、とりあえずこんなところか。今日は主要箇所を案内するとしよう」
踵を返して、元来た道を歩いて行く。
会場を抜けて通路に入ると……。
「ウォォォ—! キタキタキター!」
「優勝候補筆頭! シード選手の登場だ!」
「数年前に彗星のように現れた男!」
「その剣は全てをなぎ払い、相手の心も体も粉砕する!」
「元盗賊——ゼスト選手だァァァ!」
……すごい盛り上がっているな。
「む? 次は奴の番だったか。気になるか? なんなら戻るが……」
「いえ、それは結構です。ただ、随分と人気だなぁって」
元盗賊団っていう割には、好意的な会話だったし。
それとも、強ければ関係ないのか?
「少し特殊な奴でな。盗賊団といっても、人を襲ったりしたわけではないのだ。まだ見ぬ真実を求めていると言っていたな」
「えっと……?」
「我が国にある遺跡や、王族以外に入れない書庫への侵入をしていてな」
「なるほど、そういう意味ですか」
「本当なら、即処刑なのだが……その話を聞いた俺は、そいつに興味を持ってな。ちょうど、ロイドとそういう話をし始めた時だったからな」
「その人も、この世界がおかしいと思っていると?」
「そういうことだ。あちこちの遺跡や国を巡って思ったらしい。面白いと思ったので、俺が国王陛下に掛け合い剣闘士として働かせることにした。見た目は良いし、何より強いからな。見世物にした方が利益になると……結果的に、今ではナンバーワンの座についている」
「へぇ……どこの国の人なんですか?」
「それは頑なに言わないようだ。まあ、この国ではないだろうな。気になるなら、今度会わせてみるが?」
「ええ、機会があればお願いします」
そんな会話をしつつ、再び馬車に乗る。
そして洋服屋さんや、武器防具屋、有名な飲食店などを巡っていると……。
「あっ、いました」
「いたのじゃ!」
エミリアさんと、レナちゃんがこちらに向かってくる。
「レナ、どうした?」
「父上から遣いがあったのじゃ! 今から来てもらえるかと」
「なるほど、よく知らせてくれた。アレス殿、このまま向かってもいいか?」
「ええ、もちろんです。さっき食事も摂りましたしね」
「私も付いて行って良いんですかー?」
「もちろんだ。他国の皇子を一人には出来ん。ただし、俺に対するような……」
「わかっております。アレス様の顔に泥を塗るような真似はいたしません」
さっきまでのゆるい感じが鳴りを潜め、ピシッとした言葉遣いになる。
「ふっ、流石だな。いい部下を持っている。力を抜くところと、力を入れるべき箇所をわかっている」
「お褒めにあずかり光栄でございます」
「早く行った方がいいですよ?」
「おい? エミリアも見習ったらどうだ?」
「はーい」
「ハァー……まあ、お前に言っても無駄か」
「アレス殿! 我はいけないが……その」
「そっか、じゃあ一応聞いてみるね」
「覚えてて……ありがとぅ」
二人と別れ、そのまま三人で王城へと向かう。
……俺は、後になってこの日のことを後悔することになる。
「おおっ……こっからでも聞こえるね」
「すごいですねー、盛り上がってます」
歓声や拍手の音が、外からでも聞こえる。
建物はコロッセオに近い形になっていて、上が空洞なのも理由だろう。
「我が国自慢の見世物の一つだからな。では、ついてまいれ」
護衛も付けずに先頭を行くロナード殿の後をついていく。
その入り口では……。
「はいよ! 次の勝負はこれだ!」
「俺は三番に賭けるぞ!」
「俺は五番だ!」
ガタイの良いおじさんが、お立ち台の上に立って掲示板を指差している。
その掲示板には番号と名前が書いてある。
「なるほど、九人でトーナメント方式ですか?」
一人がシードって形のタイプだな。
「ああ、そういうことだ。今日の出場者の中で、優勝する者を予想する」
つまり、合法カジノということか。
「戦う者の場所と、娯楽を提供といったところですかね?」
「ほう? 娯楽はともかく……よくわかったな」
まあ、前の世界の知識があるからね。
特に誇るようなものでもない。
「こちら側は、女神の結界と接している部分が少ないと聞きましたから。後、作物などが育ちにくいと」
「ああ、そういうことだ。戦いを生業とするものは、戦う場がなければ息苦しさを覚える。かといって、争いを起こされでも困る。また貧困に喘いだ者が、盗賊になったりするよりはマシだ。最後に……犯罪者などの使い道にもなる」
……なるほど、それもあるか。
犯罪者を牢屋に入れたり、世話をしたりするのもタダではない。
それを有効活用して、自分で稼がせるってことか。
「維持費もバカになりませんからね」
「うむ……楽しいな」
「へっ?」
「打てば響くような会話は心地が良いものだ。どうも、一から十まで説明をしなくては理解しない者が増えてきたからな」
「読解力の低下ですね……あと、考えることの放棄」
この世界がおかしいことだって、もっと気づいてもいいと思うのに。
「その通りだ。俺も人の事は言えないがな」
会話をしつつ、中へと入っていく。
「ウォォォ——!」
「やれぇぇー!」
「こっちは明日の飯代がかかってんだぞー!」
観客席から野次が聞こえる。
