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青年期~前編~

カグラとデート

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 さて、皆が去ったのはいいが……。

 あれって、そういう意味だよな?

 娘をよろしくって顔してたし……。

 ここは、俺が察してあげるべきだな。



「あ、あの、アレス様……」

「カグラ、デートしようか?  ついでに、都市の中を案内してくれるかい?」

「は、はいっ! えへへ……誘ってもらえたのだ」

 どうやら、正解だったようだ。
 これでもかというほどの笑顔だ。
 俺はきっと、このギャップにやられたのかも。
 あと、俺にしか見せないことも……。


 二人で手を繋いで、都市の中を歩いていく。

「なるほど、そのようなことがあったのですね」

「ああ、俺も驚いたよ」

「ルーン家も、色々と複雑みたいですから。彼女は次女で、後継と見なされているのは長女のローラ嬢だったはずです」

「へぇ、そうなんだ。俺は立場上、貴族との付き合いはないから、カグラがいてくれて助かるよ」

「は、はいっ! 拙者でよければ何なりと! えっと、あとは……優秀な人だとは聞いていますが、アレス様にアスナ嬢をつけたということは……もしかしたら、それすらも偽装かもしれないですね」

「なるほど、俺につくというからには一番優秀な人材を送るか」

「ええ、相手はアレス様に評価して欲しいということですから」

「そっか、ありがとう。おかげで少し整理ができたよ。なにせ、色々急だったものだから」

「いえっ! えへへ、勉強した甲斐があったのだ」

 可愛いな、おい。
 こう……何というか、ムズムズする。
 俺のためにやってくれたんだなと思うと……嬉しくなるな。


「よし、この話はここで終わりにしよう」

「へっ?」

「折角のデートだしね。カグラは、ここでどんな風に育ったんだい?」

 今度は俺の番だ、カグラを楽しませないとね。

「あっ——あ、あのですねっ! あそこで父上と母上と遊んでて……」

 俺は楽しそうに話すカグラにほっこりしつつ、都市の中を歩いていく。

 ただ……思い出話なのに、一度も兄の話が出ないことが気になった。






 そして、日が暮れ始める。

「もう、こんな時間ですか」

「大丈夫さ、二週間はいる予定だから」

 本当なら、もっといる予定だったけどね。
 しかし、これでも引き伸ばした方だ。

「うぅー……何なのだっ!」

「カグラ……」

「アレス様は何も悪いことしてないのにっ!」

「ありがとう、カグラ。少し、あっちに行ってみようか」

 カグラの手を引き、ひと気の少ない丘に登っていく。

「あっ——ここは」

「うん?」

「い、いや、昔来たことがあったので……」

「そっか……カグラ、君がいつも怒ってくれること嬉しく思う」

「だって、アレス様が怒らないから……」

「はは……俺はね、皆が仲良く出来ればいいと思っているんだ。もちろん、降りかかる火の粉を振り払うことに躊躇はない。そのために大切な人を守ることも、最強を目指すことも。でも、自らが進んで争いをする気は無いんだ」

「ええ、わかっております……」

「一部の人たちから、日和見主義とか情けないとか言われてることも知ってる」

「……はい」

「でも、俺が我慢することで丸く収まるなら良いと思っているんだ。ごめんね、情けなくて」

「そ、そんなことはありませんっ! 拙者は、強くて優しい貴方を好きになったのです!」

「カグラ……」

「本当の強さとは誇示する武力では無いと、アレス様が教えてくれましたっ! それを持ちつつも、それを制御できる者が本当に強い人だと!」

「ありがとう、カグラ。ただ、できてるとは言えないんだけどね」

「そうなのですか?」

「そりゃ、そうさ。大切な人……カグラとかが危険な目にあえば、俺は躊躇いなく剣を取るだろうし。色々と中途半端なのは、自分でもわかってるんだ。だから、中途半端に目をつけられる……難しいね」

 そう、口では目立ちたく無いとか言っているが……。
 最強を目指したり、下位貴族や民の生活を改善しようとしている。
 矛盾していることは自覚している。
 ただ……どうしても、許せないことはある。

「せ、拙者も同じです。アレス様が目立ちたく無いことは知ってるのに……それを嫌だと思う自分がいるんです! 拙者の好きな人はすごい人なんだ! 拙者の仕える主人は立派な方なんだっ!って言いたいんです」

「そっか、すまないね」

「謝るのは拙者の方です! 今回だって、拙者が無理を言って祝ってもらったのです……」

 そうか、あの民衆はカグラの希望だったのか。

「いや、それくらいは平気だよ。というか、カグラと婚約すると決めた時からある程度は覚悟はしてたし」

「ほっ……そ、それなら良かったのだ」

「一応立ち回りつつ、自分の確固たる地位を確立する予定ではあるから。こんなに可愛くて良い子なカグラが、こんな男に捕まったと言われないくらいにはね」

「はぅ……ま、待ってます」

「というか、じゃないと……領民に殺されそうだよ」

「ふふ……それは言えてるのだ。拙者、領民には好かれているので」

「おや? ここにも好いている人がいるけど?」

「へっ? ……あ、あの、その、えっと……」

 俺は意外とこういう奴だったのか。
 あわあわしてるところを見るのは……意外と楽しい。

「さて、どうしようかな? 婚約者さん?」

「うぅ……意地悪なのだぁ……」

「ごめんごめん。じゃあ、行こっか」

「あ、あのっ!」

 俺が手を引こうとすると、カグラに逆に引かれる。
 結果草むらに倒れ込み、至近距離で見つめ合うことになる。

「きゃっ!?」

 カグラから聞いたことない声がする。
 どうしよう、めちゃくちゃドキドキする。

「ご、ごめんね、すぐに退くから」

 しかし、手を強く掴まれてしまう。

「カグラ?」

「セ、セレナとはしましたか?」

「へっ?」

「そ、その……口づけを」

「う、うん……まあ」

「なら、拙者にも……」

 顔を真っ赤にしながら、そんなセリフを言う。
 しかも全身をガチガチにしながら……。

「クク……」

「わ、笑いました!? ひどいですよぉ~!」

「ごめんごめん、つい可愛くてさ」

「へっ?」

 これ以上、恥をかかせるわけにはいかないな。
 怖がらせないよう、痛がらせないように——触れるか触れないくらいのキスをする。

「あ——あぅぅ……!」

「さあ、起き上がろうか? 愛しの婚約者殿」

「ず、ずるいのです……」

 どうやら、俺はカグラが恥じらうのが好きらしい。

 きっと、俺だけにしか見せない顔だからだろう。

 普段の凛々しい感じも、たまに抜けてるところも……。

 こういう風に照れてるところも可愛いと思う。

 何より……この子のために頑張ろうと思える。

 しっかりと、自分の基盤を築いていかないとね。

 カグラが誇れる俺であるために……。
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