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青年期~前編~

新しい日常的

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 その日の夜……。

 風呂から帰ってきた俺は、違和感を感じて声を出す。

「アスナ、出てこい」

「あれれ~……完全に気配は消したのに」

 カーテンの裏から、スッとアスナが出てくる。

「ふっ、まだまだだね。カイゼルがいうには、気配がなさすぎるのも考えものだってさ」

「えっと……?」

「空気が張り詰めていたり、周りの音が聞こえすぎないと違和感を感じるということだ」

「なるほど……暗殺者を退けてきたカイゼル殿の言葉では、無視できないですねー」

「ああ、俺も何となくわかってきたけどね。その違和感ってやつが大事だ。つまり、自然体が一番良いのかもしれない。景色に溶け込むとか、一体化するイメージとか」

「そういえば、父上も似たようなことを言ってましたねー。むぅ……癪ですけどね」

 ……どうやら、父親とは何かあるようだな。

「ところで、何か用だったかな?」

 アスナはススっと近づいて、耳元で囁く。

「特に見張られてる様子はありません。建物の配置や、部屋からいっても襲撃には向きません」

 なるほど、売り込みに来たということか。

「うん、同意見だ。少なくとも、天井裏で見張っているようなことはなさそうだ」

「そうですねー……というか、アレス様が諜報員になった方が良くないですか?」

「まあ、多分だけど……一流になれる自信はある」

 闇魔法を駆使すれば、色々と出来るだろうし。
 何たって、姿を消すことも出来るわけだし。

「むぅ……困りましたねー。どうやって売り込めば……やっぱり、身体で……」

 そう言いながら、腕を組んである部分を強調する。

「やめなさい。俺はカグラに殺されたくない。そもそも、君だって外見の身体は大人かもしれないけど、その中身までは大人じゃない」

「うーん、据え膳食わないタイプですか……というか、そこは悲しませないじゃないんですか?」

「あっ——ま、まあ、それもある」

 いかんいかん、つい吹っ飛ばされるイメージが。

「ふふ、でも平気ですよー。最後には和解しましたから」

「ん? そうなのか?」

「ええ、二人で話をしまして。内容は内緒ですけどねー」

 ……ふむ、嘘を言っている様子はないと。

「そっか、まあ仲良くなったなら良い。それと、これから俺に襲撃をする許可を与える」

「へっ?」

 いつか見たようなマヌケな表情を見せる。
 なんか、クセになりそうだ。

「カイゼルがいない今、俺は自分の身は自分で守る必要がある。さらには鍛錬もしていかないといけない。なので鈍るのを防ぐために、アスナが襲撃者役をしてくれ。緊急事態以外だったら、いつでも良い」

「ま、まさか、自ら襲撃しろなんて言ってくるなんて……ふふ、面白い方ですねー。でも——怪我させても知りませんよ?」

「できるならやってみると良い」

「かっちーん、その喧嘩買いますよー」

 無意識なのか、ふくれっ面になっている。
 なんだ、子供らしいところもあるじゃないか。

「ああ、良いよ。それに、アスナの鍛錬にもなるだろう? あと、アスナには期待してるか
 ら」

「そ、そうですね! ではではー!」

 そう言い、そそくさと退散した。
 うむ、中々に照れ屋さんのようだな。





 翌朝目が覚めた俺は、許可を得て庭に出る。

「一! 二! 三!」

 木刀の先端に濡れたタオルを巻いて、それで素振りをする。
 これは、中学生時に剣道部で良くやっていた鍛錬方法だ。
 ピタッと止めることを意識して、剣を自由自在に操れるようにする鍛錬だ。
 さらには手首の強化や筋肉をつけたり、一撃一撃の正確さなんかも上達する。

「四! 五! 六! 」

 あんまり若いうちから鍛えすぎるのは良くなかったけど……。
 成長期を迎えてきたから、こういうことも少しずつやっていかないと。
 前の世界で言えば、中学生な訳だし問題ないだろう。

「……三十! ふぅ……こんなものか」

 少し休憩を入れ、それを3セット繰り返す。

 すると……良く知る気配が近づいてくる。

「お、おはようございます!」

「ダインさん、おはよう」

「申し訳ありません! 主人より後に起きるなんて……」

「気にしないで良いですよ。ダインさんだってお疲れでしょうから。それに、ロナード殿が来るまでは暇だしね」

 その間に、国王陛下に色々と聞いてきてくれると言っていた。

「し、しかし……」

「じゃあ、相手してくれるかな?」

 木刀を放り投げ、もう一つを構える。

「は、はい!」

 二人で木刀を構える。

「……へぇ、やりますね」

 槍を使う人だけど、木刀でも構えが様になっている。

「多少ですが、カイゼル殿に仕込まれましたからね。弟子にはしないが、アレス様の足手纏いになるのは困ると」

「そういえば、オルガと一緒に鍛錬してたね——」

 言い終わる前に駆け出し、下から木刀を叩きつける!

「くっ!? 速い……! でも、負けませんぞ!」

 ダインさんは身長も高く大柄な方だ。
 その一振りを避けるたびに、ブォンという音と共に風を感じる。

「おっと……」

「あ、当たらない……!」

 上から下から横からと攻撃を繰り出されるが、それらを足捌きと身体の捻りのみで躱す。
 最小限の動きで躱すことで、体力温存と——カウンターを仕掛けることができる。

「セァ!」

 上段から振り下ろされた木刀を左に躱し……。
 地面について勢いがなくなった木刀を逆袈裟に叩く!

「くっ!?」

 カランカランと音を立て、ダインさんの手から木刀が離れる。

「お見事なのじゃ!」

「うーん、やりますね」

 それまで黙っていた二人が、話しかけてくる。
 気づいてはいたが、さっきはこっちに集中することにした。

「ありがとうございます。まだまだ未熟者ですが」

「イテテ……アレス様、もう一回よろしいですか?」

 再び、木刀を構えたダインさんの目からは闘志が伺える。

「ええ、もちろんです」

「では——フッ!」

 両手持ちに切り換えて、速さと威力を上げる方向できたか。

「でも——甘いよ」

 両手持ちということは、剣筋が分かりやすいということだ。
 片手と違い、自由自在とはいかない。
 来る方向さえ分かっていれば、避けることは難しくない。

「あ、当たらない……!」

「ダインさんは正統派すぎ——おっと」

 横から来たナイフを、魔力を込めた右手で受け止める。

「むぅ……これを防ぎますか~」

「なるほど、見かけないと思ったら……これを狙っていたのか」

「隙あり!」

「残念ながら」

 右手を弾き、一歩下がることで、攻撃を躱す。

「よし、二人同時にかかってきてくれ。そうじゃないと鍛錬にならない。あっ、これを日課にすれば良いのか」

「むぅ……かっちーん。ダインさん、やりましょう」

「そうですな。流石の俺も、かっちーんですよ」

「では——いつでもどうぞ」

 こうして、俺の新たな日々が始まった。




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