「へぇ……随分と距離が近いですね」
観客と選手の距離感は、テニスの試合に近い。
4本の柱に囲まれたリングの上で、選手達が一対一の戦いを繰り広げている。
それを囲う形で、観客が見ているということだ。
「やはり、近い方が迫力があるからな」
「あの柱ってうちと同じやつですよねー?」
「ああ、卒業試験の試合の時に使ったものと同じだろうね」
四つの柱の間にバリアが張られている。
さらには観客席側にも設置してあるので、安全を確保することも出来ている。
ひとまず、その試合を見終わると……。
「さて、とりあえずこんなところか。今日は主要箇所を案内するとしよう」
踵を返して、元来た道を歩いて行く。
会場を抜けて通路に入ると……。
「ウォォォ—! キタキタキター!」
「優勝候補筆頭! シード選手の登場だ!」
「数年前に彗星のように現れた男!」
「その剣は全てをなぎ払い、相手の心も体も粉砕する!」
「元盗賊——ゼスト選手だァァァ!」
……すごい盛り上がっているな。
「む? 次は奴の番だったか。気になるか? なんなら戻るが……」
「いえ、それは結構です。ただ、随分と人気だなぁって」
元盗賊団っていう割には、好意的な会話だったし。
それとも、強ければ関係ないのか?
「少し特殊な奴でな。盗賊団といっても、人を襲ったりしたわけではないのだ。まだ見ぬ真実を求めていると言っていたな」
「えっと……?」
「我が国にある遺跡や、王族以外に入れない書庫への侵入をしていてな」
「なるほど、そういう意味ですか」
「本当なら、即処刑なのだが……その話を聞いた俺は、そいつに興味を持ってな。ちょうど、ロイドとそういう話をし始めた時だったからな」
「その人も、この世界がおかしいと思っていると?」
「そういうことだ。あちこちの遺跡や国を巡って思ったらしい。面白いと思ったので、俺が国王陛下に掛け合い剣闘士として働かせることにした。見た目は良いし、何より強いからな。見世物にした方が利益になると……結果的に、今ではナンバーワンの座についている」
「へぇ……どこの国の人なんですか?」
「それは頑なに言わないようだ。まあ、この国ではないだろうな。気になるなら、今度会わせてみるが?」
「ええ、機会があればお願いします」
そんな会話をしつつ、再び馬車に乗る。
そして洋服屋さんや、武器防具屋、有名な飲食店などを巡っていると……。
「あっ、いました」
「いたのじゃ!」
エミリアさんと、レナちゃんがこちらに向かってくる。
「レナ、どうした?」
「父上から遣いがあったのじゃ! 今から来てもらえるかと」
「なるほど、よく知らせてくれた。アレス殿、このまま向かってもいいか?」
「ええ、もちろんです。さっき食事も摂りましたしね」
「私も付いて行って良いんですかー?」
「もちろんだ。他国の皇子を一人には出来ん。ただし、俺に対するような……」
「わかっております。アレス様の顔に泥を塗るような真似はいたしません」
さっきまでのゆるい感じが鳴りを潜め、ピシッとした言葉遣いになる。
「ふっ、流石だな。いい部下を持っている。力を抜くところと、力を入れるべき箇所をわかっている」
「お褒めにあずかり光栄でございます」
「早く行った方がいいですよ?」
「おい? エミリアも見習ったらどうだ?」
「はーい」
「ハァー……まあ、お前に言っても無駄か」
「アレス殿! 我はいけないが……その」
「そっか、じゃあ一応聞いてみるね」
「覚えてて……ありがとぅ」
二人と別れ、そのまま三人で王城へと向かう。
……俺は、後になってこの日のことを後悔することになる。
32
お気に入りに追加
2,767
あなたにおすすめの小説
外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~
海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。
地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。
俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
【完結】僕は今、異世界の無人島で生活しています。
コル
ファンタジー
大学生の藤代 良太。
彼は大学に行こうと家から出た瞬間、謎の光に包まれ、女神が居る場所へと転移していた。
そして、その女神から異世界を救ってほしいと頼まれる。
異世界物が好きな良太は二つ返事で承諾し、異世界へと転送された。
ところが、女神に転送された場所はなんと異世界の無人島だった。
その事実に絶望した良太だったが、異世界の無人島を生き抜く為に日ごろからネットで見ているサバイバル系の動画の内容を思い出しながら生活を開始する。
果たして良太は、この異世界の無人島を無事に過ごし脱出する事が出来るのか!?
※この作品は「小説家になろう」さん、「カクヨム」さん、「ノベルアップ+」さん、「ノベリズム」さんとのマルチ投稿です。
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる